社会保障制度改革国民会議報告書の各論部分が明らかに

 政府の社会保障制度改革国民会議報告書の各論部分がまとまった。本報告書の提言を受け、秋の臨時国会社会保障制度改革法案が提案される予定となっている。

 政府の社会保障制度改革国民会議(会長・清家篤慶応義塾長)は二日、報告書案の各論部分を大筋で了承した。介護を必要とする度合いが低い「要支援」(約百三十万人)の人を保険のサービス対象から外し市町村事業に移行することや七十〜七十四歳の医療費窓口負担の一割から二割への早期引き上げ、国民健康保険の運営主体を五年以内に市町村から都道府県に移管することなどを提言した。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013080202000243.html


 東京新聞の表「最終報告案の主な改革メニュー」が分かりやすいので、転記する。


 第19回 社会保障制度改革国民会議 議事次第 平成25年8月2日(金)に原資料がある。資料1−2 各論部分(医療・介護分野)(案)を見ると、次のような構成になっている。

II 医療・介護分野の改革
1 改革が求められる背景と社会保障制度改革国民会議の使命
(1)改革が求められる背景
(2)医療問題の日本的特徴
(3)改革の方向性
2 医療・介護サービスの提供体制改革
(1)病床機能報告制度の導入と地域医療ビジョンの策定
(2)都道府県の役割強化と国民健康保険の保険者の都道府県移行
(3)医療法人制度・社会福祉法人制度の見直し
(4)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築
(5)医療・介護サービスの提供体制改革の推進のための財政支援
(6)医療の在り方
(7)改革の推進体制の整備
医療保険制度改革
(1)財政基盤の安定化、保険料に係る国民の負担に関する公平の確保
(2)医療給付の重点化・効率化(療養の範囲の適正化等)
(3)難病対策等の改革
介護保険制度改革


 医療・介護分野の改革総論が1、具体案が2〜4という構成になっている。気にかかった部分をピックアップする。


 2−(1)病床機能報告制度の導入と地域医療ビジョンの策定の部分では、都道府県単位で医療機能の分化を促進することが提案されている。

  • (病床機能報告制度を導入し、)同制度により把握される地域ごとの医療機能の現状や高齢化の進展を含む地域の将来的な医療ニーズの客観的データに基づく見通しを踏まえた上で、その地域にふさわしいバランスのとれた医療機能ごとの医療の必要量を示す地域医療ビジョンを都道府県が策定する。

 


 2−(2)都道府県の役割強化と国民健康保険の保険者の都道府県移行と、3−(1)財政基盤の安定化、保険料に係る国民の負担に関する公平の確保の部分では、次のことが記載されている。なお、第2項以降は、大企業の健康保険組合および高所得者にとっては大幅な負担増となる部分となっている。

  • 国民健康保険に係る財政運営の責任を担う主体(保険者)を都道府県とする。
  • 後期高齢者支援金に対する負担方法について、健康保険法等の一部改正により被用者保険者が負担する支援金の3 分の1 を各被用者保険者の総報酬に応じた負担とすること(総報酬割)を平成25 年度から2 年間延長する措置が講じられているが、支援金の3 分の2 については加入者数に応じたものとなっており、そのために負担能力が低い被用者保険者の負担が相対的に重くなっていて、健保組合の中でも3 倍程度の保険料率の格差がある。この支援金負担について、平成27 年度からは被用者保険者間の負担の按分方法を全面的に総報酬割とし、被用者保険者間、すなわち協会けんぽと健保組合、さらには共済組合の保険料負担の平準化を目指すべきである。
  • 国民健康保険において、相当の高所得の者であっても保険料の賦課限度額しか負担しない仕組みとなっていることを改めるため、保険料の賦課限度額を引き上げるべきである。同様の問題が被用者保険においても生じており、被用者保険においても標準報酬月額上限の引上げを検討するべきである。
  • 協会けんぽの支援金負担への国庫補助が不要となるが、これによって生ずる税財源の取扱いは、限られた財政資金をいかに効率的・効果的に用いるかという観点から、将来世代の負担の抑制に充てるのでなければ、他の重点化・効率化策と同様に今般の社会保障・税一体改革における社会保障の機能強化策全体の財源として有効に活用し、国民に広く還元すべきである。
  • 多くの非正規雇用の労働者が国民健康保険に加入しているが、被用者保険の適用拡大を進めていく。


 
 2−(3)医療法人制度・社会福祉法人制度の見直しには、次のような記載がある。

  • 医療法人制度・社会福祉法人制度について、非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の推進に資するよう、たとえばホールディングカンパニーの枠組みのような法人間の合併や権利の移転等をすみやかに行うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある。


 2−(4)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築では、次のような提起のあと、認知症高齢者対策、生活支援サービス、住まいなどに関する提案がなされている。なお、要支援者に対する予防給付の見直しについては後述する。

  • 高度急性期から在宅介護までの一連の流れにおいて、川上に位置する病床の機能分化という政策の展開は、退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべきものであり、また、川下に位置する在宅ケアの普及という政策の展開は、急性増悪時に必須となる短期的な入院病床の確保という川上の政策と同時に行われるべきものである。


 2−(5)医療・介護サービスの提供体制改革の推進のための財政支援では、消費税増収分の活用ということをまず述べた後、次のように記載している。

  • 今般の国民会議で提案される地域ごとの様々な実情に応じた医療・介護サービスの提供体制を再構築するという改革の趣旨に即するためには、全国一律に設定される診療報酬・介護報酬とは別の財政支援の手法が不可欠であり、診療報酬・介護報酬と適切に組み合わせつつ改革の実現を期していくことが必要と考えられる。


 2−(6)医療の在り方では、専門医制度改革、死生観などについて触れられている。

  • 「総合診療医」は地域医療の核となり得る存在であり、その専門性を評価する取組(「総合診療専門医」)を支援するとともに、その養成と国民への周知を図ることが重要である。
  • 超高齢社会に見合った「地域全体で、治し・支える医療」の射程には、そのときが来たらより納得し満足のできる最期を迎えることのできるように支援すること−すなわち、死すべき運命にある人間の尊厳ある死を視野に入れた「QOD(クォリティ・オブ・デス)を高める医療」−も入ってこよう。
  • 国が保有するレセプト等データの利活用の促進も不可欠である。具体的には、個人情報保護にも配慮しつつ、現状は利用者の範囲や使用目的が限定されている使用条件を緩和し、幅広い主体による適時の利活用を促すため、データ提供の円滑化に資する対策を講ずべきである。


 3−(2)医療給付の重点化・効率化(療養の範囲の適正化等)では、次のような記載がなされている。大病院の外来規制、70〜74歳の一部負担金増大など負担増を迫る内容となっている。

  • フリーアクセスの基本は守りつつ、限りある医療資源を効率的に活用するという医療提供体制改革に即した観点からは、医療機関間の適切な役割分担を図るため、「ゆるやかなゲートキーパー機能」の導入は必要となる。(略)紹介状のない患者の一定病床数以上の病院の外来受診について、初再診料が選定療養費の対象となっているが、一定の定額自己負担を求めるような仕組みを検討すべきである。
  • 現在、暫定的に1 割負担となっている70〜74 歳の医療費の自己負担については、現役世代とのバランスを考慮し、高齢者にも応分の負担を求める観点から、法律上は2 割負担となっている。この特例措置については、世代間の公平を図る観点から止めるべき。
  • 高額療養費制度については、(略)、負担能力に応じた負担となるよう限度額を見直すことが必要である。
  • 患者の自己負担について「年齢別」から「負担能力別」へ負担の原則を転換するなど、中長期的に医療保険制度の持続可能性を高める観点から、引き続き給付の重点化・効率化に取り組む必要がある。


 3−(3)難病対策等の改革では、次のような記述がある。

  • 医療費助成については、消費税増収分を活用して、将来にわたって持続可能で公平かつ安定的な社会保障給付の制度として位置づけ、対象疾患の拡大や都道府県の超過負担の解消を図るべきである。
  • ただし、社会保障給付の制度として位置づける以上、公平性の観点を欠くことはできず、対象患者の認定基準の見直しや、類似の制度との均衡を考慮した自己負担の見直し等についてもあわせて検討することが必要である。


 4 介護保険制度改革、および、2−(4)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築では、以下のような記載がある。

  • 介護保険給付と地域支援事業の在り方を見直すべきである。地域支援事業については、地域包括ケアの一翼を担うにふさわしい質を備えた効率的な事業(地域包括推進事業(仮称))として再構築するとともに、要支援者に対する介護予防給付について、市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである。
  • 介護保険制度では利用者負担割合が所得水準に関係なく一律であるが、制度の持続可能性や公平性の視点から、一定以上の所得のある利用者負担は、引き上げるべきである。
  • 補足給付に当たっては資産(ストック)も勘案すべきである。また、低所得と認定する所得や世帯のとらえ方について、遺族年金等の非課税年金や世帯分離された配偶者の所得等を勘案するよう、見直すべきである。
  • 特別養護老人ホームは中重度者に重点化を図り、併せて軽度の要介護者を含めた低所得の高齢者の住まいの確保を推進していくことも求められている。
  • デイサービスについては、重度化予防に効果のある給付への重点化を図る必要があろう。
  • 今後の高齢化の進展に伴う保険料水準の上昇に対応するため、低所得者の第1 号保険料について基準額に乗じることにより負担を軽減している割合を更に引き下げ、軽減措置を拡充すべきである。


 財政面でいうと、皆保険制度維持の意味で大企業の健康保険組合や高額所得者に対する応分の保険料負担を求める部分は評価できる。一方、消費税増大分を社会保障にあてるという主張が繰り返しなされている。高齢者社会進行とともに消費税税率引き上げやむなしという方向に、世論を誘導しようとしている。また、低所得者に対する配慮が必要という記載もされているが、70〜74歳の高齢者の医療費自己負担増は受診抑制につながる。介護保険の要支援者に対する予防給付見直しは、財政基盤の厳しい自治体では実質的な介護保険はずしとなる。経済的問題で介護サービスを受けることのできない虚弱高齢者の生活不活発病悪化が懸念される。
 自公政権が衆参両院で過半数を占めている状況を考えると、社会保障制度改革国民会議報告書どおりの改革が行われる可能性はきわめて高い。生活に関わる重要な内容ではあるが、先日行われた参議院選挙ではマスメディアはほとんどとりあげていない。ネットで検索しても、重大なニュースとして取り上げられてはいない。昨日の麻生財務相の発言ではないが、喧噪に紛れて十分な国民的理解および議論のないままに進んでしまった悪しき例になりかねないという危惧を抱く。