2009年度版介護保険一次判定のロジック(まとめ)
2009年度版介護保険一次判定のロジックについてのエントリーをまとめる。http://www.pref.mie.jp/CHOJUS/HP/kaisei/index.htm内にある、要介護認定介護認定審査会委員テキスト2009(4,863KB)、「5 介護認定審査会資料の見方」(32〜59ページ)を参考とした。
I 概要
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1.一次判定と要介護認定基準時間
認定調査結果に基づき算出された要介護認定基準時間等により、下記のような形で一次判定結果が表示される。
- 非該当: 25分未満
- 要支援1: 25分以上32分未満
- 要支援2-要介護1: 32分以上50分未満
- 要介護2: 50分以上70分未満
- 要介護3: 70分以上90分未満
- 要介護4: 90分以上110分未満
- 要介護5: 110分以上
2.要介護認定等基準時間の算出方法
要介護認定等基準時間は次のような形で算定される。
- 樹形モデルを用い、行為区分毎に算出
- 直接生活介助
- 食 事: 1.1分〜71.4分
- 排 泄: 0.2分〜28.0分
- 移 動: 0.4分〜21.4分
- 清潔保持: 1.2分〜24.3分
- 間接生活介助: 0.4分〜11.3分
- BPSD関連行為: 5.8分〜21.2分
- 機能訓練関連行為: 0.5分〜15.4分
- 医療関連行為: 1.0分〜37.2分
- 直接生活介助
- 特別な医療の有無で「医療関連項目」に加算
- 認知症加算
- 運動能力の低下していない認知症高齢者のケア加算ロジックを用い、条件を満たす場合、1〜2段階あげる
- 非該当: 1段階加算 7分/ 2段階加算 7+12.5分
- 要支援1: 1段階加算 12.5分/ 2段階加算 12.5+19分
- 要支援2/要介護1: 1段階加算 19分/ 2段階加算 19+20分
- 要介護2: 1段階加算 20分/ 2段階加算 20+20分
- 運動能力の低下していない認知症高齢者のケア加算ロジックを用い、条件を満たす場合、1〜2段階あげる
- 要介護認定基準時間32分以上50分未満のものの振り分け
II 各ロジックの特徴と問題点
# 直接生活援助
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直接生活援助には、食事、排泄、移動、清潔保持が含まれる。いずれも、樹形モデルの第2層まではほとんど『2 生活機能』およびそこに含まれる基本調査項目(「2-4 食事摂取」、「2-3 えん下」、「2-1 移乗」、「2-6 排便」、「2-10 上衣の着脱」)で占められている。ただ一つ、清潔保持における「1-4 起き上がり」が異なるが、これも考えようによっては、『2 生活機能』に含まれてもおかしくない。
コンピューター判定をしているといっても結局はADL自立度で直接生活援助を測定しているのと同じことになっている。介助の方法で判定される項目が多いことが問題である。介護力不足で介護が行われていない場合には、『2 生活機能』に含まれる基本調査項目が低く評価される。その結果、妥当でない一次判定が行われる危険性が高くなる。介護認定審査会の判定時に注意が必要である。
# 間接生活介助、BPSD関連行為、機能訓練関連行為
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関節生活援助、BPSD関連行為(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia、認知症に伴う行動・心理症状を意味する)、そして、機能訓練関連行為の樹形モデルは、どの枝分かれに入っても要介護認定基準時間に大差がない。この結果、次のような矛盾が生じている。
日常生活活動(ADL)は自立していても手段的ADLは介助が必要な虚弱高齢者を判定することができない。虚弱高齢者の中から大量の非該当者が生まれることが危惧される。
運動機能の低下していない認知症高齢者を判別することができない。認知症高齢者の要介護度は、実際の介護の必要度より低くでることが介護保険当初から指摘されている。改定版一次判定ロジックでは、欠陥が修正されずに残っている。
機能訓練が必要な者を判別できない。そもそも、要介護者は低活動状態に伴い廃用症候群を生じやすい。要介護認定者のほとんどに機能訓練が必要である。機能訓練関連行為という樹形モデルが必要かどうかが問われている。
# 医療関連行為と特別な医療
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医療関連行為の樹形モデルは、「2-3 えん下」ができない者に、医療関連行為で時間がかかる者が多いというきわめて単純な構造になっている。
「2-3 えん下」は、直接生活援助における食事の要介護認定基準時間短縮に作用するが、医療関連行為では延長に働き、その影響は両者で相殺される。一方、実際に医療関連行為の介護を受けていても、「2-3 えん下」はできる、見守り等と判定されると、医療関連行為の要介護基準時間は低いままとなる。
特別な医療は樹形モデルではなく、要介護認定基準時間の単純な加算である。しかし、医師、または、医師の指示に基づき看護師等によって実施される行為に限定される。
規制がきわめて多い。例えば、経管栄養を行っていても、栄養剤の注入が訪問看護によって行われていなければ、「ない(該当しない)」を選択することになっている。認定審査会で「特別な医療」の実施状況を適切に判断し、要介護度を決定することが求められる。
運動能力の低下していない認知症高齢者のケア時間加算ロジックは、複雑な要素が絡み合っており、要介護認定一次判定ロジックの中で最も理解な困難な部分となっている。
非該当、要支援1、要支援2、要介護1の時に使用するスコア表をみると、ADLにも問題が生じるか周辺症状が悪化する程度、すなわち、「認知症高齢者の日常生活自立度」でIII以上にならないと実際には加算が行われない構造になっている。
要介護2の時に使用されるスコア表、および、要介護度を2段階上げる運用基準については、実際の一次判定時にどの程度影響するか検討がつかない。認知機能の低下そのものに焦点をあててはいない。運動能力の低下していない認知症高齢者が正しく判別されない傾向が今後も続くと予測する。
# 状態の維持・改善可能性
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2006年度介護報酬改定では、要介護1相当と判定された者を、要介護認定審査会を経て、要支援2と要介護1に振り分けた。2009年度改定では、この振り分けをまずコンピューター判定に委ねることになった。
(1)認知症自立度II以上の蓋然性評価ロジック
基本調査で、『3 認知機能』(意志の伝達、毎日の日課を理解、生年月日をいう、短期記憶、自分の名前をいう、今の季節を理解、場所の理解、徘徊、外出して戻れない)が多少でも低下していると判断された場合、主治医意見書の「日常の意思決定を行うための認知能力」が自立以外であれば、自動的に介護給付相当となる。もし、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」が自立であっても、『5 社会への適応』(薬の内服、金銭管理、日常の意思決定、集団への適応、買い物、簡単な調理)で相応の介助がされているようなら、同じく介護給付となる。
本樹形モデルは、他の要介護認定に関わる樹形モデルと比べても理解しやすい。主治医意見書を記載する医師は、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」の部分を適切に記載する義務を負っている。特に、IADLに関わる部分(薬の内服、金銭の管理、買い物、調理などの火の始末)に問題がないかどうか家族やケアマネに確認することが求められる。認知機能低下が原因となりIADLが自立していない場合には、「医 日常の意思決定を行うための認知能力」を”いくらか困難”、”見守りが必要”あるいは”判断できない”と記載することが求められる。
(2)状態の安定性の判定ロジック
本ロジックでは、意図的なすり替えが行われている。これまでは、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」かどうかを認定審査会が判定していた。しかし、実際に使用されたロジックは要介護認定が重度化したか維持・改善しているかを根拠としている。したがって、ADL・IADL、認知機能が低下しているかどうかが状態の安定性の判断に用いられている。
認定審査会では、本来の趣旨に基づき、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」であるかどうかを判断する必要がある。その意味で、主治医意見書の「1.傷病に関する意見」の「(2)症状としての安定性」に関し、主治医が適切に記載することが求められる。
III まとめ
2009年度版介護保険一次判定のロジックをまとめると、次のようになる。
- 多少でも意味があるロジック
- 直接生活援助
- 医療関連行為、特別な医療
- (要介護1相当における)認知症自立度II以上の蓋然性評価
- 判定保留
- 無意味なロジック
- 間接生活介助
- BPSD関連行為
- 機能訓練関連行為
- 有害なロジック
- 状態の安定性の判定ロジック
生活機能がより低下すると、要介護認定基準時間が延長する傾向は保たれている。特に重症群に関しては、介護力不足で介護が行われていない場合に注意すれば、問題となることは少ないと予想する。
一方、手段的ADLのみが低下している虚弱群、運動能力の低下していない認知症高齢者を判別することは一次判定ではほとんど不可能である。なお、要介護1相当の場合には、主治医意見書で「日常の意思決定を行うための認知能力」の部分が適切に記載されていれば、認知症自立度II以上の蓋然性評価の精度が上がる構造になっている。
要介護1相当に使用される、状態の安定性の判定ロジックは有害でしかない。本来の趣旨に基づき、主治医意見書などの記載を参考にし、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」であるかどうかを判断する必要がある。