7対1入院基本料の基準の見直しと看護必要度

 中医協総会(第123回)平成20年2月1日、平成20年度診療報酬改定について資料(総-2-1)53-54ページに、7対1入院基本料の基準の見直しについての説明がある。引用する。

第1 基本的考え方
 7対1入院基本料については、平成19年1月の建議を踏まえ、急性期等手厚い看護を必要とする患者の看護必要度を測定する基準を導入するとともに、急性期入院医療に必要な医師等の診療体制に係る基準を導入する。


第2 具体的内容
1 「看護必要度」基準を満たす場合に算定できる。
(1) 当該病棟に入院している患者の状態を「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を用いて測定し、モニタリング及び処置等に係る得点(A得点)が2点以上、かつ、患者の状況等に係る得点(B得点)が3点以上の基準を満たす患者を1割以上入院させている場合に算定できる。
(2) 産科患者、小児科患者は、看護必要度測定の対象から除外する。
(3) 救命救急センターを設置する病院は、看護必要度に関する基準にかかわらず、算定できる。
(4) 特定機能病院には適用しない(ただし、患者の看護必要度に係る評価については実施する。)。


2 「医師配置」基準を満たさない場合は減算とする。
(1) 医師数が当該病棟の入院患者数に対して10分の1以上であり、かつ医療法標準を満たしている病院以外の病院については、7対1入院基本料の減算措置を講ずる。ただし、へき地等に所在する病院については、特別な配慮を行う。
(2) 特定機能病院には適用しない。


[経過措置]
1 準備期間を設け、平成20年7月1日実施とする。
2 平成20年3月31日時点で7対1入院基本料を算定する病棟であって、平成20年4月1日以降において10対1入院基本料を算定する病棟に限り、平成22年3月21日まの間(注 原文のまま)看護補助加算を算定できる。


 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を示す。


 回復期リハビリテーション病棟で用いられようとしている「重症度・看護必要度(B得点)」=「日常生活機能指標」には次の13項目が含まれる。

  • 床上安静の指示
  • どちらかの手を胸元まで持ち上げられる
  • 寝返り
  • 起き上がり
  • 座位
  • 移乗
  • 移動方法(主要なもの一つ)
  • 口腔清潔
  • 食事摂取
  • 衣服の着脱
  • 他者への意思の伝達
  • 診療・療養上の指示が通じる
  • 危険行動への対応


 奇妙な現象が生じている。「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」のB得点の方が、回復期リハビリテーション病棟用の「日常生活機能指標」より簡略となっている。「一般病棟用」B得点は、Barthel Indexをさらに簡単なものとしたものにもみえる。


 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」作成には紆余曲折があった。以前、看護必要度と日常生活機能指標というエントリーで、中医協における議論を紹介した。再度、CBニュース、高度急性期病院に看護必要度を導入?(2007年10月10日)という記事より引用する。

 次期診療報酬改定に向けた検討の第1回目となった10月3日の中医協・診療報酬基本問題小委員会(委員長=土田武史・早稲田大商学部教授)で、厚労省は「看護職員配置と看護必要度に関する実態調査」の結果を公表した。現在、看護必要度が導入されている「特定集中治療室管理料」と「ハイケアユニット入院医療管理料」のうち、「ハイケアユニット入院医療管理料」で用いられている評価票を調査に使用し、患者に提供した看護を1分刻みで調べた。
 調査の結果、「7対1」「10対1」「13対1」における入院患者の違いが明らかになれば、7対1入院基本料の施設基準に導入する看護必要度の指標にする予定だった。


(中略)


 調査結果によると、A得点の平均点は「7対1病院」が1.70、「10対1」が1.66、「13対1」が1.53となっており、ほとんど差がなかった。
 一方、B得点では「7対1」の平均が5.24、「10対1」が6.17、「13対1が7.12と、看護配置が低くなるほど平均値が高いという“逆転現象”が起きていた。


(中略)


 対馬忠明委員(健康保険組合連合会専務理事)は「患者特性が変わらないのならば、支払側として“何をやっていたんだ”ということになる。看護師が多くいるだけで患者特性が変わらないのであれば、施設基準や配置基準の適正さを議論していかなければならない」と不満を表した。


(中略)


 土田会長も「医療必要度をもっと厳密に見る必要がある。もう少しきめ細かい調査を踏まえて再度議論したい。7対1と10対1で差が出てくれば、看護師の重点配置の議論に結びつくだろう」と述べ、再調査の結果を踏まえて、看護必要度の導入に踏み切る方針を示した。


 再検討を行った結果、「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」が作成された。中医協診療報酬基本問題小委員会(第113回)平成19年11月30日、急性期医療に係る評価についてー7対1入院基本料の基準の見直しについての部分に、評価表を作成した経緯が記されている。評価票(案)検討の考え方は次のとおりである。

 評価票(案)については、「重症度・看護必要度」調査結果から、(1)実施頻度が高かった項目、(2)7対1、10対1、13対1病院間で発生頻度に差があった項目、(3)入院時と退院時において平均値に変化があった項目、(4)急性期一般病棟における専門的な治療・処置、等の観点から項目の検討を行った。
 また、一般病棟で用いる評価票であることから、病院側の負担を少なくするために、評価項目数が少ないこと、判断が容易であること、評価者が責任を持てること、道具(コンピュータ、判定ソフト等)を必ずしも必要としないこと等を考慮した。


 「急性期一般病棟における専門的な治療・処置」に関するデータはある。しかし、「7対1、10対1、13対1病院間で発生頻度に差があった項目」、「入院時と退院時において平均値に変化があった項目」についてのデータは示されていない。厚労省はデータ隠蔽を行っている疑いがある。実際は、7対1入院基本料算定病院と、他の入院基本料算定病院との間に差がないのではないかと推測する。官僚の常とし、自分たちの誤りを指摘されたくないのではないか。
(修正: 「厚労省はデータ隠蔽を行っている疑いがある。」の部分を修正する。診療報酬基本問題小委員会(第99回)平成19年10月3日内に資料があった。詳しくは、2008年2月5日のエントリー参照。)

 「看護必要度」に関係する評価としては、2003年に完成した「看護必要度Ver.3」、ICU入室患者の基準として作成された「重症度」基準、そして、ハイケアユニット評価として用いられる「重症度・看護必要度」基準の3種類がこれまであった。ここに「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」と回復期リハビリテーション病棟用の「日常生活機能指標」が加わる。前3者は、科学的態度に裏打ちされた研究成果に基づくが、後2者に関しては妥当性の点で問題がある。
 データを蓄積し、「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」と回復期リハビリテーション病棟用の「日常生活機能指標」の問題点を明らかにしていくことが必要となっている。