日本における社会保障費事業主負担は国際的にみてきわめて低値

 http://mainichi.jp/select/news/20140803k0000e020134000c.htmlという記事が、Yahoo!Japanのトップニュースとなっていた。

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 企業の健康保険組合が財政難にあえいでいる。要因は、2008年度の後期高齢者医療制度発足時より1.5兆円増えた高齢者医療費の分担金だ。そうした状況で厚生労働省は、大企業健保にさらに負担を求めようとしている。より懐が苦しい市町村の国民健康保険国保)の立て直しを狙ったものだが、その場しのぎの感は否めない。【佐藤丈一、中島和哉】

http://mainichi.jp/select/news/20140803k0000e020134000c.html

 大企業を母体とした組合が多い健康保険組合連合会の主張そのままの記事である。健康保険組合の窮状を訴えているが、日本の社会保障費事業主負担が国際比較をするときわめて低いという事実に目をそらす恣意的な内容となっている。


 同種のキャンペーンが大手マスコミを通じて繰り返し行われている。健康保険料に関する一般紙一面報道について 定例記者会見 2014年4月16日 公益社団法人 日本医師会が本記事のような主張の反論としてわかりやすい。この資料の6ページ、社会保障財源の事業主負担の国際比較、の元資料である第6回 社会保障制度改革国民会議議事次第 平成25年3月13日 社会保障制度関係参考資料をみると、さらに興味深いことがわかる。主な比較対象は、アメリカ、イギリス、ドイツ、スウェーデン、フランスである。


 社会保障給付全体をみると、年金だけはアメリカ以外の諸国と遜色ないが、医療とその他の給付(福祉など)はかなり低いことがわかる。


 OECD加盟32カ国でみると、日本の国民負担率(対国民所得比)は38.3%と低水準である。日本より低いのは、スイス、韓国、アメリカ、チリ、メキシコしかない。


 高齢化との関係をみると、比較対象の諸国はいずれも日本の左上に位置している。すなわち、日本は高齢化が進行しているにも関わらず、社会保障費が抑制されていることが本グラフで示されている。


 社会保障費に占める事業主負担は、日本は5.7%であり、イギリス9.8%、ドイツ10.7%、フランス14.1%、スウェーデン12.2%と比較すると著しく低い。アメリカは4.6%となっているが、これにはからくりがある。


 法人所得税と事業主社会保険料負担の国際比較(対GDP比)をみると、アメリカは6カ国中最も低いが、労働費用に占める法定・法定外福利厚生費の割合をみると、フランスに次いで第2位となる。他国と最も違うのは、法定外(医療)が11.9%を占めていることである。勤労者に対する公的医療保険がなく民間医療保険に依存していることが、本グラフで伺える。


 健康保険制度における事業主の役割に関する調査研究報告書 平成23年3月 健康保険組合連合会の115〜116ページにも、次のような記載がある。

 第 1 は、彼我の保険料負担の大きさの相違である。ドイツやフランスの社会保険料率はEU 諸国の中でも高い水準にあり、日本に比べはるかに高い。たとえば、ドイツの 2009 年の社会保険料率は 39.5%(年金 19.9%、医療保険 14.9%、介護保険 1.9%、失業保険 2.8%)であり、日本の 26.25%(年金 15.35%、医療保険[協会けんぽ]8.2%、介護保険 1.2%、雇用保険 1.5%)の約 1.5 倍であり、フランスもほぼ同じくらい高い水準にある。また、米国は国民皆保険ではないが、事業主が従業員に対する福利厚生として民間保険への保険料補助を行うのが通例であり、米国の医療費が際立って高いこともあってその金額は巨額である。もちろん、このことから日本は医療保険の料率の引上げ余力があるという安易な結論を引き出すつもりはないが、欧米主要国の保険料負担は日本に比べ大きいということは事実として押さえておく必要がある。


 日本における社会保障費事業主負担は国際的にみてきわめて低値であることを、健康保険組合連合会自体が認めている。今までが恵まれすぎていただけである。国民皆保険制度維持のため、体力がある健康保険組合が応分の負担をすることは当然のことではないかと思えてならない。