2010年度診療報酬改定(リハビリテーション部門)の要点
福岡で行われた研究会の時に用いた資料をネット上にアップする。
2010年度診療報酬改定(リハビリテーション部門)の要点は以下のとおりである。
1.疾患別リハビリテーション料等
- 脳血管疾患等リハビリテーション料(I、II)、運動器リハビリテーション料(I)の引き上げ。
- 早期加算の引き上げ。
- 廃用症候群に対する書類記載の厳格化。
- 心大血管リハビリテーション料施設要件緩和。
- がん患者リハビリテーション料の新設。
2.後方連携強化
3.明細書発行義務化
4.回復期リハビリテーション病棟入院料等
1.疾患別リハビリテーション料の改定
疾患別リハビリテーション料に関し変更された点は、以下の4点である。
1)脳血管疾患リハビリテーション料
廃用症候群以外と廃用症候群を分け、前者を引き上げた。廃用症候群に係る評価表が変更された。
2)運動器リハビリテーション料
運動器リハビリテーション料(I)が新設され、引き上げられた。一方、改定前の運動器リハビリテーション料(I)は(II)となり、引き下げられた。
運動器リハビリテーション料(I)は、入院中の患者のみが対象となり、人員配置基準は、「専従の常勤理学療法士又は専従の常勤作業療法士が合わせて4名以上勤務していること」となった。
3)心大血管リハビリテーション料
心大血管疾患リハビリテーション(I)の施設基準が緩和された。循環器科又は心臓血管外科の医師は、心臓血管疾患リハビリテーションを実施している時間帯においてのみ常時勤務ということになった。また、理学療法士又は看護師の専従要件や施設基準も緩和された。
4)早期リハビリテーション加算の引き上げ
- 早期リハビリテーション加算30点 → 45点(1単位につき)
廃用症候群の対象は、「外科手術又は肺炎等の治療時の安静による廃用症候群の患者であって、治療開始時において、FIM 15以下、BI 85以下の状態等のものをいう。」である。
「廃用症候群に係る評価表」は、ADL評価を中心とした内容に変更された。FIMやBIで捉えられない変化、例えば、嚥下障害の状態や起居動作介助量(介助者数の変化)しか期待できない患者に対して、リハビリテーションを施行しにくくなった。
また、「廃用症候群に係る実績報告書」の中に、廃用をもたらすにいたった要因を第1位から第3位まで記載する義務が生じた。厚労省は、精神的圧迫をかけ、廃用症候群の乱用を防ごうとしている。
がん患者リハビリテーション料が新設された。
2.後方連携強化
急性期治療を行う医療機関、回復期等医療機関に加え、老健や通所リハビリテーションなどの介護施設、200床未満の病院、診療所との連携推進が求められるようになった。
3.明細書発行義務化
正当な理由のない限り、原則として明細書を無料で発行することになった。リハビリテーション部門でも、診療報酬に関する丁寧な説明が求められることになった。
4.回復期リハビリテーション病棟入院料
回復期リハビリテーション病棟入院料1、2とも点数が引き上げられた。
いずれにおいても、「回復期リハビリテーションを要する状態の患者に対し、1人1日あたり2単位以上のリハビリテーションが行われていること」という文言が加わった。また、入院料1においては、重症患者率は1割5分から2割に引き上げられた。
加算要件は次の3種類となった。
回復期リハビリテーション病棟入院料等の施設要件をまとめると、次のようになる。
# ストラクチャー
# アウトカム
- 回復期リハビリテーション病棟入院料Iの在宅復帰率(6割以上)
- 重症患者率(15→20%)、重症患者回復病棟加算(日常生活機能評価3点以上30%以上)
# プロセス
- リハビリテーション総合実施計画評価料
# ストラクチャー −リハビリテーション提供単位数に関する要件の意味−
中医協で、回復期リハビリテーション病棟に関する検証作業が行われた。その中で、リハビリテーション提供単位数とADL指標の改善度が関係することが示された。脳卒中治療ガイドライン2009でも、訓練量とリハビリテーション効果との間に関係があるというエビデンスが示されている。
リハビリテーション充実加算は、「回復期リハビリテーションを要する状態の患者に対し、1人1日あたり6単位以上のリハビリテーションが行われていること」が算定要件である。この要件のハードルはかなり高い。実質的に病床数2床に対し1名の配置が求められる。
休日リハビリテーション提供体制加算においても、平均1日2単位以上の実施が求められる。また、「専従の常勤理学療法士又は専従の常勤作業療法士のうち1名以上がいずれの日においても配置されていること」という要件も加わっている。
# アウトカム −成果主義に対する考え方−
多数のスタッフを抱え、リハ適応のある患者に対し、濃密なサービスを提供する病棟に対し診療報酬を手厚くすることを関係団体は要望していた。しかし、2008年度、回復期リハビリテーション病棟に導入された成果主義は、いびつなものであった。患者を選別すれば、「質の向上」なしでも、在宅復帰率や重症患者改善率を上げることは可能である。また、臨床指標として用いられている日常生活機能評価は、リハビリテーションの質とは全く無縁である。
アウトカム数値達成にとらわれることなく、ストラクチャーやプロセスの改善を進めることが求められる。
# プロセス ‐チーム医療を重視した病棟運営の徹底‐
回復期リハビリテーション病棟は、チーム医療との親和性が高い。特に、多職種間の相互乗り入れで包括的治療を行うTransdisciplinary Team Modelの考え方が重要である。
【まとめ】
リハビリテーション分野に関していうと、2010年度診療報酬改定は2006年度、2008年度と比し小幅の改定である。疾患別リハビリテーション料算定日数上限、回復期リハビリテーション病棟入院料への成果主義導入など、この間大問題となった部分は既成事実として残されたままである。
多数のスタッフを抱え、リハビリテーション適応のある患者に対し、濃密なサービスを提供する病棟に対し診療報酬を手厚くすることを関係団体は要望している(ストラクチャー、プロセスの評価) 。成果主義導入(アウトカムの評価)は、その要望がいびつな形で具体化されたものだった。今回、中医協で検証作業が行われる中で、ストラクチャーの評価がなされ、疾患別リハビリテーション料や回復期リハビリテーション病棟入院料引き上げ、休日加算、充実加算新設につながった。
回復期リハビリテーション病棟の質の向上と経営改善のためには、マンパワーの確保、地域連携の推進、チーム医療の成熟、安全で活動的な病棟づくりが求められる。何よりも民主的集団医療の核となる医師のリーダーシップの発揮が求められる。