回復期リハビリテーション病棟急増の背景ほか
久しぶりに回復期リハビリテーション病棟関係のニュースが届いた。m3ニュース(2008年6月23日)より。
全国回復期リハ連絡協/回復期リハ病棟入院料1 5月時点で96施設が算定 回復期リハ病棟の質評価に迅速対応
記事:Japan Medicine
提供:じほう
【2008年6月23日】
2008年度診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟に質の評価が試行的に導入され、5月1日時点で質が評価された施設が算定する回復期リハビリテーション病棟入院料1(1690点)を届け出・算定している施設が、96病院に上ることが、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会(会長=石川誠・初台リハビリテーション病院理事長)の中間集計で分かった。厚生労働省は、9月30日まで改定前の入院料(1680点)の算定が可能な経過措置を取っているが、医療現場では、急性期病院を中心に迅速な対応となっている。
●回復期リハ病床は5万床の時代へ
今回の回復期リハビリテーション病棟の質の評価の試行は、診療のアウトカムを診療報酬として評価する新たな試みだ。
具体的な回復期リハビリテーション病棟の質的評価は、改定前の回復期リハビリテーション病棟入院料・1680点が、改定後には、同入院料1・1690点と、同入院料2・1595点に層別化された。同入院料1については、新たな要件として<1>当該病棟の新規入院患者のうち1割5分以上が重症患者であること<2>退院患者のうち在宅復帰が6割以上であること-を追加。さらに重症患者回復病棟加算が加われば、1日につき50点が上乗せされる。ただし、経過措置として、同入院料2の低い点数算定施設では、9月末までを期限として、改定前の1680点を算定できる仕組みだ。
そこで、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会は、回復期リハビリテーション病棟の5月1日時点の届け出状況について全国調査を進めている。18日時点では、47都道府県の社会保険事務局のうち約8割の回答を得た。
その結果、回復期リハビリテーション病棟入院料1の算定は96病院、同入院料2が552病院だった。病棟単位では1000病棟を超す見通しだ。回復期リハビリテーション病床数で見ると約4万6000床。残り約2割の調査結果が追加されれば、回復期リハビリテーションの病床数は5万床の時代に突入する見通しだ。
●入院料2の届け出は552施設 入院料1への移行も
回復期リハビリテーション病棟入院料2を届け出ている552施設は、直近6カ月のデータがまとまれば、同入院料1の算定に移行することが可能なため、同協議会では、10月に向けて同入院料2から同入院料1へのアップも進むとみている。
石川会長は、「まだ中間集計だが、急性期病院が入院基本料7対1の算定要件の看護必要度調査とともに、急性期病院における回復期リハ病棟の日常生活機能評価への対応を進めたことが算定につながっているのではないか」とみている。回復期リハビリテーション5万床時代への見通しがついたことについて石川会長は、今回の診療報酬改定で医師の専従配置要件を外し、基準を緩和したことが回復期リハ病床の増加につながったと分析している。
ただ石川会長は、診療行為の質をアップして重症患者の受け入れを積極的に進め在宅復帰率を高めるためには、マンパワーを充実させることが必要だと指摘。回復期リハビリテーション病床数が増加していく中で、同入院料1を算定する病棟が看護・介護スタッフおよびリハスタッフ(言語聴覚士・社会福祉士を含む)の投入をおざなりにしていけば、リハ医療の将来に禍根を残すのではないかと懸念を示した。その点からも同協議会では、今後も、アウトカムとプロセス両面から質的向上を求めていく考えだ。
●地域連携診療計画で定着した看護必要度の概念
さらに今回の改定では、地域連携診療計画退院時指導料を算定する場合、急性期病院の入院基本料7:1の看護必要度B項目は7項目で、日常生活機能評価(いわゆる看護必要度)の13項目とは異なるため、情報提供ができないのではないかとの懸念が示されていた。厚労省は地域連携診療計画退院時指導料を算定する場合には、7:1看護の急性期病棟から、回復期リハ病棟に転院する患者に関して、退院時には日常生活機能評価の13 項目をチェックしなければならない-との解釈を示している。
こうした点からも、地域連携パスの受け皿ともなる回復期リハビリテーション病棟では、日常生活機能評価が、急性期病院との1つの連携ツールとして位置付けられ、質の評価への取り組みを円滑にしている側面が垣間見れる。
ADL的リハ、6単位上限の例外規定も評価
5月30日付の通知で厚労省保険局医療課は、厚労大臣が定める場所であれば、1日6単位までの規定が、9単位まで実施できる措置を取る考えを示した。通知の意義について石川会長は、「ADL加算が排除されたが、病棟ADLを実施すれば9単位提供できることは患者にとってメリットが高い。特に小児に対するリハサービスにおいて効果的と考えられる」と評価している。
一方、08年度診療報酬改定では、特殊疾患病棟入院料と障害者施設等入院基本料の算定要件だった「重度の肢体不自由児(者)または脊髄損傷等の重度障害者」から、脳卒中患者らが10月から除外されることになった。医療現場から批判も出ているが、石川会長は概念としては間違った方向ではないとの見方を示している。
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ネタ元の記事に不満が残る。貴重なデータを示しているが、分析力に問題がある。石川誠会長の意見を不十分な形で紹介するだけに留まっており、自分で判断しようとしていない。仕方がないので、推測を交えながら記事の内容を解釈する。
(1)病棟数、病床数推移について
全国回復期リハビリテーション病院協議会ホームページ内に、病棟数・病床数資料がある。年度毎病床届け出数・累計数と年度毎病棟届け出数・累計数を用い、表を作成した。その上で、記事にあるデータを追加した。なお、ホームページには、2008年5月との記載があるが、データ自体は2007年11月時点と変化がない。まもなく、データが追加されると推測する。
病床届出数 | 病床数累計 | 病棟数累計 | |
---|---|---|---|
2000年度 | 3,645 | 3,645 | 71 |
2001年度 | 4,103 | 7,748 | 157 |
2002年度 | 7,297 | 15.045 | 314 |
2003年度 | 8,399 | 23,444 | 500 |
2004年度 | 4,462 | 27,906 | 601 |
2005年度 | 2,761 | 30,667 | 664 |
2006年度 | 9,654 | 40,321 | 888 |
2007年11月 | 1,853 | 42,174 | 937 |
2008年5月 | ? | 46,000床+α | 1,000超 |
表をみて最も気づくことは、2006年度と比し、2008年度5月推計で病床数が6,000〜10,000床近く、病棟数も100以上増えていることである。この増加数は、2003年度、2006年度に匹敵する。2003年度は医療法に基づき、一般病棟と療養病棟の区分が明確化された。2006年度は療養病床入院料の大幅な引き下げが実行された。いずれも、国の医療制度に対応して、病床区分の変更を余儀なくされた年である。では、なぜ、2008年度になって回復期リハビリテーション病棟が増えているのだろう。
本来なら、どの病棟類型からの移行が多いか調査をしなければならないが、推測は可能である。障害者施設等病棟からの回復期リハビリテーション病棟への転換が増えたと予想する。「特殊疾患病棟入院料と障害者施設等入院基本料の算定要件だった「重度の肢体不自由児(者)または脊髄損傷等の重度障害者」から、脳卒中患者らが10月から除外されることになった。」ため、リハビリテーション病棟的性格をもった障害者施設等病棟が移行したと考える。
回復期リハビリテーション病棟急増の背景には、明らかに、厚労省の政策誘導がある。
(2)回復期リハビリテーション病棟入院料1算定状況
「回復期リハビリテーション病棟入院料1の算定は96病院、同入院料2が552病院だった。」との記載があるが、これは明らかに表現がおかしい。おそらく、入院料1以外は全て入院料2だろうと、記者が勝手に解釈したのだろう。2008年9月までは移行措置があり、以前の回復期リハビリテーション病棟入院料(1,680点)対象病棟に留まっているだけである。一方、新規参入病棟は、入院料2で請求せざるをえない。両者が異なっていることを理解していない。
回復期リハビリテーション病棟は、全体で700施設-1,000病棟-50,000床といったところが実態に近い。このうち約100施設が入院料1を既に算定している。大まかに計算すると、7施設に1施設の割合となる。これだけ診療報酬に違いがあれば、入院料1の方に雪崩を打つように移行するのも当たり前である。
医療の質は、ストラクチャー、プロセス、アウトカムで決まる。今回は、スタッフ数とチーム医療の充実というストラクチャーやプロセスとは全く無関係に、アウトカムだけで診療報酬が決まった。石川会長の言うとおり、「リハ医療の将来に禍根を残すのではないかと懸念」が強い。このことに関し、回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入に反対する意見も紹介すれば、記事に深みが出たはずだが、残念である。
(3)看護必要度、日常生活機能評価の定着
この件に関しては、看護必要度の弊害(まとめ)をご覧いただきたい。強制されたから、仕方なく実施しているだけであろう。様々な種類の看護必要度をとらされる労力を考えると、現場の看護スタッフが本当に気の毒である。
(4)ADL的リハ、6単位上限の例外規定も評価
「ADL加算が排除されたが、病棟ADLを実施すれば9単位提供できることは患者にとってメリットが高い。特に小児に対するリハサービスにおいて効果的と考えられる」という石川会長のコメントを拝見して、得心が行った。急性期や回復期のリハビリテーションだけを扱っていると気がつかない。同様に、神経難病の患者さんたちにとっても、意味がある解釈変更だったと考える。
(5)障害者施設等病棟の件
「医療現場から批判も出ているが、石川会長は概念としては間違った方向ではないとの見方を示している。」という表現では、流石の私でも論評ができない。記者のまとめる能力の問題としか言いようがない。
おそらく、障害者施設等病棟の見直し(まとめ)で私が述べたことと同じようなスタンスで、石川会長は発言したのではないかと推測する。
「脳卒中患者の行き場がない」 などのエントリーで、厚労省の政策を痛烈に批判した。結論部分をあらためて繰り返す。
回復期リハビリテーション病棟への成果主義の導入+療養病棟入院基本料引き下げ+障害者施設等病棟要件である重度の肢体不自由からの脳卒中の除外により、「脳卒中患者の行き場がなくなる」ことは、残念ながら、第一線で苦労しているリハビリテーション医以外にはおそらく知られていない。
障害者施設等病棟の要件変更は、それ自体だけでは問題点は明らかではないが、種々の診療報酬変更が組み合わされることによって有害な影響を及ぼす。到底、「間違った方向ではない」と認めることはできない。