回復期リハビリテーション病棟適応の明確化

 昨日触れた、m3.com全国回復期リハ協 回復期リハ病棟入院料の算定は施設単位で実施 回復期リハ病棟入院料1と2の混在算定認めずより、記事の最後の部分を引用する。

  そのほか石川会長は、今後のリハ医療では、回復期リハ病棟と医療療養病床のリハ目的の入院に対する適応を明確化する必要があるとの見方も示した。その理由として、医療療養病床から回復期リハ病床への移行が、今後も徐々に進むと予測されることを挙げ、リハ入院の適応目安の策定が必要としている。


 診療報酬規定より、回復期リハビリテーション病棟適応に関係する部分を引用する。

 回復期リハビリテーション病棟は、脳血管疾患又は大腿骨頚部骨折等の患者に対して、ADL向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に行うための病棟であり、回復期リハビリテーションを要する状態の患者が常時8割以上入院している病棟をいう。なお、リハビリテーションの実施に当たっては、医師は定期的な機能検査等をもとに、その効果判定を行いリハビリテーション実施計画を作成する必要がある。


 日常生活機能評価(看護必要度)研修会では、「回復期リハビリテーション病棟は、ADL回復と家庭復帰が目的である。したがって、今回の診療報酬改定における質の評価にあたっては、この2つは効果判定上はずせない。」と強調されている。当然のことながら、ADL回復ないし家庭復帰が達成できそうな患者が入院の適応となる。表にまとめる。

家庭復帰可能 家庭復帰困難
ADL回復可能   ◎     △  
ADL回復困難   △     ×  


 ADL回復可能で家庭復帰可能な場合には、絶対的適応となる。ADL回復可能でも家族介護力がない等の理由で家庭復帰困難な場合、また、ADL回復困難でも退院調整目的の場合には、ベッドに余裕があれば入院できる。一方、両者とも困難な場合には、初めから適応とならない。


 当院回復期リハビリテーション病棟適応は以下のとおりである。

家庭復帰可能 家庭復帰困難
ADL回復可能   ◎     ◯  
ADL回復困難   ◯     △  

 ADL回復可能で家庭復帰可能な場合には、絶対的適応となる。ADL回復可能でも家族介護力がない等の理由で家庭復帰困難な場合、また、ADL回復困難でも退院調整目的の場合でも、可能な限り入院適応とする。さすがに、両者とも困難な場合には、お断りする場合が多い。しかし、その場合でも、適応外と断ったことが正しかったかどうかいつも自問している。若年の場合や、クモ膜下出血・頭部外傷など回復まで時間がかかる可能性のある患者の場合には、重症度が高く、家族介護力がない場合でも、いったんは受入れるようにしている。


 療養病棟リハビリテーションを行う場合は、次のような適応を推定していると予測する。

家庭復帰可能 家庭復帰困難
ADL回復可能   ×     ◯  
ADL回復困難   △     ◎  


 厳格に適応を決めている回復期リハビリテーション病棟とちょうど逆となる。家庭復帰困難な患者が主な対象となる。「回復期リハ病棟と医療療養病床のリハ目的の入院に対する適応を明確化する」という発言には、棲み分け可能という判断が働いているのだろう。しかし、このような思惑は既に困難となっている。


 療養病棟入院料は、2006年度診療報酬改定で大幅に引き下げられた。医療度が高い医療区分3でないと経営が成り立たなくなっている。さらに、今回の診療報酬改定でさらに点数が引き下げられた。

医療区分1 医療区分2 医療区分3
ADL区分3  885点  1,320点  1,709点
ADL区分2  750点  1,320点  1,709点
ADL区分1  750点  1,198点  1,709点

 医療区分1(ADL区分1、2)の診療報酬7,500円は、回復期リハビリテーション病棟入院料Iの半分以下となる。ちょっとしたビジネスホテルより安い。医療経営上、医療療養病床でリハビリテーションを継続することは非現実的である。医療療養病棟は医療処置が必要な長期入院患者用に特化されてきている。


 さらに、今回の診療報酬改定では、障害者施設等病棟対象から脳卒中の後遺症が除外された。詳細は、中医協答申−特殊疾患療養病棟等の役割に着目した見直しをご覧いただきたい。この結果、障害者施設等病棟で、脳卒中後遺症患者のリハビリテーションを行うことが事実上不可能となった。


 回復期リハビリテーション病棟の適応を厳格にし、適応外患者の受け皿として、医療療養病棟や障害者施設等病棟を利用するという想定はもはや成り立たない。回復期リハビリテーション病棟を利用できなければ、集中的で時間がかかる患者のリハビリテーション医療の提供ができない時代が到来している。「回復期リハ病棟と医療療養病床のリハ目的の入院に対する適応を明確化する」という提言は現実味に欠ける。