沖縄の怒り

 沖縄タイムス社説(2008年6月9日朝刊)、[与党惨敗(上)]より。

[与党惨敗(上)]


県政への影響は甚大だ


 県議会の与野党勢力が逆転した。八日に投開票された第十回県議会議員選挙で自民、公明を中心とする与党は、前回選挙で獲得した議席数を大幅に減らし、過半数を割り込んだ。
 仲井真県政にとっても政府にとっても、この結果がもつ意味は極めて重い。


 仲井真弘多知事は、今度の県議選について「私に対する中間評価だと思っている」と繰り返し強調していた。それだけになおさら、与野党逆転の選挙結果は、県政運営に計り知れない影響を与えることになるだろう。


 県政が少数与党の下で運営されるのは過去に二回あるが、今回とは全くケースが異なる。


 一九七八年十一月の知事選で革新から十年ぶりに県政を奪い返した西銘順治知事は、一期目途中まで少数野党だった。九〇年の選挙で保守から十二年ぶりに県政を奪還した大田昌秀知事も、二期目の途中まで少数与党の悲哀を味わっている。


 だが、今回は、県政逆転に伴って生じた変化ではない。保守から保守へ県政が引き継がれ、過半数を超える議席を前県政からの「遺産」として受け継いだにもかかわらず、議席を減らして少数与党に転落したのである。このようなケースは初めてだ。


 与党系で当選したのは自民、公明、無所属を含め計二十二人。これに対し野党系は社民、共産、民主、社大、そうぞう、中立系無所属を含め計二十六人。選挙で示された民意を踏まえ、軌道修正が必要な施策については方針転換をためらうべきではない。


 それにしても、県議選に地殻変動をもたらしたものは何だったのだろうか。


 民主や「そうぞう」など従来の保革の枠に収まらない「第三勢力」が票の掘り起こしを行ったことや、県発注工事をめぐる談合問題で多額の損害賠償金を請求されている一部建設業者が県政離れを起こしたことも影響したとみられる。


 しかし、最大の要因は、やはり後期高齢者医療制度だったのではないか。


 厚生労働省が実施した全国調査の結果、負担が増える世帯の割合が沖縄は64%に上り、全国一高くなっていることが分かった。この調査結果に対する怒りの声が投票行動となって現れた、と見るべきだろう。


 県議選で国の政策にノーが突きつけられたことを政府は重く受け止めなければならない。


 米軍普天間飛行場辺野古移設問題も、政府や県の描いてきたシナリオに大きな狂いが生じることになりそうだ。


 県が求める沖合移動については米側が強硬に反対しているが、辺野古移設そのものを疑問視する野党が議会で多数を占めたことで、困難はいっそう深まった。


 県議会の勢力は四年後の次の選挙まで変わらない。議会同意の必要な人事を含め、多数野党とどのように協調していくか。仲井真知事は、一期目の任期半ばで、公約も実現しないうちに、重大な岐路に立たされることになった。


 同じく社説(2008年6月6日朝刊)、[高齢医療調査]より。

[高齢医療調査]


納得するにはほど遠い


 基本設計をきちんとしなければどうにもならないー後期高齢者医療制度長寿医療制度)について厚生労働省が実施した全国調査の結果(速報値)は、このような印象といっていいのではないか。
 市町村運営の国民健康保険から移行した一千万人強の保険料の変化を導入前と比べた場合、七割の世帯で負担減になるという。


 だが、都道府県別で見ていくと格差は大きく、負担が増える世帯数の割合は沖縄が64%で全国一高くなっている。全国平均は31%だから倍以上だ。驚きの数値と言わざるを得ない。


 県医務国保課は「国保保険料が低い一方、後期高齢者医療保険料が高く設定されているのが原因では」と分析。厚労省も、新しい制度への移行により全県単位の運営で保険料が上昇したためだと説明している。


 だが、厚労省は「所得の低い層は負担減」と強調してきたはずである。実態は明らかに矛盾しており、この説明ではお年寄りを納得させることはできない。


 そもそも、制度実施前に厚労省が拠り所にした国民健康保険料の算定方法は高齢者の実数を反映していない?と指摘されていた。


 それを無視して、「負担減」を全面に押し出して制度をアピールしてきたのは政府である。


 名称の不人気さに加えて制度そのものの欠陥を補うために実施した調査なのに、結果は同省が強調していた「高齢者の七割が負担減」という数値に無理矢理合致させたようにしか映らない。


 負担が増えた世帯の全国割合を所得別に比べるとこうだ。


 年金収入が年百七十七万円未満の低所得者は39%。百七十七万円から二百九十二万円未満の中所得者が25%、二百九十二万円以上の高所得者が22%である。


 低所得者ほど負担が増えているのは明らかで、なぜ制度実施前に基本の実態調査が行われなかったのか、不思議でならない。それとも都合の悪い数字は隠し、都合のいい部分を出したのだろうか。


 調査結果を報告した厚労省側は調査前との違いについて、全国の実態をすべて網羅せず「三種類ある国保保険料の算定方式のうち、約八割の自治体が採用する一種類の方式で説明した」としている。


 しかし、これでは加入者数が半数に満たず、国の制度設計にしては大ざっぱにすぎよう。


 年金からの二回目の天引きが行われるのは十三日だ。今後どうしていくのか。お年寄り世帯への意を尽くした説明が求められる。


 自民、公明両党がまとめた負担軽減案でも沖縄の負担率は39%で全国二位の高さになっている。


 低所得者ほど負担が重いというのは制度として重大な欠陥があるのであり、政治はそのことにもっと目を向ける責務があろう。


 沖縄もそうだが、全国には年金だけで暮らすお年寄りが多い。だからこそ、高齢者のために実施される制度によってお年寄りが被害を被ってはならないのである。


 制度設計が間違っているのなら最初から練り直す。そのために国会は論議すべきであり、「制度のひずみ」で済ましてはならない。


 山口2区補選と全く同じ構図となっている。後期高齢者医療制度の不人気さが伺える。これでいっそう与党は総選挙を恐れることになるだろう。


 いつも思うことだが、政府の提灯持ちのような論説が目立つ全国紙と比べ、地方紙の社説は実にまともである。やはり、地域密着型の新聞の方が巨大マスメディアと比べ世論に敏感である。