廃用症候群に対するリハビリテーション料査定状況の特徴と対策

 数ヶ月前、リハビリテーション料の大幅な査定が行われている医療機関から、様々な情報を聞く機会があった。都道府県でリハビリテーション料査定に大きな差があるが、療法士数や回復期リハビリテーション病棟が多い西日本を中心に、国民健康保険連合会による大幅査定が行われているとのことだった。特に、高齢者、廃用症候群リハビリテーション料算定の多い病院が狙い撃ちにされていた。例えば、高齢患者に対しては一定単位以上のリハビリテーションが一律に査定され、毎月数百万円(収益費3%程度)を超える減点となっている病院もあった。
 来年度の診療報酬改定では、廃用症候群の見直しが行われることになっている。この間のリハビリテーション料査定の傾向と軌を一にする動きである。この問題は、対応を誤ると医療機関の経営に深刻な影響を与えるという認識を共有するために、リハビリテーション料査定状況の特徴と考えられる対策についてまとめてみた。

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 リハビリテーション料減点や返戻に関する審査側の代表的な意見は次のようなものであった。

  1. 地域における70〜80%の医療機関が行っている診療内容が基準とされる。したがって、専門病院で専門スタッフを十分そろえ、地域に貢献しているからといっても、他の医療機関に比べて特化し、一つの医療行為に専念することは、逆に保険診療では査定の対象となりうる。「休日加算」や「充実加算」についてだが、保険診療の財政が逼迫している現状を考えると、国の方針だからといって突然リハビリテーション単位数を多数認めることは難しい。
  2. 高齢患者に毎日3時間のリハビリテーションを行うことは、一般的に考えて体力的に厳しいと思われる。90代4単位以上は一律カットすると表明している県もある。
  3. 廃用症候群」は、何らかの原因により、治療上安静を余儀なくされる状況の時に請求されるべきである。入院直後の患者は該当しない。病前がほぼ自立した状態でリハビリテーション効果が期待できる場合に行われるものであり、長期療養の結果またはターミナルステージにて自立が困難になっている患者の場合には該当しない。呼吸器や心疾患が原因であれば、それぞれ呼吸器リハビリテーション料、心大血管リハビリテーション料で算定すべきである。なんでもかんでも廃用症候群として算定することは自重すべきである。
  4. ほぼ全介助の状態でありリハビリテーションを一定期間以上(3ヶ月程度)実施しても改善傾向が現れない場合、リハビリテーションを実施する以前から寝たきりの状態であり改善が見込めない場合、などは査定対象となる。


 なお、この件に関しては、日本慢性期医療協会 - [会長メッセージ]からも、次のような要望書が今年7月12日付で厚生労働省保険局医療課長に提出されている。

 平成24 年4 月の同時改定で平成26 年4 月からのリハビリテーションの算定日数制限以降の維持期リハビリテーションが算定出来なくなるということが判明した後から、複数の都道府県において、慢性期リハビリテーションにおいてのみならず、回復期リハビリテーション及び一般病棟のリハビリテーションにおいても高齢者のリハビリテーションにおける大幅査定が明らかになっており、現在も続いております。その理由として、複数の都道府県の審査委員会の回答によると、良くなる見込みが少ないリハビリテーションについては査定をするという横暴な回答に終始しております。元より、診療報酬の療養担当規則やQ&Aは全国統一の基準によって運営されており、その信頼性の元に、医療機関は誠実にリハビリテーションを提供しております。然るに、この様な恣意的かつ独善的な査定を各審査委員会の段階で強行していること自体、大変遺憾に思っておりますが、また何よりその査定の額が莫大となっており、医療機関の経営を揺るがすような事態となっていることに日本慢性期医療協会の会員は重大なる危機感を覚えています。是非とも、「全国統一という観点に立ち戻って、適切な対処をお願いしたいと思います。」


 リハビリテーション医療の当事者からみると、審査側の意見には医学的妥当性に欠けるものが多い。特に、上記1、2に関しては論外としか言いようがない。
 2010年度診療報酬改定では、「より充実したリハビリテーションを提供する観点から、土日を含めいつでもリハビリテーションを提供できる体制をとる病棟の評価や、集中的にリハビリテーションを行う病棟に対する評価を新設する。」として、「休日リハビリ提供体制加算」と「リハビリ充実加算」(算定要件:回復期リハビリテーションを要する状態の患者に対し、1人1日あたり6単位以上のリハビリテーションが行われていること)が導入された。この後、回復期リハビリテーション病棟において療法士確保が進んだ。さらに、2012年度改定で人的体制を厚くした回復期リハビリテーション料1が導入された。マンパワー確保の原資となるのが、疾患別リハビリテーション料であり、回復期リハビリテーション入院料である。診療報酬改定には、支払い側委員も参加していたことを考えると、診療報酬規定に反したリハビリテーション料大幅査定は、医療機関の機能分化と地域医療連携強化を推進するという厚労省の基本方針にしたがってマンパワー確保を行った医療機関に対する背信行為である。
 高齢者の生活機能は多様である。講演活動に多忙な日野原重明(101歳)、エベレスト登頂を果たした三浦雄一郎(80歳)は特殊例ではない。若年者と同様にバリバリに仕事をしている高齢者は少なくない。第1章 第2節 3 高齢者の健康・福祉|平成25年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府をみても、65歳以上の高齢者の日常生活に影響のある者率(人口1,000人当たりの「現在、健康上の問題で、日常生活動作、外出、仕事、家事、学業、運動等に影響のある者(入院者を除く)」の数)は、22(2010)年において209.0であり、残りの約8割は手段的ADLまで自立し活動的な生活をおくっている。年齢だけを根拠に一律にリハビリテーション料の大幅査定を行うことは、高齢者差別である。
 そもそも、査定側のリハビリテーション医療に対する認識の低さが問題である。リハビリテーション医療の最も大きな目標は、生活機能、特に日常生活活動(ADL)の改善であり、そのための重要な手法が治療的学習である。なんとかできる課題を繰り返し実施することで習熟するというのが学習の本質である。現時点での生活機能を評価し、予後予測をしたうえで、改善の可能性が高い課題に集中して取り組むことで治療的学習が進む。例えば、病棟内移動が自立している患者の場合には、より難易度の高い屋外歩行や階段昇降訓練、公共交通機関利用、家事動作などの訓練が適切な課題となる。一方、移乗動作が自立していない患者の場合には、車椅子やトイレでの移乗動作を想定した訓練、排泄動作訓練が集中的に行われる。患者の生活機能にあわせた個別的対応がリハビリテーション医療の本質であり、どのような生活機能でも、時間をかけるべき課題が見つかる。審査側は、リハビリテーション医療では画一的な運動療法を行っていると意図的に誤認しているようだが、適切ではない。むしろ、学習能力が低い対象者ほど、課題を工夫し、マンツーマンで時間をかけて対応することが求められる。学習能力が高い患者は、一を聞いて十を知ることができるため、コツさえつかめれば自分で工夫して実行できる。高齢者は良くならないと決めつけ療法士が関わる時間を減らすことは、最も時間をかけるべき対象である高齢者の生活機能改善の機会を奪うことになる。


 一方、審査側の意見の3、4に関しては、反論に工夫が必要となる。特に、今回の診療報酬改定で「廃用症候群の見直し」がされることになり、「廃用症候群以外のリハビリテーション料を算定することが可能な場合は、当該リハビリテーション料を算定するべきであることから、廃用症候群に対するリハビリテーションを実施する場合には、それ以外のリハビリテーション料が適用にならない理由の記載欄を評価表や実績報告書に設け、その適用を厳格化する」という規制案が出されている。
 「廃用症候群」という病名でリハビリテーションを行わなければならなくなったのは、2006年の疾患別リハビリテーション料導入からである。「廃用症候群」という病名でリハビリテーションを行う患者の多くは、予備能力の低い高齢者や障害者であり、若年者では問題とならないような疾患でも生活機能低下が生じる。しかし、このような場合、疾患別リハビリテーション料では適切な病名をつけることが難しい。心不全は、心大血管リハビリテーション料で、悪性腫瘍はがんリハビリテーション料でという意見があるが、施設要件が厳しく、合致していない場合には算定ができない。疾患別リハビリテーション料の体系見直しが先決であり、それまでの期間は妥協策として、「廃用症候群」の病名でリハビリテーションを行う患者が出てくることは避けられない。
 「改善が見込めない」場合には、リハビリテーション医療を提供しないという主張にも問題がある。慢性進行性疾患の患者や脳卒中後遺症による要介護状態の場合でも、リハビリテーション医療によって廃用症候群による機能低下が予防されている。


 以上、リハビリテーション料査定の特徴をふまえると、各医療機関でとりうる対策は次のようになる。


 「廃用症候群の見直し」は、審査側にとっては錦の御旗となる。要介護高齢者がリハビリテーション医療を受ける権利を侵害されることがないよう、医療機関側も十分な準備が必要である。