要介護認定の見直しで厚労省が混乱

 要介護認定の見直しに関し、厚労省が混乱を見せている。


 三重県|高齢者福祉・介護保険:介護保険最新情報(厚生労働省通知)内に、「要介護認定の見直しについて」(平成21年3月16日介護保険最新情報VOL66がある。その中に次のような記載がある。

問5 介助が行われていない場合に、認定調査において「自立(介助なし)」と一律に判定されるのはなぜですか。


(回答)
 新たな認定方式においても、明らかに介助が行われている、または明らかに介助の必要がない方については、これまで通り判定されることとなり、9割以上の項目について従来と同じ調査結果となることが見込まれます。


 今回の見直しでは、それ以外の調査項目について、調査員が推測するのではなく、実際に行われている介助の内容を観察して、選択肢を選んだ上で、必要な情報を付記することとしています。


 また、新たな認定調査において、介助が行われていない場合には、当初案では「自立(介助なし)」と取り扱っていましたが、一般の方々からの意見を踏まえ、「介助されていない」に改める予定です。


 この見直しにより、大きく以下の2点が改善され、従来よりも更に正確でバラツキのない認定審査が可能となります。


【見直しによる改善】
1.より正確な情報を把握できます。


(参考)見直しの例

(例)重度の寝たきり者で、一週間以上「洗顔」が行われていない者の場合
○現行:認定調査員の推測による判断
 ↓
○見直し後:「介助されていない」を選択し、特記事項に介助が足りない(洗顔が十分になされていない)との内容を詳しく記載


 → この見直しにより、より申請者の状況を反映した認定調査が実現する


2.調査結果のバラツキを抑えることができます。


(参考)見直しの例

(例)重度の寝たきり者で、「移動・移乗」の機会のない場合
○現行:認定調査員の推測による判断
 ↓
○見直し後:「介助されていない」を選択し、特記事項に状況を詳しく記載


 → この見直しにより、よりバラツキのない適切な認定調査が実現する


 重度の寝たきり者で、一週間以上「洗顔」が行われていない者の場合とか、「移動・移乗」の機会のない場合というのは、認定を受ける本人の問題ではなく介護側の問題である。清潔を保つ、離床を促すという当たり前の介護がなされていない事例を持ってくるところに、厚労省の介護観の貧弱さが伺われる。


 この介護保険最新情報VOL66は3月16日付となっているが、翌3月17日に次のような報道がされた。

 介護保険制度で介護の必要度を判定する「要介護認定」について、厚生労働省は17日、4月から実施予定の新しい判断基準の一部を修正する方針を決めた。


 修正するのは、「買い物」などの3項目。「今のままでは要介護度が軽く判定されてしまう」という利用者の不安や反発を受けたもので、近く、市町村に通知を出す。


 要介護認定は、市町村の調査員が高齢者らの心身の状態に関する認定調査などを行い、7段階の要介護度を決める。現在は、「立ち上がり」「移動」など82項目について介助の必要度や能力などを調べているが、新基準では、74項目に再編。調査の判断基準も、調査員によるばらつきを抑える内容に改めることにした。


 しかし、一連の変更について利用者や介護関係者らから、軽度化の恐れがあるとして、実施の凍結や見直しを求める声が出ていた。これを受け、判断基準の一部を修正することにした。


 修正点は、「買い物」「金銭の管理」「移乗」の3項目。買い物について、新基準では、「買い物の適切さは問わない」としているため、認知症の人が同じ物を幾つも買うなど、無駄な買い物をしていても、「できる(介助なし)」と判断することとされていた。実際には買った品物を家族が返却するなどの手間が生じるため、そうした症状がある人には、「一部介助」と判断するよう修正する。


 舛添厚労相は同日の閣議後の記者会見で、「新たな基準について明確化し、混乱のないようにしたい」と述べた。


(2009年3月17日14時59分 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20090317-OYT1T00666.htm


 介護保険最新情報VOL66では、洗顔と移乗の例で、「介助されていない」を選択するという記載がある。しかし、要介護認定認定調査員テキスト2009(1,922KB)をみると選択肢の中には「介助されていない」という項目はない。もし、新たにこの項目を設定するとなると、樹形モデル全体を見直す必要がある。
 苦肉の策として、「買い物」「金銭の管理」「移乗」に限って、「自立(介助なし)」を「一部介助」等に変更する方針を決めた。朝令暮改としかいえない対応を厚労省はとっている。


 「要介護認定の見直しについて」(平成21年3月16日介護保険最新情報VOL66では、要介護認定見直し延期論に対し次のような回答をしている。

問7  見直しについて延期はできないのですか


(回答)
 今回の要介護認定の見直しは、利用者にとって不公平感につながりかねないバラツキを減らし、併せて介護技術の進歩を取り入れるために行われるものです。


 見直しに当たって行った様々な検証の結果によると、新たな要介護認定方式においては、現行と比べ、一概に要介護度が低く判定されるものではないと考えられます。


 一方、利用者等に不安が生じないよう、新たな要介護認定方式について十分な説明を行うことは重要であることから、新たな要介護認定方式の開始前に、今回の見直しの内容や趣旨について利用者を含む関係者への周知を幅広く行う等の対応を行ってまいります。


 併せて、認定審査結果について不服がある場合は都道府県の介護保険審査会に対する審査請求が可能ですが、迅速な審査ができるよう、申請方法等について利用者を含む関係者への周知を図るなど努めてまいります。


 なお、厚生労働省としては、見直し後の要介護認定の実施状況を把握した上で、結果の事後検証を公開で利用者の方も含め、速やかに行い、必要に応じて適宜見直しを行うこととしています。


 要介護認定方式見直しは4月1日申請分からとなる。残りわずか2週間。厚労省はこの短い期間で周知が可能と考えている。事後検証が必要と認めているような欠陥品を平気で世の中に出すなど、利用者や認定調査員そして介護認定審査員を軽視しているとしか思えない。