要介護認定システムの不備を認定調査員に転嫁する修正

 厚生労働省老健局老人保健課は、修正を行ったhttp://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/nintei/index.htmlを公表した。具体的内容については、三重県|高齢者福祉・介護保険:介護保険最新情報(厚生労働省通知)内にある本年4月からの要介護認定方法の見直しについて(平成21年3月24日)介護保険最新情報VOL70 その1に詳しく記載されているので紹介する。

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 本年4月からの要介護認定方法の見直しについて


 本年4月からの要介護認定方法の見直しについては、平成21年1月30日から同年3月2日までの間に実施した「要介護認定等基準時間の推計の方法(平成12年厚生省告示第91号)の一部改正について」のパブリックコメントや関係団体等からのご意見を踏まえ、下記のとおりの対応を行うこととし、別途、これらが反映された「認定調査員テキスト2009」のPDF ファイルを送付するとともに、今般の要介護認定方法の見直しに係るパンフレットのひな形を送付するので、適宜ご活用願いたい。
 なお、上記の対応を反映させた告示、通知及び「認定調査員テキスト2009」(製本)並びに平成20年12月26日に送付した「認定調査員テキスト2009」の変更箇所の一覧については、改めて送付するので関係者へ周知を願いたい。


 記


1 認定調査項目の選択肢の文言の見直し
 これまで公表されている「認定調査員テキスト2009」では、「介助」に関する項目の選択肢について、「自立(介助なし)」又は「できる(介助なし)」との標記が用いられていたが、この項目は介助の程度を問うているのに、回答では高齢者の能力や状況について言及しており、誤解を生じかねないとのご意見があったことを踏まえ、「介助されていない」に変更することとした。(全16項目)


2 調査項目の解釈の明確化(3項目)
 「認定調査員テキスト2009」において、調査項目の解釈の明確化を行ったので、以下の点を参考に選択肢の選択をされたい。
(1)「移乗」
 「移乗」とは、「ベッドから車椅子」、「ベッドからポータブルトイレ」など、体(でん部)を移動させ椅子等に乗り移ることを想定した項目であるが、ベッド上でシーツ交換や体位変換の際にも、体(でん部)を動かすこととなり、この場合も「移乗」に含まれるものである。例えば、寝たきりであって自分では全く動けないが、体位変換の際に介助者により介助が行われていれば、「全介助」を選択する。
(2)「買い物」
 「買い物」とは、「商品を選択し、代金を支払う」ことであり、無駄な買い物をしているか等の買い物の適切さについては問わないが、代金の支払不足、未払い等があり、後で家族等が返品、清算等の介助を行っているような場合は、「一部介助」を選択する。
(3)「金銭の管理」
 「金銭の管理」とは、自分の所持金の出入金の把握、管理、出し入れする金額の計算等の一連の行為であるが、自分で銀行からお金を下ろすことはできるものの、所持している金額以上の契約を行った後で家族等が清算、契約解除をするなどの介助を行っている場合は、「一部介助」を選択する。


3 「介助されていない」場合の特記事項の記載方法等について
 今回、「認定調査の選択肢の選択方法」については、「能力(18項目)」、「介助の方法(16項目)」、「障害や現象(行動)の有無(28項目)」、「特別な医療(12項目)」のいずれかに分類し、それぞれについて観察、聞き取りに基づいて客観的に選択する方式としたところである。
 これにより、「介助の方法」に係る項目の選択肢の選択については、
(1)「実際に介助が行われている」場合は、新・旧の認定調査員テキストともに「介助あり」を選択することとなっていること
(2)「高齢者が自立しており、介助が行われていない」場合は、旧認定調査員テキストでは「自立」を、新認定調査員テキストでは「介助されていない」を選択することとなっており、実際の事案においては大部分を占めると考えられるこれらの場合については、認定調査員の選択肢に差は生じないと考えられる。
 一方、「介護不足等により介助が行われていない」場合は、旧認定調査員テキストでは、認定調査員が推測して選択肢を選択していたが、これでは、実際に介助が行われているか否か(介助が不足しているか否か)が分からないため、新しい認定調査員テキストでは介護不足等のために「介助されていない」を選択した上で、特記事項に「介護が不足している」等の詳細な理由を記載していただくこととしている。適正な二次判定を行うためには、特記事項の記載が重要となるために、特記事項の充実を図られたい。
 なお、特記事項については、以下の例を含め、「認定調査員テキスト2009」に具体的な記載例を記したところであり、参考とされたい。


 「自立(介助なし)」又は「できる(介助なし)」との標記では誤解を招くので「介助されていない」に変更することとしたと厚労省は述べている。しかし、「自立」と介護力不足での「介助なし」では、本人の介護度は全く異なる。今回の改定は単に標記を変えただけであり、樹形モデルでの扱いは同等である。「介護不足等により介助が行われていない」場合に要介護認定が低く出るおそれは払拭されていない。
 特記事項に「介護が不足している」等の詳細な理由を記載することにしたから問題はないという主張もしている。これは、要介護認定システムの不備を認定調査員に転嫁しているだけに過ぎない。主治医意見書にも同様の問題がある。介護認定審査会テキスト2009では、「特記事項または主治医意見書に具体的な介護の手間を読み取ることができない場合は、一次判定を変更することはできません。」という制限を設けている。利用者が満足できない認定結果となった場合は、一次判定システムの問題ではなく、認定調査員と主治医がしっかりと介護の手間がかかることが分かる記載をしなかったからだという逃げ道が作られている。
 「自立」と介護力不足での「介助なし」をわざわざ同じカテゴリーに入れ混乱させる必要はない。そもそも、「能力」と「介助の方法」を分ける必然性はない。「介助の方法」に分類されている項目を「能力」と同じ評価基準に切り替えればそれで済むことである。


 2009年4月1日申請分から新しい要介護認定システムが稼動し始める。わずかな一週間で、全国の認定調査員に対し十分な指導が成されるとは到底思えない。要介護認定制度は、一次判定システムへの信頼を失った状況で、発足以来最大の混乱を迎えることになる。