一般病棟にも成果主義導入をと訴える看護協会幹部の妄想

 「地方ではナースの数が足りない」|ニュース|ロハス・メディカルに、看護必要度に関する新しい動きが紹介されていた。


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 DPCについて専門的に審議するため、中医協・基本問題小委員会の下に設置されている「DPC評価分科会)では、日看協元常任理事の嶋森好子委員(慶応義塾大看護医療学部教授)が「チーム医療の推進」を強く訴え、専門的な知識や経験のある看護師の配置を評価することを求めている。
 日看協には、看護の質向上を目的にした「資格認定制度」があり、「専門看護師」「認定看護師」などの資格がある。


 同分科会で嶋森委員は、専門的な看護師を中心とするチーム医療や手厚い看護体制を進めるため、「重症度・看護必要度による改善率」を指標とすることを要望している。


 嶋森委員が1月21日の同分科会に提出した要望書では、「必要な患者に必要な医療が提供できていない事態が様々な分野で生じており、これらの是正が必要とされている」とした上で、医師不足の問題に触れ、「既に増員する方向は決まっている。しかしこれを解決するには、まだ10年の歳月を要する。現状で解決する手立ての一つがチーム医療の推進である」と訴えている。


 チーム医療の評価について要望書は、「単に体制を評価するだけでは、患者の状態に関係なく看護師の数を集めて 7:1 入院基本料を算定したときと同じ状況になる可能性がある」とした上で、チーム医療の効果を測る指標として、患者の「重症度・看護必要度の改善率」を用いることを提案。「重症度・看護必要度は、既に導入されており、新たな負担を現場に求めるものではないので、指標としての導入は比較的容易であると考えている」と結んでいる。


 本記事を紹介したロハス・メディカル ブログ 看護必要度のほんとうのところ。に、次のようなコメントを投稿した。

 診療報酬に用いられている看護必要度には、次の4種類があります。
・ 「重症度に係る評価票」: ICU用、2002年度導入
・ 「重症度・看護必要度に係る評価票」: ハイケアユニット用、2004年度導入
・ 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」: 7対1入院基本料用、2008年度導入
・ 「日常生活機能評価」: 回復期リハビリテーション病棟用、2008年度導入


 回復期リハビリテーション病棟に導入された「重症患者回復病棟加算」は、「日常生活機能評価」10点以上を重症とし、重症群のうち3点以上改善したものが3割以上いることが要件となっています。在宅等復帰率等6割以上という要件とあわせ、回復期リハビリテーション病棟への成果主義導入ということで問題視されました。


 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」を、回復期リハビリテーション病棟で用いた「日常生活機能評価」と同様の目的で使用することが、今回、中医協で提案されたと考えれば分かりやすいと存じます。簡単に言えば、7対1入院基本料をとっている一般病棟にも成果主義を導入しようという提案です。


 問題は、「看護必要度」自体は、看護師の効果的な配置のために開発されたツールだということです。「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」の点数が下がったことが、患者の状態が改善したことを意味しません。例えば、経口摂取を介助で行っている患者は看護の手間がかかると判断されますが、経管栄養となると「看護必要度」が下がったと判断されます。
 また、重症患者が多い病棟では、「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」の点数が改善しないことも十分考えられます。そうなると、改善しやすい軽症患者が多い病棟の方が良質だという誤った判断を招きかねません。


 「一般病棟用の重症度・看護必要度に係る評価票」改善率を、病棟の機能評価に用いるという提案はきわめて危険なものです。


 一般病棟に成果主義が導入された場合、「看護必要度」改善率を低下させるような患者の選別が起こるおそれがある。現時点でも、誤嚥性肺炎を起こした要介護高齢者は敬遠されている。このような患者が多数入院する病院の経営が成り立たなくなる。外科系病棟でも困難が生じる。侵襲が大きい手術をした場合、入院時と比べ退院時の「看護必要度」は増大し、「重症度・看護必要度による改善率」が低下する。
 「医療の質に基づく支払い」(pay for performance;以下,P4P)が注目されている。しかし、国際的にみると、そのほとんどは外来医療におけるストラクチャーかプロセス指標である。P4Pを入院医療で、なおかつアウトカム指標で用いたのは、日本における回復期リハビリテーション病棟が初めてである。中医協の議論でも、回復期リハビリテーション病棟に対する成果主義について検証することが決まっている。
 そもそも、「看護必要度」は看護師配置のツールである。これを医療の成果評価に用いることは、明らかな目的外使用である。医療の質の評価に用いる臨床指標は、専門家集団が論議し、慎重に決めるべきである。代表的な臨床指標である悪性腫瘍の5年生存率でさえ、医療機関の質の評価に用いることに関し、専門家は慎重になっている。医療の全てのステージにおいて「重症度・看護必要度による改善率」がチーム医療の評価に適しているという考えは、看護協会幹部の妄想でしかない。