NHKスペシャル、介護保険が”使えない”

 NHKスペシャルは興味深い内容だった。高齢化率の高い東京都営住宅住民へのアンケートをまとめたものだった。
 論点は以下の3点だった。感想もまじえながら放映内容を記載する。


(1)施設系サービスや短期入所の不足
 パーキンソン病の夫と脊椎圧迫骨折後に車椅子生活となった妻、老夫婦2人暮らしの事例が取り上げられていた。典型的な老老介護である。本来なら、妻の介護負担軽減のため、短期入所を利用したいところだが、空きがなく全く利用できない。当初想定した半分以下しか短期入所サービスが提供されていない。
 介護保険施行後、サービス事業所は確かに増大した。しかし、施設系サービスや短期入所は伸び悩んでいる。厚労省も介護費増を抑えるため、施設サービスを要介護度が高い者に限るという方針を出している。介護療養型病床も2012年3月で廃止される。
 今後、団塊の世代の高齢化により、東京など大都市部で要介護高齢者が急速に増大する。現在、60歳前後の者が75歳を超える2025年前後には、施設系サービスや短期入所の不足はより顕著になる。


(2)低所得世帯における過酷な費用負担
 母の介護のため、家族が仕事を辞めざるを得なかった事例が報告されていた。そもそも、介護保険制度は後期高齢者医療制度と同様の問題がある。というより、介護保険制度をまねて、後期高齢者医療制度が作られた。介護保険利用料1割負担は、収入が少ない世帯にとっては馬鹿にならない。さらに、要介護認定による区分限度支給額上限を超えたサービスが必要な利用者は、全額自己負担となってしまう。2009年度介護報酬引き上げにより、自己負担が増えたため、介護サービスを削らなければならないという事態が生じている。


(3)認知症のある独居高齢者問題
 認知症が進行すると、自らの病態を把握することができなくなる。運動機能の低下していない認知症高齢者は、介護保険制度の申請すらしない。物盗られ妄想があると、見知らぬ介護サービス提供者に自宅に来られることも拒否する。
 認知症問題に取組むことが求められている地域包括支援センターも人手不足と予算不足に悩んでいる。この地域は5人の職員が6000人もの高齢者を担当している。1人ひとりの状況は到底把握できない。孤独死を疑わせる事態も生じている。


 以上、全て、介護保険制度が始まった2000年度には想定されていたことである。この時、厚労省は「走りながら制度改善を考える」としていた。しかし、その後にとった対策は介護サービスの充実を目指すものではなかった。
 2006年度には、「制度の持続性」を持ち出し、介護保険見直しを行った。介護予防という概念が導入されたことと介護報酬削減により、高齢者が増大しているにもかかわらず、公的介護費用は伸び悩んだ。介護保険利用者、介護サービス事業者双方にとって厳しい制度改定だった。
 厚労省の宮島俊彦老健局長が、NHKのインタビューに答えていた。制度設計の見直しについて具体的な回答は避けながら、結局は財源問題となることをほのめかしていた。
 本来、介護保険制度は介護の社会化を目指すという建前で導入されたものである。その制度が”使えない”状況に陥っている。保険あって介護なしという事態になっていることを、被保険者である国民はおそらく認識していない。