平成27年度介護報酬改定のポイント(メモ)

 平成27年度介護報酬改定に関する答申が出た。第119回社会保障審議会介護給付費分科会資料に、2月6日に行われた第119回社会保障審議会介護給付費分科会資料が示されている。なお、個々の介護報酬改定の内容は、諮問書(PDF:7,284KB)に詳しく載っている。
 今回の介護報酬改訂内容は、参考資料1 平成27年度介護報酬改定に関する審議報告(PDF:809KB)資料1−1 平成27年度介護報酬改定の概要(案)(改)(PDF:892KB)に具体的に記載されているが、資料1−2 平成27年度介護報酬改定の概要(案)骨子版(PDF:2,508KB)の方がより簡潔にまとめられている。今回は、この骨子版をもとに、平成27年度介護報酬のポイントをメモ代わりに整理した。


# ポイント1: 大幅なマイナス改訂


 改訂率は、−2.27%である。しかも、処遇改善、介護サービスの充実分プラスを除くと、−4.48%にもなる。「持続可能性」という言葉は、社会保障制度における給付切り下げの時に必ず使用される魔法の言葉である。言い換えれば、放置すると制度自体が破綻するから多少のことは我慢しろ、ということを意味している。介護事業者が生き残ろうとすると、その痛みは介護職員や利用者に降りかかる。一方で給付を引き下げながら、同時に介護職員の待遇改善と利用者のサービス向上が図ることが可能という厚労省の主張は欺瞞に満ちている。


# ポイント2: 軽度者の介護保険からの切り離し


 中重度の要介護者や認知症高齢者への対応強化が目標と述べているが、実際は、軽度者に対する給付引下げの方が主目的である。
 諮問書の中身を精査するとわかるが、在宅は軒並み引き下げられているが、特に、介護予防通所介護と介護予防通所リハビリテーションの引下げ幅が極端である。

  • 介護予防通所介護(1月あたり): 要支援1 2,115単位 → 1,647単位(−22.1%)、要支援2 4,236単位 → 3,377単位(−20.3%)。
  • 介護予防通所リハビリテーション(1月あたり): 要支援1 2,433単位 → 1,812単位(−25.5%)、要支援2 4,831単位 → 3,715単位(−23.7%)。

 介護予防事業は、通常の介護事業と一体として運用される。今後、要支援1、2の利用者は敬遠される。週2回の利用が週1回に、週1回の利用が隔週ないし利用終了に追い込まれることになりかねない。


 地域における医療および介護の総合的な確保の促進に関する法律の施行を受け、要支援1、2に対する介護予防訪問看護と介護予防通所介護は、順次、市町村が運営する総合事業に移管することが決まっている。第111回社会保障審議会介護給付費分科会資料内にある参考資料1−1 介護予防・日常生活支援総合事業 ガイドライン案(骨子)(PDF:1,326KB)には、下図のようなスケジュールが提示されている。現在のサービスと比べ、総合事業がより低い水準にとどまることが予想される。



# ポイント3: 目標と期間を明確にし終了を前提としたリハビリテーションの推進


 リハビリテーション関連報酬には、新設項目が目立つ。http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-rouken.html?tid=216570で議論された内容が介護報酬改定に反映されている。
 個々の内容については、要件について読み込んで精査する必要がある。ただし、関連職種が集まるリハビリテーション会議を定期的に開催し、目標とそれに到達する期間を明確にし、リハビリテーション終了を前提としてその後のサービスも考えるという姿勢が強調されていることだけは、はっきりしている。感染症や転倒などを原因として容易に要介護状態となってしまう虚弱高齢者や、神経筋疾患・認知症などのように緩徐進行するタイプの疾患では、長期にリハビリテーション専門職が関わる必要性がある。リハビリテーションは一定期間の後に終了しなければならないということだけが強調されると、リハビリテーション専門職のサービスを継続して受けたいという利用者のニーズに応えられない。


# ポイント4: 施設での看取り機能の強化


 今後、死亡者数は119.2万人(2010年)から159.7万人(2030年)へと急増すると予想されていることを受け、厚労省は病院以外での看取り場所の確保に躍起となっている。診療報酬改定での対応に加え、介護保険施設でも看取りを行うことを推進しようとしている。


# ポイント5: 口から食べる楽しみへの支援として観察と会議を評価


 経口維持加算に関して変更があった点は、摂食・嚥下機能に配慮した経口維持計画という表現が、多職種による食事の観察(ミールラウンド)や カンファレンス等の取組のプロセスの評価となっているところである。嚥下内視鏡などより詳細な嚥下機能の評価は施設では求められておらず観察評価のみとなっているが、より多職種が関わる必要が生じている。一方、以前は28単位/日となっていたが、今回は400単位/月となっており、大幅な切り下げになっている。これでは、口から食べる楽しみの支援の充実とは言えない。


# ポイント6: 減収のなかで介護職員待遇改善が可能かのように見せる加算要件


 介護職員処遇改善加算の算定額に相当する賃金改善を介護事業所は行わなければならない。ある程度の余裕がある事業所は対応することは可能かもしれないが、赤字体質の経営体の場合には不可能である。そもそも、低い介護報酬のため介護職員の待遇が悪くなっているが根本要因である。大幅なマイナス改訂のなかで介護事業所の経営は苦しくなる。人件費増加分のみに使用できる加算で介護職員の待遇改善が可能かのように宣伝することはきわめて問題である。


# ポイント7: サービス適正化という名の介護報酬切り下げ

 サービス適正化という名のもとに以下の項目に関する切り下げが行われる。


 その他、訪問リハビリテーションおよび通所リハビリテーションを同一事業者が提供する場合の運営の効率化、各種サービスにおける人員配置基準の緩和も行われる。


 細かな部分に関して読み込まなければいけないし、今後提示されるであろう疑義解釈等の資料も見なければいけないが、今回の介護報酬改定が事業者および利用者に与える衝撃は著しいものがあることは間違いない。各種サービスを一体として運営している保健医療福祉複合体では、連携の再構築のなかでマイナス部分を少しでも緩和できるが、単体のサービスしか提供していない小規模の介護事業所は存続の危機に立たされる。介護保険制度は様々な問題をはらみながら、介護サービスの基盤整備という面では一定の評価がされてきた。今回の改定において、介護サービス供給量の停滞ないし減少を生じた場合、急速な高齢化に対応できなくなる可能性がある。診療報酬のマイナス改定が医療崩壊の一因となった。同様に、今回の介護報酬マイナス改定の影響で介護崩壊が生じてもおかしくはない。