回復期リハビリテーション病棟への移動を拒否する患者

 「天国へのビザ」の帰らない患者というエントリーで、回復期リハビリテーション病棟の紹介がされた。「廃用症候群の患者に、回復期リハビリテーション病棟へ移るように勧めても、何で追い出すんだと拒否されることがある。」という内容だった。地方の病院だったらどこでも同じやりとりをしているのかな、と苦笑してしまった。


 北国には、「越冬入院」という言葉がある。「寒くて肺炎になるから春まで置いてけさいん。」ということを平気で言う患者や家族が確かにいる。「日本はベッドが多すぎる。だから、不心得者の患者がいても空床を作らないように長期入院を病院が黙認しているんだ。」という厚労省のお役人の主張に一部同意してしまう。


 回復期リハビリテーション病棟には入院期間の上限がある。どんなに長くても、脳卒中なら180日、骨折や廃用症候群なら90日と決まっている。濃密なリハビリテーションを提供しながら、入院時点からタイムスケジュールに沿って退院までの準備をするベルトコンベアみたいな病棟である。一番最初に入院期間に限りがあるという話をするので、上記のような「越冬入院」をめぐるやりとりはない。たまに、「いつまで置いてくれるのや。」と聞かれる場合があるが、その時には、「脳卒中なら平均で2〜3ヶ月です。」と言って、診療報酬の規定は伏せる。そうしないと、半年は置いてもらえると勘違いされる。ここらへんの虚々実々とした駆け引きは慣れてくると面白い。
 「てすりをつけたり、ベッドやポータブルトイレなどの道具を入れたり、ディサービスなどの介護サービスを利用すると、十分おうちで生活できますよ。必要だったら、通所や訪問でリハビリテーションは継続できますよ。」と時間をかけてご説明をする。お年寄りの多くは、やっぱり自宅で生活したいと思っている。家屋調査など具体的な準備を進める中で、介護がかなり必要な方でも自宅に退院できる。安全で円満な退院が、リハビリテーション医療の目標のひとつである。


 ここで、ブログ「天国へのビザ」の宣伝をする。このブログは、同名の小説の宣伝のために書き始められたとのこと。医療系ブログの中でも、人気が高いことで有名である。

天国へのビザ

天国へのビザ


 著者の春野ことり先生の記念すべき初回エントリーは、2006年11月14日に記載された「1.いつも見る夢」である。小説の抜粋から始まる。様々な医療系ブログを読んだが、最も心に残るものだった。要介護高齢者の現実の姿を丹念に描写しながら、その終末期の生き様について問いかけてくる。
 私がもっと文才があるのなら、リハビリテーション医療を対象にエッセイを書いてみたいと思う。だが、どうやら、その方面の素質は全くない。堅苦しい理系の文章になってしまう。「天国のビザ」のような魅力的な文章を読んでいると羨ましくなる。