オシム氏、AC脳卒中キャンペーンに出演
オシム氏が出演したAC広告機構の脳卒中キャンペーンが、7月1日からオンエアされている。
【関連エントリー】
- シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)、らばQで紹介される(2009年10月23日)
- 「主治医が明かす 長嶋とオシムのリハビリ」(2008年12月11日)
- オシム氏、CI療法のため合宿中?(2008年9月10日)
- オシム前監督退院(2008年3月25日)
- オシム前監督のリハビリテーション順調!(2008年1月25日)
http://inutaku.com/archives/2010/07/post-128/で、YouTube上にアップされた1分?2分の映像×全8編が紹介されている。
オシム氏は次のようなことを述べている。
# 脳卒中の前兆とその要因(オシム、脳卒中を語る。 1/8)
私の場合は、以前から健康診断で注意するようにいわれていたのは心臓の不整脈だ。それから、首の後ろの血管に問題があってときどきめまいがした。
それから、職業上のストレスは並大抵ではなかった。せっかくリードしているのに、試合終了間際に失点したり、ロスタイムの得点でやっと勝ったり。それが日常茶飯事だった。
脳梗塞は、大きく、ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、心原性梗塞の3つの病型に分類される。オシム氏の場合には、もともと不整脈があった。代表監督という激務に伴うストレスにさらされていた。以上より、心臓から血栓が右中大脳動脈という太い血管に飛び、重症脳梗塞を発症したと推測する。長嶋茂雄氏も全く同じ病態である。
# 脳卒中の対応、スピードが命(オシム、脳卒中を語る。 2/8)
初期治療のスピードの最初のポイントは、何が起きたのか正確に判断することだ。私の場合は、幸運だった。初期の処置が適切に優れたスタッフによっておこなわれた。家族は症状が出てすぐに救急車を呼んでくれ、病院でもドクターたちが素早く、何が問題かを発見し、適切な処置をおこない、生命を救ってくれた。
スピードが命なのはサッカーでも同じだ。速いプレーができない者、考えるスピードが遅い者は、良いサッカーをすることができない。
まあ、病気とサッカーを比較しなければならないことは残念なことだが。それよりも、自分が小さな症状、小さな異変にもっと早く気づくべきだった。だから、スピードがもっと必要だったのは私自身だったかもしれません。
本キャンペーンの中心課題である。http://www.ad-c.or.jp/campaign/support/01/でも強調されている。
脳梗塞でt-PAという薬が使用されるようになった。発症後3時間以内に投与するとつまった血管が再開通し、生命予後や機能障害が改善する。早ければ早いほど効果がある。
治療開始までのスピードに関わるのは、本人・家族、救急隊、そして救急病院である。24時間365日、いつでもMRIなどの検査が実施でき、専門医が対応できるシステムを作るということができる病院は限られている。また、救急隊も脳卒中を疑う症状を熟知し、適切な病院を選択することが求められる。そして、何よりも、市民レベルでの脳卒中の知識普及が鍵を握る。
なお、簡単に、脳梗塞のサインを見極める方法は、シンシナティ病院前脳卒中スケール(CPSS)、らばQで紹介される(2009年10月23日)でご紹介したので、そちらをご参考にして欲しい。
# 回復できた要因、家族の存在 リハビリとの闘い リハビリ中の患者さんへ(オシム、脳卒中を語る。 3〜5/8)
家族の支えというのは、自分自身に生きるための自信と目的を与えてくれた。何のために戦うのか、病気に負けていられない、というパワーと目標を得ることができた。
いまは、看護婦さんの代りに、家族が私を厳しいリハビリで虐待してくる。まあ、それは家族がまだ私を見捨ててはいないという、良い兆候だ。
病気になってからのトレーニングの方が、おそらく現役時代の練習よりも多かったはずだ。
サッカーと共通のことがらがあるとすれば、努力を続けるには、前進しているという実感を得ることが大切だ。それによって、前進できる。それによって、自分自身を引っ張っていける。そういう感覚が毎日少しでも得られれば、努力を毎日することができる。良くなっているという実感、サインが、前進するためのパワーであり、道しるべになる。モチベーションになる。
オシム氏は、初台リハビリテーション病院に入院した。ここは、1日3時間のリハビリテーションを毎日休みなく行うことで有名である。現役時代よりトレーニングしたという実感が得られたというのも納得できる。同じ病院に入院していたことがある長嶋茂雄氏が、「おれも人間だから休みたい。1日だけ休みをくれませんか?」と弱音を述べたことがある。残念ながら、このような集中したリハビリテーション医療を提供できる病院は、まだまだ少ない。
リハビリテーション医療は運動学習を主な治療手段とする。到達目標設定の際、難易度の調整が重要である。簡単にできることをいくら繰り返しても達成感は得られない。到底到達できない課題は、やる気を失わせる。オシム氏の発言は、リハビリテーションの真髄に迫るものである。
# 生きること、そして、日本のサッカーへ(オシム、脳卒中を語る。 6〜8/8)
恐怖感というものは、最終的に失敗した場合のことについての恐怖です。人間は、勝つこと、成功することだけを考えるべきではない。まず、生き残ること。そのためには敗北や失敗ともうまく折り合いをつけて生きていかなければならない。そのためには健康を守るのが第一だが、その点で、日本には問題があるかもしれない。
人生は一度きりしかない。もし、まったくエゴイストとして生きるならばストレスも減ることだろうが、人生とはそういうものではないはずだ。自分だけではなく、他人も自由に生きることができなければならない。
何が大事か?もう生まれてしまったからには、生きることだ。生き残ることだ。もっといい人生を生きることだ。
代表が、もっと良いサッカーをしていくことで、Jリーグのサッカーがもっと良いものになる。もっとJリーグの試合が面白くなれば、観客もいつも満員で、選手たちはもっと良いサッカーをするようにする。そうすれば、代表選手を選ぶのにも苦労が少なくなる。
私自身も、私の家族も、子どもたちも孫たちも、友人たちも、みんな日本代表のサポーターだ。応援している。
オシム氏は、旧ユーゴスラビア代表監督となり、1990年W杯ではベスト8となった。その後、ユーゴスラビアは内戦状態となり、解体され、出身地のボスニア・ヘルティゴビナでは民族浄化の嵐が吹き荒れた。「生き残ることだ」という言葉の重みは、波瀾万丈の人生から自然に出てきた言葉である。
オシム氏は、サッカー日本代表の指導をしながら、日本社会の歪みについて様々なことを感じている。平和なはずの日本で、プレッシャーやストレスをために閉塞した状態に陥っていることを危惧している。
オシム氏が日本代表を語る時、いつも愛情を感じる。幸いにも、南アフリカW杯で、日本代表は一次リーグ突破という好成績をおさめることができた。この勢いを4年後のブラジルW杯にも続けていけるかどうかは、オシム氏の言うとおり、Jリーグ興隆が鍵を握っている。