Transdisciplinary Team Model(相互乗り入れチームモデル)
リハビリテーション医学は、ニーズ指向型の医学である。その特性から、多職種間の相互乗り入れで包括的治療を行うTransdisciplinary Team Model(相互乗り入れチームモデル)が有効であると言われている。
チームアプローチの形態としては、次の3つがある。
- Multidisciplinary Team Model(多職種チームモデル)
- Interdisciplinary Team Model(相互関係チームモデル)
- Transdisciplinary Team Model(相互乗り入れチームモデル)
(1)Multidisciplinary Team Model(多職種チームモデル)
総合病院における各科の関係のようなものである。
医師と他職種との間で情報交換や協調を行うが、他職種との議論は最小限である。主治医の責任が明確であり、運営は効率的である。他職種間の横の意見交換が少ない。
(2)Interdisciplinary Team Model(相互関係チームモデル)
通常のリハビリテーションチームに見られるチーム形態である。
職種間で定期的な意思疎通が行われる。ただし、医療者の個々の役割・機能は決まっている。患者の状態にあわせて、対応する職種が決まる。
(3)Transdisciplinary Team Model(相互乗り入れチームモデル)
意見交換ばかりでなく、多職種間の相互乗り入れで治療を行う。
患者の必要性がまず存在し(目標指向性) 、その必要性をそこに存在する医療者で区分して担当する。医療者は状況に応じて役割が変動する。包括的治療を行う場合に有効と言われている。
摂食・嚥下障害に対しては、Transdisciplinary Team Modelでの対応がしばしば行われている。困難事例では、嚥下造影などの評価を基に、食形態、体位、頚部肢位などの工夫をする。最初のうちは、言語聴覚士が注意深く直接的嚥下訓練を行い、安定した時点で看護師や介護福祉士に伝達する。逆に、段階的経口摂取訓練で大丈夫と思われた患者でも、病棟での注意深い観察の結果、精査が必要な者が見つかることがある。看護師・介護福祉士、ST、栄養士、医師など多職種が協同作業が成果に深く関わる。
一方、起居移動動作や身の回り動作訓練に関しては、専門性を過度に主張することによる弊害をしばしば耳にする。例えば、次のような主張をするPTもいる。
「下肢機能向上は、PTの仕事である。OTやSTは口を出さないように。まして、病棟で立ち上がり訓練を行うなど論外。変な癖がついたらどうなるんだ。」
専門職の独自性(identity)は、柔軟性をもって初めて成熟したものとなる。各専門職が各職種独特の核となる知識・技術を超えて幅広い共通の基本的機能を有する必要がある。高い水準の学習能力と高いコミュニケーション能力が求められる。
下肢機能向上に関して、Transdisciplinary Team Model(相互乗り入れチームモデル)では、次のような方法で解決を図る。
「下肢機能向上は、回復期リハビリテーション病棟の基本的課題である。PTだけでなく、OTやSTでも意識的に関わる必要がある。リハビリテーション室までの送迎は、実用的歩行訓練と考え、療法士が担当する。病棟での移動もできる限り、車椅子を使用せず、介助歩行で行う。病棟訓練としても立ち上がり・歩行訓練を行う。担当者が異なった方法で行うと、患者が混乱する。運動学習の観点から各職種間で方法を統一する。難しい例では療法士が訓練方法を伝達して実施する。」
Transdisciplinary Team Model(相互乗り入れチームモデル)を目指し、あちこちの回復期リハビリテーション病棟で様々な工夫がなされている。
- 病室と訓練室を近接させ、空間を共有する。
- 電子カルテを導入し、情報を共有する。
- カンファレンスを重視し、目標と方針を明確にする。
- 病棟申し送りに療法士が参加する。
- 療法士が病棟スタッフの一員となり行動する。
- 定期的なカンファレンス以外にも課題が生じた段階で担当者同士が集まって協議をする(軒下カンファレンス)。
- 職種横断的な課題別チームを作り、運営の刷新を定期的に行う。
- 職種持ち回りで学習会を行う。
職能別組織とチーム医療に基づく組織が相互に影響しあいながら、病棟の質が少しずつ向上していく。医師のリーダーシップ発揮がここで問われることになる。