要介護認定制度の見直しにおける強引な論法展開

 厚生労働省:第1回要介護認定の見直しに係る検証・検討会資料内にある、参考資料 要介護認定制度の見直しの経緯について(PDF:370KB)をみると、要介護認定選択基準を変更した理由を、厚労省官僚は次のように説明している。


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1 なぜ、要介護認定を見直すのか


○ 認定制度に対するご不満の解消
(1)状態が変わらないのに認定が軽くなることがあり、認定にバラツキがあるのではないか。
(2)要介護度が最新のケアを踏まえた介護の手間をきちんと反映していないのではないか
 (参考)現在、使用しているデータは平成13年のもの


 第1項に関して、次のような論理展開をしている。



 調査項目の記載方法に問題があったためにバラツキが生じた。「研究事業」を行い、バラツキが生じにくくなるかどうか確認をした。同時に、審査会資料の変更を行った。



 基本調査74項目中16項目を、実際に介助が行われているかどうか「介助の方法」で判断するようにした。「介助が行われている場合」や「誰がみても介助の必要がない場合」には、新旧どちらの方法でも結果が同じとなる(全体の90%以上)。一方、「ネグレクト等で必要な介助が行われていない場合」には、介助の程度を推量する必要があるため、調査員ごとにバラツキが生じていた。これを、「介助がされていない」という記載に統一することでバラツキを減らすことにした。その上で、特記事項に「不足」と記載し、より適切なケアが必要である場合に修正するようにした。
 なお、審査会資料は、介護の手間(時間)をグラフ化することにより、要介護度の変更が必要かどうかを分かりやすくした。これまで変更の根拠としていた、「状態像の例」、「自立度と認知症度の組み合わせ」などは審査会資料から省いた。



 「研究事業」の結果、一次判定では「一致」62%、「重度に判定」13%、「軽度に判定」26%で、二次判定では「一致」69%、「重度に判定」21%、「軽度に判定」11%になった。以前の要介護認定結果と比べ、大きな変更がないことが確認できた。


 厚労省官僚の論法はかなり強引である。
 「状態が変わらないのに認定が軽くなること」に対する不満を逆手にとり、バラツキが生じないようにするために一次判定方法を変更したと主張している。しかし、実際に行ったのは、「ネグレクト等で本来必要な介護が行われていない」場合に「介助がされていない」方向へと低めに誘導することであった。本来ならいったん高めに認定をすべき対象をわざわざ低めとする逆立ちした論理展開をしている。しかも、認定審査会において、要介護度を容易に変更できないようにしてしまった。適切な要介護認定を求める利用者の気持ちを逆なでするような変更に対し、関係者の不満が爆発する結果となった。厚労省官僚の明らかな失策である。
 「研究事業」もわずか86人しか対象にしていないにも関わらず、実際の数値は全く明らかにされていない。要介護度ごとの区分も示されていない。一方、「モデル事業」では約3万人を対象としたことを示している。「研究事業」でも同程度の対象者がいることを意図的に誤認させようとしている。対象者数が増えるにつれ、一次判定において「軽度に判定」されるものが増大するのではないかという懸念がある。
 「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」の委員には、高見国生氏(社団法人認知症の人と家族の会代表)や樋口恵子氏(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長)など、この間の要介護認定見直しに異議を唱えてきた有識者が含まれている。認定ネットワークシステムを用いてデータが集計されることで、恣意的操作はほぼ入らない。データが出そろう7月に行われる「要介護認定の見直しに係る検証・検討会」においてどのような決着となるか、関係した厚労省官僚は戦々恐々として事態の推移を見守っていると想像する。