リハビリテーション栄養ハンドブック

 先週末に横浜で行われたhttp://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~rehasen5/index.htmlに参加した。専門医のニーズに焦点をあわせた内容であり、濃密な2日間を過ごした。学術集会を主催された菊池尚久先生はじめ横浜市大科リハビリテーション科の先生方にあらためて感謝を申し上げたい。


 学術集会の中で最も反響を集めたのは、横浜市大附属市民総合医療センターリハ科若林秀隆先生の教育研修講演「リハビリテーションと臨床栄養―栄養ケアがリハを変える」であったと、私は感じた。
 若林先生のブログ、リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症): 第5回リハビリテーション科専門医会学術集会報告を読むと、次のような記載がある。

 「リハビリテーション栄養ハンドブック」は書籍コーナーに50冊も山積みになっていて、2日間山積みのままだったらどうしよう…と思っていましたが、なんと初日のうちに完売しました。今日も新たに30冊用意されていましたが、これもほとんど完売しました。今回の学会参加者が約700人でしたので、単純計算で1割以上の方に購入していただけたということになります。本当に予期せぬことで、とても嬉しかったです。購入して下さった皆様、どうもありがとうございました。



 私も、教育研修講演後午後のセッションが始まる前に書籍コーナーに行ったが、残り2冊となっていたためあわてて購入した。現物がなくなったために、予約をして取り寄せてもらった参加者もいた。講演のインパクトが如何に強かったかがよくわかる。


 NST(Nutrition Support Team、栄養サポートチーム)が医療の質向上に貢献することが知られている。日本でもその重要性が認識され、診療報酬や介護報酬で加算が新たに設けられたこともあり、急速に関心が高まっている。リハビリテーション分野でも摂食嚥下リハビリテーションとの親和性が高く、積極的に取り組まれるようになっている。
 しかし、栄養管理自体が、リハビリテーションの主要目標である運動機能改善にどのように影響するかを詳細に論じた成書はほとんどない。また、NSTは病院全体を活動範囲としているため、個々の患者の栄養管理までは到底手が回らない。
 「リハビリテーション栄養ハンドブック」では、サルコペニア(骨格筋減少症、筋肉減少症)の評価と介入に力を入れている。サルコペニアの原因には、加齢、活動、疾患、栄養がある。飢餓状態で運動療法を行っても、栄養管理が不十分なら筋肉量はかえって減少し、ADLも低下したままとなる。栄養管理が不十分なことが機能悪化の原因であることを、主治医が気づかないまま放置しているおそれがある。おそらく、専門医学術集会参加者も同じ思いを抱いたため、危機感から本書の購入をしたのではないかと推測する。


 自分でも、回復期リハビリテーション病棟患者の栄養管理に問題がないかを急いでチェックしてみた。著しい体重減少、血清アルブミン値低値などの問題があった患者は、概ね病棟患者の2〜3割だった。大別すると、次の3群になった。

  • 摂食嚥下障害者
  • 食事嗜好を理由とし食事量が減少している者
  • 併存疾患が影響してる者


 摂食嚥下障害者に対しては、栄養管理面での慎重な対応がシステムとして確立している。主栄養管理ルートを経口摂取とするか、経管栄養とするか、静脈栄養とするかを決める。その上で、必要栄養摂取量を計算し投与している。段階的経口摂取訓練中で、経口摂取での栄養が不十分な者に対する補助栄養に最も気を使う。
 食事嗜好を理由とし食事量が減少している者も少なからずいる。特に治療食として塩分制限、カロリー制限をしている者に多い。転院時点で、著しい体重減少、血清アルブミン値低値に陥っている者もいる。脳血管障害再発予防よりは、栄養摂取の方が重要と考え、食事制限の緩和を行う必要もある。場合により、降圧剤、経口血糖降下剤やインスリンなどの新たな投与も行うことも検討する。
 併存疾患の影響が難物である。繰り返す誤嚥性肺炎や尿路感染症、慢性呼吸不全、慢性腎不全などがあると、積極的な運動療法はできず、機能維持が目標となってしまっている。この群に対する栄養管理が当院の改善すべき点である。


 「リハビリテーション栄養ハンドブック」を病棟において、何かあった時に参考に使う方針とした。栄養管理を具体的にどのように行って良いか悩んでいるリハビリテーション医療関係者に、ぜひとも本書を読んでいただきたいと願っている。