地域包括ケアの推進

 2014年度診療報酬改定の検討を続ける。今回は、地域包括診療料と地域包括診療加算の新設を取り上げる。中央社会保険医療協議会 総会(第270回) 議事次第内にある、個別改定項目について(その1)総−4(PDF:2,099KB)、重点課題1-2、主治医機能の評価(その1)および(その2)(42〜47ページ)より、重要部分を引用する。

第1 基本的な考え方
 外来の機能分化の更なる推進の観点から、主治医機能を持った中小病院及び診療所の医師が、複数の慢性疾患を有する患者に対し、患者の同意を得た上で、継続的かつ全人的な医療を行うことについて評価を行 う。


第2 具体的な内容
 中小病院及び診療所において、外来における再診時の包括的な評価を新設する。
 (新) 地域包括診療料 ○点(月1回)


[包括範囲]
 (略)


[算定要件]
1)対象患者は、高血圧症、糖尿病、脂質異常症認知症の4疾病のうち2つ以上(疑いは除く。)を有する患者とする。なお、当該医療機関で診療を行う対象疾病(上記4疾病のうち2つ)と重複しない対象疾病(上記4疾病のうち2つ)について他医療機関で診療を行う場合に限り、当該他医療機関でも当該診療料を算定可能とする。
2)対象医療機関は、診療所および許可病床が200床未満の病院とする。
3)担当医を決めること。また、当該医師は、関係団体主催の研修を修了していること。(当該取り扱いについては、平成○年○月○日から施行する。)
4)以下の指導、服薬管理等を行っていること。

  • ア) 患者の同意を得て、計画的な医学管理の下に療養上必要な指導及び診療を行うこと。
  • イ) 他の医療機関と連携の上、患者がかかっている医療機関をすべて把握するとともに、処方されている医薬品をすべて管理し、カルテに記載すること。
  • ウ) 当該患者について院内処方を行うこと。
  • エ) 診療所において院外処方を行う場合は、下記の通りとする。
    • a. 24 時間対応をしている薬局と連携していること。

 (略)
5)以下の健康管理等を行っていること。
ア) 健康診断・検診の受診勧奨を行いその結果等をカルテに記載するとともに、患者に渡し、評価結果をもとに患者の健康状態を管理すること。
 (略)
6)介護保険に係る相談を行っている旨を院内掲示し、要介護認定に係る主治医意見書を作成しているとともに、下記のいずれか一つを満たすこと。

  • ア) 居宅療養管理指導又は短期入所療養介護等を提供していること
  • イ) 地域ケア会議に年1回以上出席していること
  • ウ) ケアマネージャーを常勤配置し、居宅介護支援事業所の指定を受けていること
  • エ) 介護保険の生活期リハを提供していること
  • オ) 当該医療機関において、同一敷地内に介護サービス事業所を併設していること
  • カ) 介護認定審査会に参加した経験があること
  • キ) 所定の研修を受講していること
  • ク) 医師がケアマネージャーの資格を有していること
  • ケ) 病院の場合は、総合評価加算の届出を行っていること、又は介護支援連携指導料を算定していること

7)在宅医療の提供および24時間の対応について、在宅医療を行うことを院内掲示し、夜間の連絡先も含めて当該患者に対して説明と同意を求めるとともに、下記のうちすべてを満たすこと
・診療所の場合は

  • ア) 時間外対応加算1を算定していること イ) 常勤医師が3人以上在籍していること ウ) 在宅療養支援診療所であること

・病院の場合は、

  • ア) 2次救急指定病院又は救急告示病院であること
  • イ) 地域包括ケア病棟入院料(新規)又は地域包括ケア入院医療管理料(新規)を算定していること
  • ウ) 在宅療養支援病院であること

8)地域包括診療料と地域包括診療加算はどちらか一方に限り届出すること ができる
9)初診時には算定できない

第1 基本的な考え方
 外来の機能分化の更なる推進の観点から、主治医機能を持った診療所の医師が、複数の慢性疾患を有する患者に対し、患者の同意を得た上で、継続的かつ全人的な医療を行うことについて評価を行う。


第2 具体的な内容
 診療所において、複数の慢性疾患を有する患者に対し、服薬管理や健康管理等を行うことについての評価を新設する。
 (新) 地域包括診療加算 ○点(1回につき)


(略)


 一読する限り、かなりハードルが高い規定である。特に問題となるのが、院内処方の部分である。医薬分業を推進していた厚労省が、地域包括診療料および同加算に関しては、院内処方の要件とするという矛盾した対応となっている。院外処方と院内処方が混在する場合、医療機関の窓口業務が繁雑となる。
 病院の施設要件も厳しい。病床200床未満で、かつ、2次救急指定病院又は救急告示病院であること、地域包括ケア病棟入院料(新規)又は地域包括ケア入院医療管理料(新規)を算定していること、在宅療養支援病院であることを全て満たす病院が少ないと予想する。


 注目すべきは、地域包括という言葉が、外来診療においても使われていることである。地域包括ケアシステムには、次のような記載および図がある。

 地域包括ケアシステム
団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます。
○ 今後、認知症高齢者の増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも、地域包括ケアシステムの構築が重要です。
○ 人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。
 地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが必要です。

 地域包括ケアシステムの捉え方
○ 地域包括ケアシステムの5つの構成要素(住まい・医療・介護・予防・生活支援)をより詳しく、またこれらの要素が互いに連携しながら有機的な関係を担っていることを図示したものです。
○ 地域における生活の基盤となる「住まい」「生活支援」をそれぞれ、植木鉢、土と捉え、専門的なサービスである「医療」「介護」「予防」を植物と捉えています。
○ 植木鉢・土のないところに植物を植えても育たないのと同様に、地域包括ケアシステムでは、高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた「住まい」が提供され、その住まいにおいて安定した日常生活を送るための「生活支援・福祉サービス」があることが基本的な要素となります。そのような養分を含んだ土があればこそ初めて、専門職による「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保健・予防」が効果的な役目を果たすものと考えられます。


 今回の診療報酬改定において、地域包括ケア病棟や地域包括診療料に、地域包括という用語が用いられた。2015年度介護報酬改定においては、介護保険分野での対応が進む。地域包括診療料の算定要件をよく読むと、医療と介護を一体として運用している医療機関、いわゆる「保健・医療・福祉複合体」の役割を評価し、後押ししているかのように思える。いずれにせよ、厚労省が地域包括ケアシステム構築を推進しているという背景を認識したうえで、診療報酬改定の意味を理解することが大事である。