オシム前監督と選定療養

 朝日新聞の記事(2008年01月31日)より引用する。

オシム前監督、母国との対戦観戦 初めて公の場に

2008年01月31日06時07分


 昨年11月に脳梗塞(こうそく)で倒れた日本代表のイビチャ・オシム前監督(66)が30日、日本代表と母国のボスニア・ヘルツェゴビナの対戦を東京・国立競技場で観戦した。病に倒れた後、公の場に姿を現すのは初めて。ハーフタイムに「私は治療を続けています。これまで支援いただいたすべての皆さんに感謝いたします。ともに私たちと縁のある両チームの選手の素晴らしいプレーを期待しています。両チームが南アフリカで再び対戦できますように」というメッセージとともに、オシム前監督が手を振る姿が大型画面上に映し出され、スタンドの観客がどよめいた。


 関係者によると、都内の病院に入院中のオシム前監督は、この日も午前1回、午後2回、計4時間の歩行訓練をこなしたという。その後、日本サッカー協会職員らに付き添われて車で競技場へ足を運び、メーンスタンド上部にあるガラス張りの個室から観戦した。ハーフタイムに会った日本サッカー協会川淵三郎会長には、日本の試合内容を気にして、厳しいことを言ったようだ。


 岡田監督は試合後、「オシムさんを気にしている余裕はなかった。見られているという重圧もなかった」と話した。ボスニアのスペイン人監督、メホ・コドロ監督(41)は試合前日の会見で「チームの何人かがオシムさんを見舞った。私も選手もオシムさんが見に来る試合に参加できて非常にうれしい。オシムさんはボスニアだけでなく、世界のサッカーにとって大きな存在だ」と話していた。


 この記事で私が着目したのは、次の部分である。

 関係者によると、都内の病院に入院中のオシム前監督は、この日も午前1回、午後2回、計4時間の歩行訓練をこなしたという。


 以前、長嶋茂雄氏とオシム元監督というエントリーを書いた。そこで、次のような指摘をした。

 実は、保険診療上1日で実施可能なリハビリテーションの上限が決まっている。2004年当時は1日6単位だった。1単位20分なので最長2時間である。2006年以降は、条件によっては1日9単位(3時間)まで実施可能となった。いずれにせよ、1日5時間なんて一般的なリハビリテーション病院では通常は実施できない。

 どうして、長嶋茂雄氏やオシム元監督は、規定を超えてリハビリテーションができるのだろう。おそらく、保険外の負担が発生しているのではと推測する。


 実は、この時点では、リハビリテーション料が選定療養の対象となっていることを失念していた。規定単位数を超えるリハビリテーション料を行う場合には、自費で実施できる制度がある。診療報酬相当額となると1時間超過で約7,500円となる。オシム氏は歩行訓練だけで1日4時間行っている。ただし、この中にはセラピストが関与しない訓練もあるかもしれない。上肢機能障害に対するリハビリテーションについての記載がない。とりあえず、毎日1〜2時間程度規定を超過した訓練を仮定した場合、超過分だけで22.5〜45万円程度となる。ここに、アメニティーに関わる費用(個室料金)という選定療養費が加わる。
 リハビリテーションスタッフ数が潤沢で、かつ、金銭的余裕がある場合には、より高密度のリハビリテーションを受けることができる仕組みとなっている。


 今回の診療報酬改定では、長期にわたるリハビリテーションが必要な患者に対し、規定を超過する分を自費(選定療養)にすることが予定されている。中医協資料(2008年1月30日)記述内容を再度提示する。

 疾患別リハビリテーション医学管理料は廃止し、各疾患別リハビリテーションの算定日数上限を超えたものについては、1ヶ月当り13単位まで算定可能とする。(算定日数上限を超えたものについては、選定療養として実施可能。)

 若年の重症脳卒中、頭部外傷、脊髄損傷など1年近くのリハビリテーションを提供せざるをえない患者の場合、保険外負担をさらに数十万支払うことができるのだろうか。
 オシム前監督の順調な回復に喜びつつ、同じ日に提示された診療報酬改定方針に対するやりきれなさを感じずにはいられない。