要介護認定一次判定ソフトの精度

 全国介護保険担当課長会議資料(平成14年6月4日)内にある、要介護認定に次のような記載がある。

ア 一次判定ソフト改訂版について


 要介護認定における一次判定については、(1)痴呆性高齢者が低く評価されているのではないか、(2)在宅における介護の状況を十分に反映していないのではないか、などの指摘があることから、平成12年8月に「要介護認定調査検討会」を設置し、一次判定の仕組みについて専門的・技術的な検討を行い、更には、本検討会での議論を踏まえ、平成13年2月〜6月に全国で「高齢者介護実態調査」、平成13年11月〜14年1月に全国の自治体において「要介護認定に関する調査」の御協力をいただいたところである。
 これらの議論、調査結果等を踏まえ、本検討会で本年3月に、一次判定ソフト改訂版について御検討いただき、御了承いただいたところである。
 この一次判定ソフト改訂版を用いて、現在34市町村、秋以降に全市町村で要介護認定モデル事業を実施していただき、本モデル事業の結果を反映させ、平成15年4月からの円滑導入を図りたいと考えているので御協力願いたい。


 本資料の中に「実測ケア時間と推計ケア時間の分布」に関する散布図がある。


*平成7年に実施された「サービス供給指標調査」(n=2,896)における実測ケア時間と、同調査の結果を基に作成されたソフトによる推計ケア時間の分布



*平成13年に実施された「高齢者介護実態調査(施設)」(n=4,478)における実測ケア時間と、同調査の結果を基に作成されたソフトによる推計ケア時間の分布


 以上のグラフを示し、平成12年(2000年)の介護保険開始当初に使用されていたソフトと比べ、改訂版一次判定ソフトの推計精度が向上したと述べている。
 確かに上下を比べてみると、下図で実測ケア時間と推計ケア時間がより相関している。というより、上図の精度の低さに驚かされる。特に、推計ケア時間と比べ実測ケア時間の長い例が多数認められる。


 本資料では、下記グラフを根拠とし、「在宅調査においても、妥当に要介護度を区分することを確認」と述べている。なお、本グラフは箱ひげ図という。長方形部分の真ん中に引かれた直線が中央値(50%タイル)、上辺が75%タイル、下辺が25%タイルを示す。そして、長方形の上下に述べた線分の端に引かれた直線がそれぞれ10%タイル、90%タイルである。


 「在宅調査においても、妥当に要介護度を区分することを確認」という表現は妥当ではない。施設調査と比べ、在宅調査で長方形部分の重なりが大きい。特に自立、要支援、要介護1でその傾向が目立つ。要支援者の25%は要介護1の50%以上の者より実測ケア時間が長くなっている。同じように要介護1の25%で要介護2の50%以上の者よりケアに時間がかかっている。さらに、要介護1の10%の者は要介護4の75%以上の者より実際にケアに使われた時間が延長している。
 精度を増した改定版一次判定ソフトでも、在宅生活者の要介護度を適切に判別することが困難だったことが、本グラフで示されている。


 振り返ってみると、2003年度改定版が歴代一次判定ソフトの中で最もまともだった。その後の改定版ソフトにおいて実測ケア時間と推計ケア時間を比較した報告を私はまだ見つけだすことができない。改定を重ねるたびに精度が落ちているため厚労省はデータを示せないのではないか、と私は推測している。