算定日数上限当たりFIM運動項目利得の平均値27の与える影響

 中央社会保険医療協議会 総会(第328回)、平成28年2月10日が開催され、平成28年度診療報酬改定の概要が明らかになった。答申について、総−1(PDF:3,645KB)に個別改定項目が記載されている。「II-3 質の高いリハビリテーションの評価等、患者の早期の機能回復の推進について」(169〜197ページ)が、リハビリテーション関連項目である。
 この中で、「回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカムの評価」(167〜171ページ)で初めて取り上げられた「算定日数上限当たりFIM運動項目利得」について検討する。

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第2 具体的な内容
1.回復期リハビリテーション病棟を有する保険医療機関について、当該病棟におけるリハビリテーションの実績が一定の水準に達しない保険医療機関については、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者に対して1日に6単位を超えて提供される疾患別リハビリテーション料を、回復期リハビリテーション病棟入院料に包括する。

[算定要件]
(1) 保険医療機関における回復期リハビリテーション病棟におけるリハビリテーションの提供実績が一定の水準以上であるとは、過去6か月間に当該保険医療機関で回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者に提供された疾患別リハビリテーションの1日平均実施単位数が6単位以上であることをいう。ただし、過去6か月間に回復期リハビリテーション病棟入院料を算定した患者が 10 人未満の場合を除く。
(2) 効果に係る実績が一定の水準を下回るとは、過去6か月間に当該保険医療機関の回復期リハビリテーション病棟から退棟した全ての患者(計算対 象から除外される患者を除く。)についての、1)の総和を2)の総和で除したものが 27 未満である状態をいう。
 1)退棟時の FIM 得点(運動項目)から入棟時 FIM 得点(運動項目)を控除したもの
 2)各患者の入棟から退棟までの日数を、当該患者の入棟時の状態に応じた算定上限日数で除したもの
(3) 在棟中に一度も回復期リハビリテーション病棟入院料を算定しなかった患者及び在棟中に死亡した患者は、(2)の算出から除外する。また、入棟日において次に該当する患者については、毎月の入棟患者数の 100 分の 30 を超えない範囲で、(2)の算出から除外できる。
 1 )FIM 運動項目得点が 20 点以下のもの
 2 )FIM 運動項目得点が 76 点以上のもの
 3 )FIM 認知項目得点が 25 点未満のもの
 4 )年齢が 80 歳以上のもの
(4) 高次脳機能障害の患者が過去6か月の入院患者の 40%を超える保険医療機関においては、高次脳機能障害の患者を(2)の算出から全て除外することができる。この場合、(3)については、「毎月の入棟患者数の 100 分の 30」を、「毎月の入棟患者数のうち高次脳機能障害の患者を除いた患者数の 100 分の 30」と読み替えるものとする。
(5) 在棟中に FIM 得点(運動項目)が1週間で 10 点以上低下した患者については、(2)の算出において、当該低下の直前の時点をもって退棟したものとみなして扱ってよい。


[経過措置]
平成 28 年4月1日以降の入院患者について、平成 29 年1月1日から実施する。


2.1.により回復期リハビリテーション病棟入院料に包括される疾患別リハビリテーションの実施単位数を、リハビリテーション充実加算等の施設基準において用いる疾患別リハビリテーションの総単位数に含まないこととする。


 算定要件(2)を数式で表すと、Σ(退棟時FIM運動項目-入棟時FIM運動項目)/Σ(入棟から退棟までの日数÷算定上限日数)、となる。退棟時FIM運動項目-入棟時FIM運動項目=FIM運動項目利得である。入棟から退棟までの日数÷算定上限日数の方は、今回の診療報酬改定で初めて定義された概念であり、とりあえず算定日数上限比と呼ぶことにする。分子分母両方を対象患者数で割ると、分子は平均FIM運動項目利得、分母は平均算定日数上限比となる。FIM運動項目利得/算定日数上限比は、算定日数上限まで同じ程度に回復すると仮定した時のFIM運動項目利得であると考えることもできる。この値を算定日数上限当たりFIM運動項目利得と呼ぶことにすると、診療報酬算定要件で6単位を超えるものが包括される条件とは、以下の数式で表すことができる。


 算定日数上限当たりFIM運動項目利得の平均値=平均FIM運動項目利得/平均算定日数上限比 < 27


 平均算定日数上限比は0〜1の値となる。全員が算定日数上限まで入院した場合が1となる。高次脳機能障害を伴う脳血管障害の場合には算定日数上限が180日となっているため、平均して60日で退院する場合には、この値は0.33となる。一方、大腿骨頚部骨折の場合には算定日数上限が90日となっているため、同じように平均60日で退院しても平均算定日数上限比は0.66となる。診療報酬上は算定日数上限が短かい疾患のFIM運動項目利得は低く扱われることになる。
 例えば、平均FIM運動項目利得が15、平均算定日数上限比0.5だったとすると、算定日数上限当たりFIM運動項目利得の平均値は30となり、算定日数要件をクリアすることができる。


 1日に6単位を超えて提供される疾患別リハビリテーション料の包括化を免れるためには、次のような対策が必要となる。
1.平均FIM運動項目利得を上げる。リハビリテーション医療の質を向上させる。
2.平均算定日数上限比を下げる。FIM運動項目利得が期待できなくなる時期まで入院を継続させず、退院を促進する。退院調整機能を高める。
3.算定日数上限比の価値の高い脳血管疾患の比率を上げる。
4.FIM運動項目利得が低いと推測される患者の選別を強化し、入院させない。
5.算定日数要件の除外規定を利用する。


 上記対策中、1と2はリハビリテーション医療の質を高めることに通じる。3は地域医療連携に関わる部分であり、競争が激しい地域では脳血管障害患者の奪い合いにつながる可能性がある。4に関しては、リハビリテーション医療を受ける機会の制限につながる恐れがある。例えば、重症の嚥下障害患者の場合、集中的なリハビリテーション医療の結果、経口摂取可能となることがあるが、悲しいことにFIM運動項目は13点のままで変動しないことがある。
 5に述べた除外規定に関しては、詳細がまだ不明であり、疑義解釈も含めた追加情報が出てから対応せざるをえない。「毎月の入棟患者数の 100 分の 30 を超えない範囲」という表現の意図するところがまだわからない。良くなりそうもない患者を任意に除外して良いのか、毎月基準を変更して構わないのかが気にかかる。しいて使うとしても、当面は、在棟中に FIM 得点(運動項目)が1週間で 10 点以上低下した患者の除外だけではないかと考える。少なくとも、平均的な回復期リハビリテーション病棟の運営をしている限り、除外規定を利用しなくても、算定日数上限当たりFIM運動項目利得の平均値27以上を目指すことが適当である。