高次脳機能障害支援普及事業に関する講演

 日本リハビリテーション医学会東北地方会に参加した。国立身体障害者リハビリテーションセンター学院長中島八十一先制の研修講演「高次脳機能障害診断基準と支援普及事業」を聴講した。以下、メモ書きより。


 平成13年度から5年にわたって高次脳機能障害支援モデル事業が実施された。その成果をもとに、高次脳機能障害の行政的な「診断基準」が作られた。「標準的訓練プログラム」、「社会復帰支援及び生活・介護支援プログラム」も作成され、終了した。その後は障害者自立支援法施行とともに、一般事業として、高次脳機能障害支援普及事業に引き継がれた。


# 高次脳機能障害診断基準の前文より

 「高次脳機能障害」という用語は、学術用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる。
 一方、平成13年度に開始された高次脳機能障害支援モデル事業において集積された脳損傷者のデータを慎重に分析した結果、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害を主たる要因として、日常生活及び社会生活への適応に困難を有する一群が存在し、これらについては診断、リハビリテーション、生活支援等の手法が確立しておらず早急な検討が必要なことが明らかとなった。そこでこれらの者への支援対策を推進する観点から、行政的に、この一群が示す認知障害を「高次脳機能障害」と呼び、この障害を有する者を「高次脳機能障害者」と呼ぶことが適当である。その診断基準を以下に定める。


 学術用語としての「高次脳機能障害」と違い、行政用語としての「高次脳機能障害」は、きわめて限定的に定義されている。脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状を欠く者は除外することになっている。したがって、失語症単独の場合には、行政用語としての「高次脳機能障害」からは除外される。
 対象者としては、若年の頭部外傷患者が多い。「MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。」という基準もある。びまん性軸索損傷などは障害部位が不明瞭なことが多い。しかし、最近の画像診断の発展とともに、確認はできない症例は減少してきている。
 訓練開始は可能なかぎり早く、できれば、受傷ないし発病後1年以内が望ましい。医学的リハビリテーションプログラムから生活支援・職能訓練などの社会的支援へと連続したケアを行うことを旗印に活動している。相談、家族支援、環境調整、マネジメントと一貫して提供できる体制が目指されている。そのためには、川上である医療機関の協力が大事である。支援センター設置、支援コーディネーター育成を進めている。現在、全国で支援センターは30都道府県に設置されている。支援センターは、東北地方では、まだ岩手県宮城県しかないが、他の4県も準備を進めている。
 障害者自立支援法では、身体障害、精神障害、知的機能障害サービスが統合された。高次脳機能障害者は、精神障害として認定される。身体障害を合併している例も半数以上おり、特性に応じたサービスが提供される。


 高次脳機能障害は、今後、重要性が増す分野である。リハビリテーション専門医としても、やりがいのある課題である。実際、頭部外傷や重症クモ膜下出血などで難渋する症例は決して稀ではない。高次脳機能障害モデル事業の成果に学び、専門職がそろったリハビリテーション施設として、支援センターと協力して、高次脳機能障害に対するリハビリテーションの発展に尽力したい。