息子さんがリストラされたので、ヘルパー打ち切ります

 外来で、片麻痺の女性患者さんから相談を受けた。「家族がいるからという理由で、急にヘルパーがとめられたんですよ」とのこと。困ってしまい、助け合いのヘルパーを利用しているが、お金がかかり大変だとも嘆かれた。必要性があれば、家族がいても訪問介護を受けることができるはずだと考え、ケアマネに連絡を入れるように伝言を頼んだ。
 翌日、ケアマネから電話がかかってきたので、事情を聞いた。「同居している息子さんがリストラされて自宅にいることになったから、生活支援のヘルパーをとめたんですよ。」と悪びれずに答える。2006年の介護保険見直し時点からは、要支援1、2と認定された場合には、自立支援の名目でしか訪問介護を利用できなくなっている。しかし、この方の場合は要介護1であり、介護給付に該当する。念のため、「一緒に家事をするという方法なら、ヘルパーは利用できますね。」と確かめたが、「家族がいるからダメです。」とオウムがえしの答えしか返ってこない。「ケアカンファレンスを開いているのですか。私には何の連絡も来ていないのですが。」と尋ねると、急に無言になる。本人や家族のニーズはと問い合わせても、何も答えられない。


 生活支援のヘルパー利用が厳格になったのかと不安に思い、ネットで調べてみたところ、同居家族のいる利用者の生活援助事例集 平成20年10月 世田谷区が見つかった。次のような記載がある。

 平成18 年度の介護保険制度改正では、予防重視型システムへの構築に向けて、さまざまなしくみが創設されました。「訪問介護」についても、生活援助と身体介護の見守り等を一体化した「介護予防訪問介護」という新たなサービス体系が打ち出されるなど、より自立支援や介護予防の視点が重要視されるようになりました。
 これを受けて、訪問介護の「生活援助」についても、『自分でできるものは利用者本人に』ということから一歩進んで、『利用者が自分でやろうとする意欲の出るような生活援助』へ、という視点への見直しが進められ、実践が行われているところです。
 以上のことからも、介護予防と自立支援のために、さらには、一人ひとりの利用者がいつまでも、その人らしい生活を実現していくために、<生活援助>の役割はこれまで以上に大きく、かつ、極めて重要な要素になっていくことが期待されています。

 しかしここ数年、同居家族がいるというだけの理由で、生活援助が利用できなくなるなどの声が相次いだため、厚生労働省老健局振興課では平成19 年12 月に、訪問介護サービス及び介護予防訪問介護サービスにおける「同居家族等」について通知をしました。
 これにより、下記のとおりの取扱いである旨を改めて周知を徹底するとともに、介護サービス事業者、関係団体、利用者等に対しても幅広い情報提供を呼びかけています。

1.訪問介護の生活援助
 (前略)やむを得ない事情とは、障害、疾病の有無に限定されるものではなく、個々の利用者の状況に応じて具体的に判断されるというものである。したがって、市町村においては、同居家族等の有無のみを判断基準として、一律に介護給付の支給の可否を機械的に判断しないようにされたい。
2.介護予防訪問介護
 (前略)上記1と同様に、市町村においては、同居家族等の有無のみを判断基準として、一律に予防給付の支給の可否を機械的に判断するのではなく、個々の利用者の状況に応じて、適切に判断されたい。

 出典:「同居家族等がいる場合における訪問介護サービス及び介護予防訪問介護サービスの生活援助等の取り扱いについて」*1


 介護保険には、介護の社会化を図り家族の介護負担を軽減するとともに、要介護者の自立を支援するという建前がある。一方、公的介護費用の増大を防ぐことも制度を制定された重要な目的である。厚労省の本音は、どちらかというと、社会保障費の抑制の方である。ドイツの介護保険制度をまね、各要介護度ごとに区分限度支給額という上限を設けた。ケアマネージャーという名のゲートキーパーは英国の制度をもとにしている。このような形で介護利用に二重の制限が設けられているのは日本だけである。
 家族がいる場合には生活援助目的でのヘルパー利用は制限されるという通達は、当然のことながら、公的介護費用抑制のためである。しかし、あまりにも機械的に運用されたために、現場から苦情が殺到した。あわてた厚労省は一片の通知で、お茶を濁そうとした。放火犯が消火作業を行っているようなものであり、実効性に乏しい。訪問介護利用の制限は現場のケアマネ達の間にすりこまれてしまい、あちこちで悲惨な事態が生まれている。


 家族に迷惑をできる限りかけたくないという想いを持つ要介護者に対し、家族がリストラされて家にいるからといって、気軽に用事を頼めるものではない。神経を逆撫でするようなことを平気で発言するケアマネは、到底信用することはできない。ケアマネを首にして他の支援事業者に変更することを勧めることにしたい。今度、患者さんが外来に来た時に意向を確かめてみることにする。