介護保険導入時より、要介護認定制度の問題点は指摘されていた。3年ごとの介護報酬改定時に調整が加えられ、今回が4回目となる。
当初、2009年4月更新分、すなわち、3月31日で認定切れとなる要介護者分より、新しい認定方式が適用される予定だった。しかし、新方式に対する批判を受け、対象を4月1日以降申請分に先送りされた。現在、要介護認定一次判定ソフトに関し、3月2日を締め切りとし、パブリックコメント募集が行われている。
本日配信されたしんぶん赤旗の記事、「寝たきり」なのに「自立」!?/介護判断基準が大幅後退/厚労省 4月から新方式に、一次判定に関する驚愕すべき事実が記載されている。
2009年2月16日(月)「しんぶん赤旗」
「寝たきり」なのに「自立」!?
介護判断基準が大幅後退
厚労省 4月から新方式
介護保険で四月実施予定の要介護認定の新方式に伴い、利用者から聞き取り調査をする際の判断基準が大きく変えられ、重度の寝たきり状態の人などが複数の調査項目で「自立(介助なし)」と認定されることがわかりました。認定の軽度化に拍車がかかり、利用者の生活に深刻な打撃を与える恐れがあります。
要介護認定は、介護保険サービスを利用するために必要なもの。認定調査員による聞き取り調査と主治医の意見書に基づいて行われます。厚労省は判断の考え方は変えていないとしていますが、聞き取り調査の方法や判断基準を示した『認定調査員テキスト』には大幅な変更が加えられています。(表)
「移動」「移乗」の調査項目では、移動や移乗の機会がない重度の寝たきり状態の人でも、従来なら「全介助」と判断されました。ところが新テキストでは、介助自体が発生していないとして「自立」を選択するよう迫っています。
「食事摂取」の項目でも、食べ物を口にできず高カロリー液の点滴を受けている人の場合、食事の介助が発生していないとして「全介助」から「自立」へと変更されます。
症状の重い利用者を「自立」と判断する、逆立ちした基準です。
厚労省は昨年、認定方式変更の影響を調査するために約三万件のモデル事業を実施しましたが、新テキストは織り込んでいませんでした。その後に行った八十六例の検証で「新旧テキストの判定のずれは許容範囲内だった」としますが、内容はこれまで公表していません。
東京都内の認定審査会で委員を務める医師は、「厚労省は介護の手間を積み上げて要介護度を判断するというが、利用者の状態を総合的にみてどれだけの介護が必要かを判断すべきだ。モデル事業での検証も抜きにテキストにこっそり重大な変更を加えることは許されない」と話しています。
介護保険関係の資料を探す上で、http://www.pref.mie.jp/CHOJUS/HP/kaisei/index.htmが役に立つ。全国の自治体の中でもその充実度は群を抜く。このサイト内にある次の2つの資料を比較した。
- 要介護認定認定調査員テキスト2009 (1,922KB)
- (改定版) 要介護認定における「認定調査票記入の手引き」、「主治医意見書記入の手引き」及び「特定疾病にかかる診断基準」について(老老発第0331001号平成18年3月31日)
「要介護認定認定調査員テキスト2009」の17ページには次のような記載がある。
上に示された調査項目には、(1)能力を確認して判定する(以下「能力」という)、(2)生活を営む上で他者からどのような介助が提供されているか(介助の方法)(以下「介助の方法」という)、あるいは(3)障害げ現象(行動)の有無(以下「有無」という)を確認して判定するというように、判定の基準が3軸ある。
「介助の方法」で評価する調査項目に関する説明は、25〜27ページにある。次の16項目が含まれる。
- 「1-10 洗身」
- 「1-11 つめ切り」
- 「2-1 移乗」
- 「2-2 移動」
- 「2-4 食事摂取」
- 「2-5 排尿」
- 「2-6 排便」
- 「2-7 口腔清潔」
- 「2-8 洗顔」
- 「2-9 整髪」
- 「2-10 上衣の着脱」
- 「2-11 ズボン等の着脱」
- 「5-1 薬の内服」
- 「5-2 金銭の管理」
- 「5-5 買い物」
- 「5-6 簡単な調理」
ADL、IADLの項目が含まれている。これらの項目は、「介助が行われていない」と判断された場合には、「自立」を選択することになっている。さらに、次のような選択基準が示されている。
(1)朝昼夜等の時間帯や体調等によって介助の方法が異なる場合の選択基準
- 一定期間(調査日より概ね過去1週間)の状況において、より頻回に見られる状況や日頃の状況で選択する。その場合、その日頃の状況等について、具体的な内容を「特記事項」に記載する。
- 普段は食事摂取が「1.自立(介助なし)」であっても、週に1〜2回「4.全介助」になる場合は、「1.自立(介助なし)」を選択する。
(2)福祉用具(補装具や介護用品等)や器具類を使用している場合の選択基準
- 福祉用具(補装具や介護用品等)や器具類を使用している場合は、使用している状況で選択する。
- 歩行ができない場合でも車椅子を自操している場合は、移動に関しては「1.自立(介助なし)」を選択する。
(3)調査の行為自体が発生しない場合の基本的な選択基準
- 該当する行為自体を全く行っていない場合は、介助自体が発生していないため、「1.自立(介助なし)」を選択する。
- 頭髪のない人の整髪等
(4)常時、介助を提供する者がいない場合(独居等)
- 常時、介助を提供する者がいない場合に、不足となっている介助に基づいて基本調査の選択を行うという例外的措置をとる。
(5)入院・入所等で本人の能力はあると思えるが介助が発生している場合の選択基準
- 実際に行われている介助の状況で選択する。
具体的な判定基準をみると、「1-10 洗身」には、理由は不明だが「4.行っていない」という選択肢が残っているが、その他の15項目は、「介助が行われていない」と判断された場合には「1.自立(介助なし)」となる。
特に問題となるのは、IADLに関する「5-1 薬の内服」、「5-2 金銭の管理」、「5-5 買い物」、「5-6 簡単な調理」の4項目である。ADL項目は日常的に介助が発生する可能性が高い。しかし、IADL項目は家庭の中で役割がなければ実行せず、したがって、「1.自立(介助なし)」と判断されてしまう。実際には、「していない」し、「できない」にも関わらず、「1.自立(介助なし)」となる。
2006年度版「認定調査票記入の手引き」には、「能力」、「介助の方法」、「有無」という判定基準はない。「介助の方法」で調査する項目だけ比較してみても、明らかに判定基準が厳しくなっている。軽度の要介護者(要支援1、2、要介護1)の人ほど、影響が大きい。このまま実行されると、「非該当」と認定される者が続出する。
リハビリテーション分野で、活動を評価する場合には、「できる」ADLではなく、「している」ADLの方を重視する。訓練場面での最大限の能力ではなく、日常生活場面の方を判定する。両者の差異を認識し、「できる」ADLを「している」ADLに近づけていく。環境や時間帯で異なる場合には、低い方を選択する。
リハビリテーション医学を専門とする者の眼から見て、今回の介護認定基準は奇異に映る。主体は要介護者にはなく、介護サービスを提供する側になっている。看護師の手間を測る尺度として開発された「看護必要度」に酷似する。「看護必要度」でも、嚥下障害があり点滴で栄養をとっているものは、摂食自立(介助なし)と判定される。
今回の要介護認定調査項目判定基準変更は、明らかな改悪である。要介護者の状況を把握し、「自立」に向けた援助を行うという介護保険開始時に掲げた理念と相容れない。介助者がいて家事等の役割がない場合、介護保険から排除される。実際にかかる介助の手間が変わらなくても、基準を変更することにより要介護度が下がる。できる限り要介護認定を引き下げ、区分限度支給額の壁を使いサービス利用を妨げる。手の込んだ姑息な手段を駆使することに厚労省官僚は長けている。