「サービス付き高齢者向け住宅」の登録制度の創設

 2011年2月8日、「高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律案について」(国土交通省)が閣議決定された。報道発表資料:高齢者の居住の安定確保に関する法律等の一部を改正する法律案について - 国土交通省に関連資料がある。ポイントとなる部分は、概要に簡潔にまとめられている。

# 施策の現状・背景
・ 2010年から2020年の10年間で、 高齢者人口:約2,900万人→約3,600万人、高齢者単身・夫婦世帯:約1,000万世帯→1,245万世帯と増加する。一方、全高齢者における介護施設・高齢者住宅等の定員数の割合は、日本(2005)では施設系3.5%、住宅系0.9%、計4.4%であり、サービス付きの住宅の供給は、欧米各国に比べて立ち後れている。2020年までに住宅系の比率を3〜5%にすることを、国土交通省の成長戦略として掲げている。
・ 国土交通省厚生労働省共管の制度として、都道府県知事への登録制度である「サービス付き高齢者向け住宅制度」を新たに創設する。


# 概要

【登録基準】 ※有料老人ホームも登録可
《住宅》
 床面積(原則25m2以上)、便所、洗面設備等の設置、バリアフリー
《サービス》
 サービスを提供すること。(少なくとも安否確認・生活相談サービスを提供)
《契約》
 高齢者の居住の安定が図られた契約であること、前払家賃等の返還ルール及び保全措置が講じられて いること
【事業者の義務】
 入居契約に係る措置(提供するサービス等の登録事項の情報開示、入居者に対する契約前の説明)
 誇大広告の禁止
【指導監督】
 住宅管理やサービスに関する行政の指導監督(報告徴収・立入検査・指示等)
* 高円賃・高専賃(登録制度)、高優賃(供給計画認定制度)の廃止
* 高齢者居住支援センター(指定制度)の廃止

○ 補助・融資・税による支援策を充実し、民間による供給を促進
介護保険法改正による「定期巡回随時対応サービス」等と組み合わせた仕組みを普及


 これまでの「高齢者住まい法」については、住宅:高齢者、障害者等の住宅セーフティネットの充実 - 国土交通省にまとめられている。


 団塊の世代の高齢化に伴い高齢者が急激に増加する今後10〜15年は、高齢社会の最後の上り坂と表現されている。特に、首都圏など大都市圏における高齢者数増は深刻である。日本の都道府県別将来推計人口 (平成 19 年 5 月推計)の17〜18ページにある、表I-11 将来の都道府県別老年人口および図I-2 都道府県別の老年人口をみると、首都圏の老年人口は、2005年から2035年にかけて、次のように激増する。

  • 東京都: 232.5万人 → 389.5万人(157.0万人、67.5%増)
  • 神奈川県:148.7万人 → 271.8万人(123.1万人、82.8%増)
  • 埼玉県: 116.0万人 → 211.5万人(95.5万人、82.3%増)
  • 千葉県: 106.4万人 → 188.0万人(81.6万人、76.7%増)


 既に高齢社会に突入している地方では、今後年少人口・生産年齢人口の減少に伴い高齢化率が高くはなるが、高齢者の実数自体はさほど増えない。首都圏、大阪府、愛知県などの大都市圏では、高齢者の実数が増えるとともに、医療や介護の需要も高まる。要介護状態にとどまった場合、独居・夫婦2人世帯では住み慣れた自宅での生活を続けることはできない。しかし、地価も高く、介護施設の確保も難しい。要介護高齢者が急性期から回復期の医療機関に滞留し、医療需要の高い患者の受け入れが困難になるという負のスパイラルが既に生じている。
 呼び寄せ老人の問題もある。生産年齢人口が極度に減少する地方では、高齢者も生活を継続することは難しい。息子や娘が心配し、自分の住まいの近くに親世代を招き始めている。地方の疲弊と、要介護高齢者が急増に伴う都市部の負担増が同時進行する。
 「サービス付き高齢者向け住宅制度」は、高齢社会における切り札と政府は考えている。住宅会社にとってもビジネスチャンスである。医療機関、特に都市部の施設にとってみても、本来の機能を発揮するためには、「サービス付き高齢者向け住宅制度」の整備が待ったなしの課題となっている。これまで医療保険福祉複合体が成長してきたように、自ら「住まいの問題」に取り組むのか、それとも、住宅整備事業者との連携を強化するのか、様々な取組みが行われるようになる。
 住み慣れた地域で安定した生活をおくることができるようにすることは、リハビリテーション関連職種にとって再重要課題である。「住まい」の問題に関して、自らの立ち位置を明らかにして取組みを強めることが求められている。