3種類の廃用症候群

 廃用症候群には、大きく分けて3つの種類がある。

  • 脳血管疾患や整形外科疾患など運動器障害に伴うもの
  • 閉じこもり型
  • 診療報酬に規定される「治療後の廃用症候群


 脳血管疾患や整形外科疾患など運動器障害では、廃用症候群を生じやすく、早期リハビリテーションの必要性が繰り返し強調されている。「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」IV 高齢者リハビリテーションの基本的な考え方では、脳卒中モデルという形で廃用症候群対策を示している。


 図に示されているように、急性発症した時点で、生活機能が低下する。低活動状態と廃用症候群の悪循環予防のために、急性期リハビリテーションが施行される。集中した回復期リハビリテーションを行い、廃用症候群の悪循環から抜け出し良循環へと導く。
 納得できる説明であり、リハビリテーション医療に関わる職種は、この種の廃用症候群対策の重要性を熟知している。


 閉じこもり型廃用症候群に関しては、「高齢者リハビリテーションのあるべき方向」では、廃用症候群モデルという表現で提起を行っている。


 本図で、生活機能低下予防と記載されている最初のなだらかな下り坂が、閉じこもり型廃用症候群を示している。この部分の対策として、介護予防事業の重要性が叫ばれ、介護保険法見直しに結びついた。
 この図で一番目立つのが、急激な生活機能低下の部分である。この部分が、診療報酬に規定される「治療後の廃用症候群」である。


 「治療後の廃用症候群」は、脳血管疾患等リハビリテーション料と回復期リハビリテーション病棟入院料に関係している。


 脳血管疾患等リハビリテーション料では、次のような記載となっている。

別表第九の五: 脳血管疾患等リハビリテーション料の対象患者 より

 外科手術又は肺炎等の治療時の安静による廃用症候群その他のリハビリテーションを要する状態の患者であって、 一定程度以上の基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力及び日常生活能力の低下を来している患者


第7部 リハビリテーション<通則>より


 リハビリテーションを要する状態の患者であって、 一定程度以上の基本動作能力、応用動作能力、言語聴覚能力及び日常生活能力の低下を来している患者とは、外科手術又は肺炎等の治療時の安静による廃用症候群脳性麻痺等に伴う先天性の発達障害等の患者であって、治療時のFIM 115以下、BI 85以下の状態等のものをいう。


 回復期リハビリテーション病棟入院料では、次のような記載となっている。

別表第九 回復期リハビリテーションを要する状態及び算定上限日数


三 外科手術又は肺炎等の治療時の安静により廃用症候群を有しており、手術後又は発症後の状態(手術後又は発症後二ヶ月以内に回復期リハビリテーション病棟入院料の算定が開始されたものに限る。)(算定開始日から起算して九十日以内)


 厚労省は、開胸術や開腹術などの侵襲が大きい手術、臓器不全などの治療後に廃用症候群が起こると考えていた。しかし、高齢者、要介護者、認知症がある者、併存疾患が多い者では比較的軽症の疾患でも廃用症候群をきたすことが多い。この種の「治療後の廃用症候群」に対し、意識的にリハビリテーションを行っているかという視点でみると、現状は不十分だろうと推測している。


 当院で、「治療後の廃用症候群」に対し、意識的にリハビリテーションを行っている。患者内訳を示す。


 厚労省の日常生活自立度が正常−Iで、痴呆度(認知症度)が正常である者は、対象患者のうち13.4%に過ぎなかった。劇的な効果があった者もいた。入院前より生活機能が向上し、自宅退院した者もいた。一方、治療効果が乏しいものも少なくなかった。もともと屋内歩行レベル以上だった者のうち、最終的に歩行が可能となったのは約半数だった。
 病前の移動能力や認知機能がリハビリテーション効果に影響していた。そして、病状悪化に伴うリハビリテーションの中断・終了があったかどうかも、最終的な自立度に関係していた。


 閉じこもり型廃用症候群と「治療後の廃用症候群」両者への対策として、下図のような対策を考えた。


 地域、入院時、いずれにおいてもリハビリテーションマネジメントが必要である。目の前にいる方が、なぜ介護や支援を必要とするようになったかを評価し、運動機能や認知機能低下に伴う廃用症候群予防対策を立てる。
 地域では、下肢機能低下から閉じこもり型廃用症候群の悪循環を起こす。通所施設利用を勧め、歩行や階段昇降訓練など下肢機能強化型のサービスを提供する。入院では、何はともあれ、全身状態を安定させることが、リハビリテーション医療を提供するうえで重要である。両者に共通するのが認知機能低下者への取組みである。


 「治療後の廃用症候群」が乱用されると、診療報酬上の規定から削除される可能性がある。高齢者、要介護者、認知症がある者、併存疾患が多い方の要介護状態が悪化しないように、「治療後の廃用症候群」に関する規定を運用していくことが求められている。