総合評価加算取得に向けた準備

 日本老年医学会時に総合評価加算取得の条件である高齢者医療研修会を受講してきたが、先日、修了証書が届いた。9月からの算定に向け、これから準備を始める。
 診療報酬規定における総合評価加算(100点)取得には次の要件が必要である。*1

[対象]
 入院中の患者であって、介護保険法施行令(平成10年政令第412号)第2条各号に規定する疾病を有する40歳以上65歳未満のもの又は65歳以上のもの(第1節の入院基本料(特別入院基本料等を除く。)又は第3節の特定入院料のうち、総合評価加算を算定できるものを現に算定している患者に限る。)*2
[目的]
 入院当初から退院後にどのような生活を送るかということを念頭に置いた医療を行う。
[条件]
 当該患者の基本的な日常生活能力、認知機能、意欲等について総合的な評価を行った場合。
 当該保険医療機関内に、高齢者の総合的な機能評価に係る研修を受けた医師又は歯科医師が一名以上配置されていること。
 当該保険医療機関内で高齢者の総合的な機能評価のための職員研修を計画的に実施すること。
 病状の安定が見込まれた後できるだけ早期に行う。
 総合的な機能評価に係る測定は、医師又は歯科医師以外の医療職種が行うことも可能であるが、当該測定結果に基づく評価は、研修を修了した医師又は歯科医師若しくは当該患者に対する診療を担う医師又は歯科医師が行わなければならない。
 総合的な機能評価の結果について患者及びその家族等に説明し、要点を診療録に記載すること。
 関係学会等より示されているガイドラインに沿った評価が適切に実施されるよう十分留意すること。
[算定回数]
 入院中1回に限る。


 「高齢者の総合的な機能評価に係る研修」は、日本老年医学会、日本医師会全日本病院協会が行っている。座学とワークショップあわせ、計16時間に及ぶハードな日程の研修会である。
 関係学会等より示されているガイドラインに沿った評価とは、「健康長寿診療ハンドブック」で紹介されているようなものを示している。


 座学研修で示されたものは、次のような内容だった。

 高齢者総合機能評価とは、疾患評価(普遍的評価)だけでなく、
1)日常生活活動度、
2)家庭での生活手段の自立、
3)物忘れ、認知症の程度、
4)行動異常の程度、
5)抑鬱など気分障害、意欲、
6)家族の介護能力、介護負担、
7)在宅環境などを
 総合的に検査、評価し、個人の生活個別性を重視したケアを選択する方法


 もっとも簡単な評価法として推奨されたのが下記CGA7である。なお、CGAとは、高齢者総合機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment)の略である。

 CGA7 と異常が認められた場合の二次検査項目
1)意欲
 外来患者の場合、診察時に被験者の挨拶を待つ
 入院患者や施設入所者の場合、自ら定時に起床するか、もしくはリハビリへの積極性で判断
→ Vitality index
2)認知機能
 「これから言う言葉を繰り返してください(桜、猫、電車)」「あとでまた聞きますから覚えておいてください」
→ MMSEまたはHDS-R
3)手段的ADL
 外来患者の場合、「ここまでどうやって来ましたか?」
 入院患者や施設入所者の場合、「普段バスや電車、自家用車を使ってデパートやスーパーマーケットに出かけますか?」
→ Lawton IADL
4)認知機能
 「先程覚えていただいた言葉を言ってください」
→ MMSEまたはHDS-R
5)基本的ADL
 「お風呂は自分ひとりで入って、洗うのに手助けは要りませんか?」
→ Barthel index
6)基本的ADL
 「失礼ですが、トイレで失敗することはありませんか?」
→ Barthel index
7)情緒・気分
 「自分が無力だと思いますか?」
→ GDS15

 家族の介護能力、介護負担、在宅環境以外はCGA7に含まれている。


 当院の場合、かかりつけの要介護高齢者、急性期病院からの紹介患者が主な対象となる。内容的には、既に実施しているものがほとんどである。ガイドラインに沿って、システムを整備するだけで新たな負担なしに対応可能と判断する。具体的には、次のような流れを考え、看護部や関連部署に提案してみることにする。

# 入院時、看護師問診
[入院ルート]
○ 通常外来、○ 救急、○ 他院からの紹介(リハ目的)、○ 他院からの紹介(リハ以外)
[社会資源利用状況]
○ 介護保険有無 → ありの場合、要介護度、ケアマネ、利用サービス状況を確認
○ 身体障害者手帳有無 → ありの場合、障害分類と等級を確認
[生活場所]
○ 自宅(持ち家・賃貸)、○ サービス付高齢者住宅・有料老人ホーム、○ 介護保険施設老健、特養)、○ その他
[家族状況]
○ 本人を含む同居家族数、続柄、○ その他介護を手伝ってくれる方の有無
[当院版CGA(入院前お元気な時のADL・IADL)]
1)IADL
 公共交通機関利用:「普段バスや電車、自家用車を使って、ひとりでデパートやスーパーマーケットに出かけてましたか?」
 服薬管理:「お薬は、ひとりで服用していましたか?それとも、ご家族が管理したり、服薬カレンダーなどの工夫をしていましたか?」
2)ADL
 屋外移動:「毎日1回は、ひとりで屋外に出ていましたか?その時、杖やシルバーカーを使っていましたか?」
 屋内移動:「自宅の中はひとりで安全に歩けましたか?転倒してはいませんでしたか?」
 排泄:「失礼ですが、トイレで失敗することはありませんか?」
 食事:「ご家族の方と同じ食事を食べていましたか?食事の工夫をしたり、介助をしたりしませんでしたか?」
3)認知機能
 BPSD:「徘徊、妄想、暴言・暴行などの問題行動はありませんでしたか?」
 記憶障害:「最近のことを覚えられず繰り返し聞き直すとかはありませんでしたか?」
[入院時ADL]
 歩行:病棟内歩行(自立、監視、介助)
 移乗:移乗(自立、監視、介助)
 排泄:場所(トイレ、ポータブルトイレ)、(自立、監視、介助)、オムツ(あり、なし)、膀胱カテーテル(あり、なし)
 食事:食事(可、絶食)、(自立、監視、介助)


# カンファレンス(週1回実施)
 看護師評価:入院時評価に加え、入院後の観察評価を行った結果を担当看護師が電子カルテ上にまとめて医師の判断をあおぐ。意欲、認知に関しては、観察評価を重視する。
 医師評価:1)二次評価不要、2)二次評価必要(リハビリテーション科へ依頼)、3)二次評価必要(○○へ依頼)
 説明者:1)主治医、2)病棟スタッフ、3)その他

 要介護認定を受けていて、介護サービスを既に利用している者で本人の状態にも家族状況にも変化がなければ、二次評価不要ということになる。運動機能障害、高次脳機能評価、嚥下障害などの評価については、リハビリテーション科で気軽に相談を受けている。ただし、うつ病などに関してはリハビリテーション科よりは精神科の方が適当である。
 この他、栄養評価、褥瘡評価も必要だが、それぞれ、NST、褥瘡評価チームが対応している。歯科衛生士もいるため、口腔ケアも怠りなく行っている。中小規模病院なので実に小回りがきく。必要にせまられてその都度対応してきたことが総合評価加算取得に役立ちそうである。

*1:参照A240 総合評価加算 - 診療報酬点数表Web 医科 2012

*2:註:回復期リハビリテーション病棟入院料では算定できない。