併存疾患・障害の診断におけるADL聴取の意義

 ADL聴取の意義について、本日、病棟で話した内容。


 予後予測をするうえで、原因疾患に起因する機能障害だけに目を奪われず、併存疾患・障害の確認をすることが大切である。そのためには、病前の生活機能に関する問診がかかせない。意識的に、発症前のADL・IADLに関して病歴聴取をしていると、前医では気づかれなかった病状が明らかになることがある。例をあげる。


# 歩行障害
 脳梗塞後遺症で入院。片麻痺は軽度だが、歩行再獲得に難渋している。もともと腰痛もあり、屋内生活だった。長距離歩くことができなかった。
→ 詳しく聞いてみると、「座っている時は良いのだが、歩くと足が痛くなる。休むと良くなる。」とのこと。
→ 足背動脈触知良好。腰椎変形顕著。
→ 腰部脊柱管狭窄症による脊髄性間欠破行の疑い。脊髄MRIなど精査を予定。


# 不眠
 大腿骨頚部骨折で入院。易疲労性があり、リハビリテーション効果が上がらない。話を聞くと、不眠症が著しいとのこと。安定剤を数種類服用していた。しかし、全く眠れなかった。
→ 詳しく聞いてみると、「頻尿がある。特に夜間は1時間に2、3回行く。1回に出る量は少ない。」とのこと。糖尿病コントロール不良という病歴あり。
→ 排尿後に導尿すると400ml以上の残尿あり。
→ 糖尿病性多発神経障害に伴う神経因性膀胱と診断。就寝前の定期的導尿で不眠の訴えが軽減した。


 ICF国際生活機能分類)において、「活動」は「心身機能・構造」と「参加」をつなぐ場所に位置する。系統的に診察をする中で、患者の全体像を明らかにしていく。その中で、「活動制限」と「機能障害」との関係を考える習慣をつけていくと、自らの診断能力が問われていることに気づく。
 脳卒中だから歩けないのではなく、もともとあった併存疾患・障害に、脳卒中による機能障害が加わって歩行できなくなったのではないかと熟考する。片麻痺は軽度だけれど歩けないのは何故かということを追求する。歩行障害をきたす他の疾患の検索をする。この際、多様な疾患に対するリハビリテーションを行った経験が役立ってくる。
 リハビリテーション科は、総合的横断的な診療科である。関連領域の知識を幅広く持つことが求められる。今回、例としてあげた、腰部脊柱管狭窄症による脊髄性間欠破行、糖尿病性多発性神経障害による神経因性膀胱は、リハビリテーション医療の世界ではよくみかける機能障害である。細分化された専門医が見過ごしがちな病態をチェックするという役割は、リハビリテーション医のささやかな楽しみのひとつである。