介護保険一次判定のロジック(6) 認知症加算

 http://www.pref.mie.jp/CHOJUS/HP/kaisei/index.htm内にある、要介護認定介護認定審査会委員テキスト2009(4,863KB)の45〜46ページに「5.運動能力の低下していない認知症高齢者のケア時間加算ロジック」がある。今回は認知症加算について検討する。

  • 認知症加算
    • 運動能力の低下していない認知症高齢者のケア加算ロジックを用い、条件を満たす場合、1〜2段階あげる
      • 非該当: 1段階加算 7分/ 2段階加算 7+12.5分
      • 要支援1: 1段階加算 12.5分/ 2段階加算 12.5+19分
      • 要支援2/要介護1: 1段階加算 19分/ 2段階加算 19+20分
      • 要介護2: 1段階加算 20分/ 2段階加算 20+20分

 運動能力が低下していない認知症高齢者のケア時間の加算がされるケースは次の方法により決められています。平成19 年度の要介護認定モデル事業(第一次)の対象データ、34,401件で、「認知症高齢者自立度」がIII、IV 又はM かつ「障害高齢者の日常生活自立度」が自立、J 又はA であり要介護認定等基準時間が70 分未満の者について、一次判定結果と審査会による判定結果とを比較し、一次判定結果より審査会の判定がより重度に判定されている群と、そうでない群に分け、両群を比較することにより、重度に判定されることが多い調査結果パターンを統計的に算出(判別分析)しました。


 運動能力の低下していない認知症高齢者のケア時間加算ロジックは、複雑な要素が絡み合っており、要介護認定一次判定の中で最も理解な困難である。
 関係する図表が計4個ある。その概略のみを示す。なお、各選択項目の後ろに、「能力」、「介助の方法」、「有無」のいずれで評価するのかを示す。また、中間評価項目は『』をつけて示す。中間評価項目の点数は最高100点、最低0点になるよう表示される。点数が高いほど介助が不要となるように配点されている。なお、各項目の冒頭の数字は中間評価項目群ごとにつけられた基本調査項目の番号である。


# 図表25 スコア表(非該当、要支援1、要支援2、要介護1の時に使用)

  • ケア時間プラスに関係する項目
    • 「1-11 つめ切り」(介助の方法)
    • 「1-10 洗身」(介助の方法)
    • 「2-5 排尿」(介助の方法)
    • 「2-8 洗顔」(介助の方法)
    • 「5-2 金銭の管理」(介助の方法)
    • 「5-5 買い物」(介助の方法)
  • ケア時間マイナスに関係する項目
    • 『1 身体機能・起居動作』
    • 『2 生活機能』
    • 『4 精神・行動障害』


 運動能力が低下していないという前提を考えると、『1 身体機能・起居動作』と『2 生活機能』は点数が高くなっている推測する。そうなると、「1-11 つめ切り」、「1-10 洗身」、「2-5 排尿」、「2-8 洗顔」などのADL項目と、「5-2 金銭の管理」、「5-5 買い物」などのIADL項目が介助となり、かつ、『4 精神・行動障害』の点数が低くないと、認知症のケア時間には加算されない。
 「認知症高齢者の日常生活自立度」を大雑把に言うと、手段的ADLに介助が必要となったらII、さらにADLにも問題が生じるか周辺症状が悪化したらIIIからIV、入院しなければいけないようならMとなる。図表25のロジックは、「認知症高齢者の日常生活自立度」でIII以上にならないと実際には加算が行われないということを意味している。


# 図表26 スコア表(要介護2)

  • ケア時間プラスに関係する項目
    • 「1-11 つめ切り」(介助の方法)
    • 「1-10 洗身」(介助の方法)
    • 「2-1 移乗」(介助の方法)
    • 「3-9 外出して戻れない」(有無)
    • 理解および記憶(主治医意見書): 図表27を用い、0〜6レベルに分ける。
  • ケア時間マイナスに関係する項目
    • 『2 生活機能』
    • 『5 社会への適応』
    • 『4 精神・行動障害』


# 図表27 理解及び記憶(主治医意見書)の算出方法

  • 「日常の意思決定を行うための認知能力」が、”自立”、”いくらか困難”、”見守りが必要”
    • 認知症の中核症状」3項目(「日常の意思決定を行うための認知能力」、「短期記憶」、「自分の意思の伝達能力」)
      • 0レベル(障害なし): 「日常の意思決定を行うための認知能力」”自立”、「短期記憶」”問題なし”、「自分の意思の伝達能力」”伝えられる”
      • 1レベル(境界的): 3項目のうち1項目が上記以外に該当
      • 2レベル(軽度の障害): 3項目のうち2〜3項目に該当し、かつ、「日常の意思決定を行うための認知能力」、「自分の意思の伝達能力」両者とも”いくらか困難”の部分に該当
      • 3レベル(中等度の障害): 「日常の意思決定を行うための認知能力」が”見守りが必要”、「自分の意思の伝達能力」が”具体的要求に限られる”又は”伝えられない”のいずれかに該当
      • 4レベル(重度の障害): 上記2項目の両者に該当
  • 「日常の意思決定を行うための認知能力」が、”判断できない”
      • 5レベル(重度の障害): 「食事」が”自立”、”何とか自分で食べられる”
      • 6レベル(最重度の障害): 「食事」が”全面介助”


 主治医意見書の項目中、図表27に用いられるのは、「3.心身の状態に対する意見」の「(2)認知症の中核症状」に含まれる3項目(短期記憶、日常の意思決定を行うための認知能力、自分の意思の伝達能力)と、「4.生活機能とサービスに関する意見」の「(2)栄養・食生活」に含まれる「食事行為」である。
 なお、主治医意見書の様式は、「4.生活機能とサービスに関する意見」の「(5)医学的管理の必要性」の中に、「看護職員の訪問による相談・支援」が加わった以外変更はない。


 本ロジックでは、定数項と『2 生活機能』の比重が高く設定される。認定審査会での経験から言っても、要介護2から1ランク以上加算されることはほとんどない。


# 図表28 運用基準
 認知症高齢者のケア時間加算ロジックで1段階上がる時間を加算された者が、下記基準を満たした場合、さらに時間が加算され2段階上がる。

  • 「4-6 大声を出す」(有無)
  • 「4-7 介護に抵抗」(有無)
  • 「3-8 徘徊」(有無)
  • 「3-9 外出して戻れない」(有無)
  • 「4-9 一人で出たがる」(有無)
    • 自立: 1項目以上に該当
    • 要支援1: 2項目以上に該当
    • 要支援2/要介護1: 4項目以上に該当
    • 要介護2: 5項目に該当


 「運動能力の低下していない認知症高齢者のケア時間加算ロジック」をまとめてみたが、迷宮に入り込んだ気分がする。現実問題として、このロジックが実際の一次判定時にどの程度影響するか検討がつかない。認知機能の低下そのものに焦点をあててはいない。運動能力の低下していない認知症高齢者が正しく判別されない傾向が今後も続くと予測する。