介護保険一次判定のロジック(7) 状態の維持・改善可能性

 http://www.pref.mie.jp/CHOJUS/HP/kaisei/index.htm内にある、要介護認定介護認定審査会委員テキスト2009(4,863KB)の47〜50ページに「6.状態の維持・改善可能性の判定ロジック」があり、その説明が39〜40ページにある。今回はこのロジックについて検討する。

  • 要介護認定基準時間32分以上50分未満のものの振り分け
    • 認定調査結果と主治医意見書の認知症高齢者の日常生活自立度の組み合わせで判定
      • 両者とも自立またはI: 状態安定性の判定ロジックにより評価
      • 一方がII以上: 認知症自立度II以上の蓋然性評価ロジックを樹形モデルにより評価
      • 両者ともII以上: 介護給付(要介護1)
    • 認知症自立度II以上の蓋然性評価ロジックを樹形モデルにより評価
      • 50%未満: 状態の安定性により評価
      • 50%以上: 介護給付(要介護1)
    • 状態安定性の判定ロジックにより評価
      • 安定: 予防給付(要支援2)
      • 不安定: 介護給付(要介護1)

 要介護認定等基準時間が32 分以上50 分未満のものを「要支援2」と「要介護1」へ振り分ける際に参照します。
 平成18 年の制度改正では、新予防給付の導入に伴い、審査会の判断により、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」又は「認知機能や思考・感情等の障害により十分な説明を行ってもなお、新予防給付の利用に係る適切な理解が困難である状態」のみを「要介護1」と判定していました。
 平成21 年度改正では、基本的な振り分けの考え方は継続し、認知症自立度II 以上の蓋然性、状態の安定性の推計結果を一次判定ソフトが推計し、「要介護1」と判定する際の上記2つの状態像を推測し、その結果を判定の参考となるように表示したものです。


# 認知症自立度II以上の蓋然性評価ロジック
 本樹形モデルは%で示される。枝分かれ先の蓋然性が50%未満となるか50%以上になるところまで示す。蓋然性50%以上の場合、介護給付(要介護1)と判定される。
 なお、各選択項目の後ろに、「能力」、「介助の方法」、「有無」のいずれで評価するのかを示す。各項目の冒頭の数字は中間評価項目群ごとにつけられた基本調査項目の番号である。また、中間評価項目は『』をつけて示す。中間評価項目の点数は最高100点、最低0点になるよう表示される。点数が高いほど介助が不要となるように配点されている。
 主治医意見書記載項目は、「医」をつけて示す。本ロジックに用いられるのは、「3.心身の状態に対する意見」の「(2)認知症の中核症状」に含まれる2項目(短期記憶、日常の意思決定を行うための認知能力、自分の意思の伝達能力)である。特に、「日常の意思決定を行うための認知能力」がきわめて重要な役割を果たしている。

  • 『3 認知機能』
    • 93.8以下
      • 「医 日常の意思決定を行うための認知能力」”自立”
        • 『5 社会への適応』58.4以下: 67.6%(介護給付)
        • 『5 社会への適応』58.5以上: 15.6%
      • 「医 日常の意思決定を行うための認知能力」”いくらか困難”、”見守りが必要”、”判断できない”: 69.5〜99.0%(介護給付)
    • 93.9以上
      • 「医 日常の意思決定を行うための認知能力」”自立: 0.3〜20.9%
      • 「医 日常の意思決定を行うための認知能力」”いくらか困難”、”見守りが必要”、”判断できない”
        • 「5-3 日常の意思決定」(能力)”できる”: 3.6〜49.0%
        • 「5-3 日常の意思決定」(能力)”特別な場合を除いてできる”、”日常的に困難”、”できない”
          • 「5-1 薬の内服」”自立”: 35.6%
          • 「5-1 薬の内服」”一部介助”、”全介助”: 49.2〜95.7%


 基本調査で、『3 認知機能』(意志の伝達、毎日の日課を理解、生年月日をいう、短期記憶、自分の名前をいう、今の季節を理解、場所の理解、徘徊、外出して戻れない)が多少でも低下していると判断された場合、主治医意見書の「日常の意思決定を行うための認知能力」が自立以外であれば、自動的に介護給付相当となる。もし、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」が自立であっても、『5 社会への適応』(薬の内服、金銭管理、日常の意思決定、集団への適応、買い物、簡単な調理)で相応の介助がされているようなら、同じく介護給付となる。
 一方、『3 認知機能』93.9以上とほぼ問題なく、かつ、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」が自立であれば、その時点で蓋然性は50%以下となる。『3 認知機能』93.9以上、かつ、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」がいくらか困難、見守りが必要、判断できない、という枝分かれは現実問題として想定しにくく、基本調査、主治医意見書のどちらかに判定ミスがあると判断した方が良い。
 本樹形モデルは、他の要介護認定に関わる樹形モデルと比べても理解しやすい。主治医意見書を記載する医師は、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」の部分を適切に記載する義務を負っている。特に、IADLに関わる部分(薬の内服、金銭の管理、買い物、調理などの火の始末)に問題がないかどうか家族やケアマネに確認することが求められる。認知機能低下が原因となりIADLが自立していない場合には、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」を”いくらか困難”、”見守りが必要”あるいは”判断できない”と記載することが求められる。


# 状態の安定性の判定ロジック

 要介護認定を2回連続して実施した者のうち、1回目の認定で要介護1又は要支援2と判定された高齢者(126,231 件)を、2 回目の認定で1回目より重度に判定された群と、2回目の認定が1回目と同じ、又は改善が見られた群の2群に分けて、判別分析を実施しました。うち、2回目の認定で重度化する群を状態不安定、維持・改善している群を状態安定としました。(判別分析は集団をある条件のもと2つのグループに分ける統計手法です。条件となる認定調査項目の回答結果の組み合わせにより、対象となる高齢者が、2回目の認定時に判定が重度化している高齢者か、1回目の認定結果と同じ又は改善されている高齢者かを判別することができます。運動能力の低下していない認知症高齢者に対する加算(認知症加算)に対しても同じ統計手法が用いられています。)

 状態の安定性の判定ロジックに用いられる調査項目

  • 「1-7 歩行」
  • 「1-11 つめ切り」
  • 「1-10 洗身」
  • 「2-1 移乗」
  • 「2-5 排尿」
  • 「2-11 ズボンの着脱」
  • 「2-7 口腔清潔」
  • 「3-6 今の季節を理解」
  • 「3-2 毎日の日課を理解」
  • 「4-7 介護に抵抗」
  • 「5-3 日常の意思決定」
  • 「5-2 金銭管理」
  • 「5-1 薬の内服」


 本ロジックでは、意図的なすり替えが行われている。これまでは、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」かどうかを認定審査会が判定していた。しかし、実際に使用されたロジックは要介護認定が重度化したか維持・改善しているかを根拠としている。したがって、ADL・IADL、認知機能が低下しているかどうかが状態の安定性の判断に用いられている。
 認定審査会では、本来の趣旨に基づき、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」であるかどうかを判断する必要がある。その意味で、主治医意見書の「1.傷病に関する意見」の「(2)症状としての安定性」に関し、主治医が適切に記載することが求められる。