介護保険主治医意見書記載に関する学習会

 介護保険主治医意見書記載に関する医局学習会を開いた。

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【要旨】
 2009年度版介護保険一次判定のロジックの特徴を理解することが、主治医意見書記載に役立つ。
(1)『直接生活援助』に関する樹形モデルでは、中間評価項目の『生活機能』が重視されている。ADL要介助群(要介護1〜5)に関しては、ADLの階層性に着目する。
(2)『関節生活援助』の多寡は、一次判定ソフトでは判別困難である。ADLは自立しているが、手段的ADLに介助を要する群(推定要支援1〜2)に関しては、家事動作や公共交通機関利用に介助が必要なことを主治医意見書の特記事項に記載する。
(3)『BPSD関連行為』も、一次判定ソフトでは判別困難である。『認知症加算』の影響も不透明である。運動機能の低下していない認知症高齢者の要介護度が低く判定される可能性が残されている。ただし、要介護1相当群では、『認知症自立度II以上の蓋然性評価ロジック』において、主治医意見書における「日常の意思決定を行うための認知能力」が自立以外であれば、自動的に介護給付相当となる。このことを理解し、主治医意見書を記載する。
(4)『医療行為』の樹形モデルでは、えん下ができない重症例しか判定できない。また、『特別な医療』は単純な加算だが、医師、または、医師の指示に基づき看護師等によって実施される行為に限定される。『状態の安定性の判定ロジック』は、今回の要介護認定で改悪されている。悪性腫瘍、臓器不全および神経難病など医学的状態が不安定な場合には、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」かどうかを認定審査会が判定できるように、主治医意見書の「1.傷病に関する意見」の「(2)症状としての安定性」に関し、主治医が適切に記載することが求められる。


 以下、それぞれの項目について、具体的に述べる。


(1)『生活機能』重視: ADL要介助群(推定要介護1〜5)
 『直接生活援助』のロジックをみると、コンピューター判定をしているといっても結局はADL自立度で直接生活援助を測定しているのと同じことになっている。介助の方法で判定される項目が多いことが問題である。介護力不足で介護が行われていない場合には、『生活機能』に含まれる基本調査項目が低く評価される。その結果、妥当でない一次判定が行われる危険性が高くなる。
 『医療関連行為』の樹形モデルは、「えん下」ができない者に、医療関連行為で時間がかかる者が多いというきわめて単純な構造になっている。
 「えん下」は、『直接生活援助』における食事の要介護認定基準時間短縮に作用するが、『医療関連行為』では延長に働き、その影響は両者で相殺される。一方、実際に医療関連行為の介護を受けていても、「えん下」はできる、見守り等と判定されると、『医療関連行為』の要介護基準時間は低いままとなる。


 要介護認定等について/長寿社会課/とりネット/鳥取県公式サイトに、「介護認定審査会委員テキスト2006」というPDFファイルがある。その80ページに「要介護度ごとの調査項目の傾向」という記述がある。まとめると要介護度の大まかな目安は下記のようになる。

  • 要介護5: えん下不可、指示への反応通じない。
  • 要介護4: 食事摂取介助、意思疎通困難。
  • 要介護3: 移乗介助、整容介助。
  • 要介護2: 移動介助、排尿・排便、更衣介助。
  • 要介護1相当(要介護1、要支援2): 歩行補助具使用、洗身、爪切り、金銭管理介助。


 以上の傾向を念頭におきながら、主治医の特記事項にADLに関する項目を記載するようにする。


(2)『間接生活援助』記載の工夫: IADL介助群(推定要支援1〜2)
 『間接生活援助』のロジックをみると、日常生活活動(ADL)は自立していても手段的ADLは介助が必要な虚弱高齢者を判別することができない構造になっている。虚弱高齢者の中から大量の非該当者が生まれることが危惧される。
 「起き上がり」、「立ち上がり」、「片足での立位」など基本動作が困難な者や、「薬の内服」、「金銭の管理」、「買い物」、「簡単な調理」などの手段的ADLに支障があるかどうかを、聞き取り調査で確認し、主治医意見書の特記事項に記載することが求められる。


(3)運動機能の低下していない認知症高齢者に対する記載の工夫: 推定要支援1〜要介護2、特に要介護1群
 運動機能の低下していない認知症高齢者の要介護度は、実際の介護の必要度より低くでることが介護保険当初から指摘されている。改定版一次判定ロジックでは、欠陥が修正されずに残っている。
 『運動能力の低下していない認知症高齢者のケア時間加算ロジック』は、複雑な要素が絡み合っており、どの程度の影響があるか不明である。
 一方、『認知症自立度II以上の蓋然性評価ロジック』では、基本調査で、『認知機能』(意志の伝達、毎日の日課を理解、生年月日をいう、短期記憶、自分の名前をいう、今の季節を理解、場所の理解、徘徊、外出して戻れない)が多少でも低下していると判断された場合、主治医意見書の「日常の意思決定を行うための認知能力」が自立以外であれば、自動的に介護給付相当となる。もし、主治医意見書の「日常の意思決定を行うための認知能力」が自立であっても、『社会への適応』(薬の内服、金銭管理、日常の意思決定、集団への適応、買い物、簡単な調理)で相応の介助がされているようなら、同じく介護給付となる。
 主治医意見書を記載する医師は、主治医意見書の「日常の意思決定を行うための認知能力」の部分を適切に記載する義務を負っている。特に、IADLに関わる部分(薬の内服、金銭の管理、買い物、調理などの火の始末)に問題がないかどうか家族やケアマネに確認することが求められる。認知機能低下が原因となりIADLが自立していない場合には、主治医意見書の「日常の意思決定を行うための認知能力」を”いくらか困難”、”見守りが必要”あるいは”判断できない”と記載するようにする。


(4)医療必要群: 推定要介護1相当群を中心に
 特別な医療は樹形モデルではなく、要介護認定基準時間の単純な加算である。しかし、医師、または、医師の指示に基づき看護師等によって実施される行為に限定される。
 規制がきわめて多い。例えば、経管栄養を行っていても、栄養剤の注入が訪問看護によって行われていなければ、「ない(該当しない)」を選択することになっている。認定審査会で「特別な医療」の実施状況を適切に判断し、要介護度を決定することが求められる。
 状態の安定性の判定ロジックでは、意図的なすり替えが行われている。これまでは、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」かどうかを認定審査会が判定していた。しかし、実際に使用されたロジックは要介護認定が重度化したか維持・改善しているかを根拠としている。したがって、ADL・IADL、認知機能が低下しているかどうかが状態の安定性の判断に用いられている。
 認定審査会では、本来の趣旨に基づき、「疾病や外傷等により、心身の状態が安定していない状態」であるかどうかを判断する必要がある。その意味で、主治医意見書の「1.傷病に関する意見」の「(2)症状としての安定性」に関し、主治医が適切に記載することが求められる。


 学習会に参加した医師からの要望があり、以下の事項について、あらかじめ担当者が情報を収集することを確認した。

  • 要介護認定情報
    • 要介護度(期間)
    • ケアマネ
    • 介護サービス内容
  • 主治医意見書に反映させる内容
    • ADLと手段的ADL
      • えん下、摂食
      • 起居移動動作(移乗、移動、歩行)
      • 身の回り動作(整容、更衣、排泄、入浴)
      • 手段的ADL(薬の内服、金銭の管理、買い物、簡単な調理)
    • 認知機能
      • 意志の伝達、毎日の日課を理解、生年月日をいう、短期記憶、自分の名前をいう、今の季節を理解、場所の理解、徘徊、外出して戻れない


 なお、医療行為に関連する項目は主治医が責任を持って記載する方針とした。