要介護認定改定に伴い、他者からの介助状況が調査項目に影響するようになった。「介助の方法」で判定する項目は、「介助が行われていない」と判断された場合には、「自立」を選択することになっている。この考え方は、病棟における看護師の手間をはかる手法として開発された「看護必要度」に酷似する。両者を比較する。
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http://www.pref.mie.jp/CHOJUS/HP/kaisei/index.htm内にある要介護認定認定調査員テキスト2009 (1,922KB)17ページには次のような記載がある。
上に示された調査項目には、(1)能力を確認して判定する(以下「能力」という)、(2)生活を営む上で他者からどのような介助が提供されているか(介助の方法)(以下「介助の方法」という)、あるいは(3)障害げ現象(行動)の有無(以下「有無」という)を確認して判定するというように、判定の基準が3軸ある。
「介助の方法」で評価する調査項目には、次の16項目が含まれる。
- 「1-10 洗身」
- 「1-11 つめ切り」
- 「2-1 移乗」
- 「2-2 移動」
- 「2-4 食事摂取」
- 「2-5 排尿」
- 「2-6 排便」
- 「2-7 口腔清潔」
- 「2-8 洗顔」
- 「2-9 整髪」
- 「2-10 上衣の着脱」
- 「2-11 ズボン等の着脱」
- 「5-1 薬の内服」
- 「5-2 金銭の管理」
- 「5-5 買い物」
- 「5-6 簡単な調理」
一方、回復期リハビリテーション病棟で用いられる「日常生活機能指標」=ハイケアユニット用「重症度・看護必要度(B得点)」には次の13項目が含まれる。「介助の方法」で評価する調査項目と同じものを赤字で示す。
- 床上安静の指示
- どちらかの手を胸元まで持ち上げられる
- 寝返り
- 起き上がり
- 座位
- 移乗
- 移動方法(主要なもの一つ)
- 口腔清潔
- 食事摂取
- 衣服の着脱
- 他者への意思の伝達
- 診療・療養上の指示が通じる
- 危険行動への対応
医学書院/週刊医学界新聞(第2805号 2008年11月10日)で、石川誠氏は次のような指摘をしている。
「日常生活機能評価」を使うことになったのは,厚労省の意図的な戦略だと思います。これまで「重症度・看護必要度」は特定集中治療室管理料とハイケアユニット入院医療管理料で使われていましたが,7対1看護に導入され,急性期病院では看護必要度のチェックが必須事項となりました。このなかのB項目が「日常生活機能評価」として回復期リハ病棟に導入されたのです。
また介護保険の分野では,9月に開始した介護認定のモデル事業で新たな要介護度の認定調査項目となる動きがあり,そこに看護必要度の項目が入ります。つまり,急性期の「重症度・看護必要度」,回復期リハ病棟の「日常生活機能評価」,介護保険の「要介護度」がつながるのです。国は,急性期から長期・慢性期まで継続的に手のかかり具合を測りたかったのだと思います。
石川誠氏の問題意識を当初理解できなかった。今回、「介助の方法」で評価する調査項目と日常生活機能評価との比較を行い、疑問が氷解した。少なくとも、「移乗」、「移動」、「口腔清潔」、食事摂取」、「衣服の着脱」の5項目に関しては、回復期リハビリテーション病棟との比較が可能となる。
「看護必要度」は、あくまでも看護師の効率的な配置を検討するために作られたツールである。その「看護必要度」をADL指標と同じように扱うという過ちを犯したため、回復期リハビリテーション病棟は混乱に陥っている。厚顔無恥というべきか、介護分野にまで「看護必要度」が導入されようとしている。
今回の介護保険改定では、常時、介助を提供する者がいない場合にだけ、「不足となっている介助に基づいて基本調査の選択を行うという例外的な措置をとる。」となっている。しかも、「独居、日中独居、同居者も要介護状態にあり介助を行うことができない場合、及び同居介護者の虐待による介護放棄」を具体例としてあげている。
介護熱心な家族がいる場合には、要介護認定が下がる仕組みが作られ、公的な介護サービスは必要ないと判断されることになった。「介護の社会化」と逆行する認定調査がこの4月から始まる。