2019年3月8日、平成30年度診療報酬改定について |厚生労働省内に、「要介護被保険者等である患者に対する入院外の維持期・生活期の疾患別リハビリテーションに係る経過措置の終了に当たっての必要な対応について PDF」という通知が載った。
区分番号「H001」は脳血管疾患等リハビリテーション料、同「H001-2」は廃用症候群リハビリテーション料、そして、「H002」は運動器リハビリテーション料のことである。「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示) 平成30年 厚生労働省告示第43号 リハビリテーション PDF 」を見ると、脳血管疾患等リハビリテーション料の注4と注5は次のとおりである。なお、廃用症候群リハビリテーション料も運動器リハビリテーション料も算定日数上限の日数以外は同じである。
4 注1本文の規定にかかわらず、注1本文に規定する別に厚生労働大臣が定める患者に対して、必要があってそれぞれ発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から180日を超えてリハビリテーションを行った場合は、1月13単位に限り、算定できるものとする。この場合において、当該患者が要介護被保険者等である場合には、注1に規定する施設基準に係る区分に従い、次に掲げる点数を算定する。
イ 脳血管疾患等リハビリテーション料(I)(1単位) 147点
ロ 脳血管疾患等リハビリテーション料(II)(1単位) 120点
ハ 脳血管疾患等リハビリテーション料(III)(1単位) 60点
5 注4の場合において、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関以外の保険医療機関が、入院中の患者以外の患者(要介護被保険者等に限る。)に対して注4に規定するリハビリテーションを行った場合には、所定点数の100分の80に相当する点数により算定する。
注4の後段及び注5を算定できる期間が平成30年3月31日までとなっている。逆に言うと、注4の前段「1月13単位に限り、算定できるものとする。」までの部分は、心大血管疾患リハビリテーション料、呼吸器リハビリテーション料と同様に規定は残る。したがって、要介護・要支援認定を受けた要介護被保険者等以外の患者に関しては、今までどおり「1月13単位」を上限とした運用は可能である。
一方、要介護被保険者の場合は、算定日数上限を超えた場合には、全く医療保険でリハビリテーションを受けることができないかというとそうではない。「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) (平成30年3月5日 保医発0305第1号)別添1 (医科点数表) PDF 」の脳血管疾患等リハビリテーション料のところに次のような記載がされている。
実は、上記規定は、それぞれの疾患別リハビリテーション料の注1の規定を再確認しただけである。「特掲診療料の施設基準等の一部を改正する件(告示) 平成30年 厚生労働省告示第45号 PDF」を見ると、「別表第九の八」、「別表第九の九」は次のとおりである。下線は平成30年診療報酬改定で追加されたものである。
# 別表第九の八
第一号
- 失語症、失認及び失行症の患者
- 高次脳機能障害の患者
- 重度の頚髄損傷の患者
- 頭部外傷及び多部位外傷の患者
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者
- 心筋梗塞の患者
- 狭心症の患者
- 軸索断裂の状態にある末梢神経損傷(発症後一年以内のものに限る。)の患者
- 外傷性の肩関節腱板損傷(受傷後百八十日以内のものに限る。)の患者
- 回復期リハビリテーション病棟入院料を算定する患者
- 回復期リハビリテーション病棟において在棟中に回復期リハビリテーション病棟入院料を算定した患者であって、当該病棟を退棟した日から起算して三月以内の患者(保険医療機関に入院中の患者、介護老人保健施設又は介護医療院に入所する患者を除く。)
- 難病患者リハビリテーション料に規定する患者(先天性又は進行性の神経・筋疾患の者を除く。)
- 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者に限る。)
- その他別表第九の四から別表第九の七までに規定する患者又は廃用症候群リハビリテーション料に規定する患者であって、リハビリテーションを継続して行うことが必要であると医学的に認められるもの
第二号
- 先天性又は進行性の神経・筋疾患の患者
- 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病の者を除く。)
# 別表第九の九
- 別表第九の八第一号に規定する患者については、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合
- 別表第九の八第二号に規定する患者については、患者の疾患、状態等を総合的に勘案し、治療上有効であると医学的に判断される場合
「難病患者リハビリテーション料に規定する患者」、「障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者」はそれぞれ次のとおりである。
# 難病患者リハビリテーション料に規定する患者
- ベーチェット病
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- 全身性エリテマトーデス
- スモン
- 筋萎縮性側索硬化症
- 強皮症、皮膚筋炎及び多発性筋炎
- 結節性動脈周囲炎
- ビュルガー病
- 脊髄小脳変性症
- 悪性関節リウマチパーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病)
- アミロイドーシス
- 後縦靭帯骨化症
- ハンチントン病
- モヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症)
- ウェゲナー肉芽腫症
- 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症、シャイ・ドレーガー症候群)
- 広範脊柱管狭窄症
- 特発性大腿骨頭壊死症
- 混合性結合組織病
- プリオン病
- ギラン・バレー症候群
- 黄色靭帯骨化症
- シェーグレン症候群
- 成人発症スチル病
- 関節リウマチ
- 亜急性硬化性全脳炎
- ライソゾーム病
- 副腎白質ジストロフィー
- 脊髄性筋萎縮症
- 球脊髄性筋萎縮症
慢性炎症性脱髄性多発神経炎
# 障害児(者)リハビリテーション料に規定する患者(別表第十の二)
以上をふまえると、要介護被保険者は、「1月13単位に限り」という注4の規定は利用できないが、「リハビリテーションを継続することにより状態の改善が期待できる」場合は、注1の規定を利用して、算定日数上限を超えて医療保険のリハビリテーションを実施できることになる。
しかし、上記の場合、大きなハードルが2つある。「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) (平成30年3月5日 保医発0305第1号)別添1 (医科点数表) PDF 」に次のような記載がある。
<通則>
4 (前略)(疾患別リハビリテーション)の実施に当たっては、医師は定期的な機能検査等をもとに、その効果判定を行い、別紙様式 21 から別紙様式 21 の5までを参考にしたリハビリテーション実施計画を作成する必要がある。また、リハビリテーションの開始時及びその後(疾患別リハビリテーション料の各規定の「注4」にそれぞれ規定する場合を含む。)3か月に1回以上(特段の定めのある場合を除く。)患者に対して当該リハビリテーション実施計画の内容を説明し、診療録にその要点を記載すること。
また、疾患別リハビリテーションを実施している患者であって、急性期又は回復期におけるリハビリテーション料を算定する日数として、疾患別リハビリテーション料の各規定の「注1」本文に規定する日数(以下「標準的算定日数」という。)を超えて継続して疾患別リハビリテーションを行う患者(疾患別リハビリテーション料の各規定の「注4」にそれぞれ規定する場合を除く。)のうち、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合(特掲診療料の施設基準等別表第九の八第一号に掲げる患者であって、別表第九の九第一号に掲げる場合)は、継続することとなった日を診療録に記載することと併せ、継続することとなった日及びその後1か月に1回以上リハビリテーション実施計画書を作成し、患者又は家族に説明の上交付するとともにその写しを診療録に添付すること。(後略)
9 疾患別リハビリテーションを実施する場合は、診療報酬明細書の摘要欄に、(中略)を記載すること。また、標準的算定日数を超えて継続して疾患別リハビリテーションを行う患者(疾患別リハビリテーション料の各規定の「注4」にそれぞれ規定する場合を除く。)のうち、治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合(特掲診療料の施設基準等別表第九の八第一号に掲げる患者であって、別表第九の九第一号に掲げる場合)は、1)これまでのリハビリテーションの実施状況(期間及び内容)、2)前月の状態との比較をした当月の患者の状態、3)将来的な状態の到達目標を示した今後のリハビリテーション計画と改善に要する見込み期間、4)FIM、BI、関節の可動域、歩行速度及び運動耐用能などの指標を用いた具体的な改善の状態等を示した継続の理由を摘要欄に記載すること。ただし、リハビリテーション実施計画書を作成した月にあっては、改善に要する見込み期間とリハビリテーション継続の理由を摘要欄に記載した上で、当該計画書の写しを添付することでも差し支えない。なお、継続の理由については、具体的には次の例を参考にして記載すること。
まず、リハビリテーション実施計画書の記載義務が「3か月に1回以上」から「1か月に1回以上」と増える。さらに、改善の見込み等細かな内容を含む診療報酬明細書(レセプト)コメントを記載する必要が生じる。改善の可能性が低く、維持目的である場合には、減点・返戻の対象となる。したがって、要介護被保険者に関していうと、実質的に維持的リハビリテーションは介護保険を選ばざるをえないことになる。別表第九の八で除外対象となっているかに思える失語症患者、難病等リハビリテーション料に規定されているパーキンソン病や関節リウマチ患者でも、要支援・要介護認定を受けている場合には同様である。医療保険でリハビリテーションを続けようと思うならば、最初から介護保険認定を受けないように指導せざるをえない。
疾患別リハビリテーション料算定日数上限を超えてリハビリテーションを提供する場合には、次のような対応が必要となる。
- 改善の可能性があると考え、1月13単位を超えてリハビリテーションを提供する場合には、毎月、リハビリテーション実施計画書とレセプトコメントを記載する。
- 要介護被保険者でなければ、1月13単位以内の範囲で維持的リハビリテーションを行う。この場合、3か月に1回、リハビリテーション実施計画書を記載する。
- 要介護被保険者に対し、維持的リハビリテーションを行う場合には、介護保険のリハビリテーション利用を勧める。自院でも介護保険でのリハビリテーションを提供できるように体制をつくる。
上記のような面倒な対応をしたくない医療機関は、疾患別リハビリテーション料の算定日数上限を超えた段階で、機械的にリハビリテーションを打ち切りを行う。患者にとって、不幸な状況が蔓延しないことを祈るしかない。