回復期リハビリテーション病棟において運動器リハビリテーション料算定単位数は1日6単位までに制限

 中医協総会において、回復期入院医療については、2023年11月10日(第563回)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00222.html と11月15日(第564回)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00223.html で取り上げられた。入院(その3)総-2(PDF:6MB) が該当資料である。

 

 この資料では、回復期リハビリテーション病棟におけるアウトカムに基づいた適切な評価について、次のような課題があると指摘している。

  • リハビリテーションの提供単位数と運動FIMの変化について、入棟時の運動FIMに着目して分析をすると、全ての疾患で入棟時FIMが76点以上の患者についてはFIMの変化が小さい傾向にあった。また、運動器疾患においては、1日あたりの平均リハビリテーション提供単位数が「6単位以上7単位未満」、「7単位以上8単位未満」及び「8単位以上9単位未満」の患者の運動FIMについて、リハビリテーション提供単位数の増加に伴う明らかな改善はなかった。

 

 全疾患では、平均リハビリテーション提供単位数が多いと、運動FIMがより改善する傾向があった。ただし、入院時運動FIM76点以上では天井効果のため変化はほとんどない。

 

 脳血管疾患でも、全疾患と同様の傾向があった。

 

 一方、運動器疾患の場合、平均リハビリテーション提供単位数が6単位を超えるとほとんど変化はない。ただし、入棟時運動FIM21〜75点群では、平均リハビリテーション提供単位数5〜6群と比し6〜7群はやや改善度が高いようにも見える。

 しかし、6単位を超えた場合には明らかな改善はなかったという判断に基づき、今回の診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟において運動器リハビリテーション料算定単位数は1日6単位までに制限されることになった。

 

 

 廃用症候群では、入棟時運動FIM21〜75点群では、実施単位数に応じて増加が見られた。

 

 なぜ、脳血管疾患や廃用症候群と比べ、運動器疾患ではリハビリテーション提供単位数が6単位を超えると改善はあまり認められなかったのか。

 仮説としてあげられるのは、運動学習の容易さの違いである。脳血管疾患では高次脳機能障害があるため運動学習をし熟練行動(スキル)を身につけるのに時間がかかる。このことが、リハビリテーション提供単位数とFIM増加との間に正の相関関係が生じる要因となる。一方、運動器疾患の場合、新たな運動学習はさほど必要ない。手術などの治療の結果、鎮痛が図られアライメントも改善したならば、歩行をはじめとした日常生活活動を再獲得するのは難しくない。ただし、認知機能が低下した高齢患者の場合には運動学習には時間がかかる。杖や歩行器などの歩行補助具を上手に使えない、体幹装具や下肢装具の装着ができないなどのトラブルが往々にして生じる。切断の場合は、断端管理や義足装着訓練を新たに学習しなければならず、認知機能が正常の場合でも時間が必要である。

 一律に運動器疾患に対するリハビリテーションは1日6単位までと制限を加えるのは適当とは思えない。実際の運用にあたって、疾患や状態によっては、運動器リハビリテーション料患者でも1日6単位を超えてリハビリテーションが提供できるようになって欲しいと願いたい。

 

回復期リハビリテーション病棟におけるFIM測定のあり方についての議論

 中医協総会において、回復期入院医療については、2023年11月10日(第563回)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00222.html と11月15日(第564回)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00223.html で取り上げられた。入院(その3)総-2(PDF:6MB) が該当資料である。

 

 この資料では、回復期リハビリテーション病棟におけるFIM測定について、次のような課題があると指摘されている。

  • 平成26年以降、入棟時FIMは年々低下傾向である。
  • 三者機能評価の認定を受けている医療機関は、認定を受けていない医療機関と比較し、近年の入棟時FIMの低下傾向が緩やかであり、FIMの適切な評価に関する取組を実施している割合も高かった。
  • データ提出加算では、FIMについて入退棟時の点数を提出するように求めている。一方で、FIMの変化の大きさは時期によって異なることを示す報告もあった。

 

 平成28年度以降、入棟時FIM評価が経年的に低下しているとあるが、アウトカム指標である実績指数導入の影響が示唆されている。

 第三者評価の認定のない病院では、同じ入院時の日常生活機能点数に対する入院時運動FIM得点が有意に低い。

 

 第三者評価の認定を受けている医療機関においては、FIMの適切な測定に対する取組みを実施している割合が高い。

 より高い基準を満たすため、入棟時のFIMを意識的に低めにつけているのではないかという疑問が中医協で示されている。この解決方法として第三者評価を義務づけるべきという意見が支払い側委員から出されたが、今回の改定では見送られた。その代わりに、FIM測定に関する院内研修を行うことが回復期リハビリテーション病棟入院料1及び3の要件として追加され、かつ、全ての入院料でFIMを定期的に測定することが要件となった。おそらくFIMの点数を毎月提出することがデータ提出加算の要件になり、査定の理由としても使われることになるのではないか。

 

 実績指数を上げる正当な方法は次のとおりである。

  •  適応判定: 集中的なリハビリテーション適応のある患者の見極め
  •  早期受入れ: FIM改善度が高い早期に受入れ
  •  リハビリテーションの質: 質の高いスタッフによる目的志向型チーム医療の実践
  •  退院調整: 退院先を早めに判断し、社会資源を準備したうえで適切な時期に退院

 上記のような条件が不十分であるにも関わらず、実績指数をクリアしようとしてFIMの点数を操作することは、回復期リハビリテーション病棟という制度に負のイメージをもたらすことになる迷惑行為である。

 私としては、やはり第三者評価は義務づけた方が良かったのではないかと考えている。リハビリテーション専門医の配置および専門医研修プログラムへの参加なども質の担保に関係するので、要件として検討しても良いのではないか。

 おそらく、実績指数や重症度割合などにFIMが使われる限り、FIM測定のあり方は診療報酬改定のたびに議論され、次第に要件の厳格化が進められるのではないか。FIMの天井効果や床下効果のため改善度合いが適切に評価されない患者もいる。リハビリテーション医療の質をどのように評価していくのかについては、医療経済的な側面だけからでなく、議論を深める必要がある。

 

回復期リハビリテーション病棟に対する2024年度診療報酬改定概要

 昨日、2024年1月26日、中央社会保険医療協議会総会(第581回)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212500_00243.html. が開催された。個別改定項目(その1)について 総ー5(PDF:14MB)に今回の改定内容の概要がまとめられている。

 

 主な回復期リハビリテーション病棟の改定は以下のところに記載されている。

  • 【II-4 患者の状態及び必要と考えられる医療機能に応じた入院医療の評価-13】回復期リハビリテーション病棟入院料の評価及び要件の見直し(300〜304ページ)
  • 【III-3 アウトカムにも着目した評価の推進-3】回復期リハビリテーション病棟における運動器リハビリテーション料の算定単位数の見直し(537〜538ページ) 

  • 【II-3 リハビリテーション、栄養管理及び口腔管理の連携・推進-8】 回復期等の患者に対する口腔機能管理の推進 (250〜252ページ)
  • 【I-6 医療人材及び医療資源の偏在への対応-6】医療資源の少ない地域に配慮した評価の見直し、及び、【I-6 医療人材及び医療資源の偏在への対応-7】医療資源の少ない地域の対象地域の見直し (93〜103ページ)

 

 回復期リハビリテーション病棟入院料の評価及び要件の見直しに関する具体的内容は次のとおりである。

 

 医療従事者の待遇改善を目指すという立場からは、回復期リハビリテーション病棟入院料はプラス改定になると予想する。しかし、体制強化加算を算定していたところはマイナス改定になる可能性も否定できない。

 

 体制強化加算廃止以上に経営的影響が大きいのは、回復期リハビリテーション病棟における運動器リハビリテーション料の算定単位数の見直しである。

 

 これまで、運動器リハビリテーション料で6単位を超えて9単位近くまでリハビリテーションを提供していた施設では、リハビリテーション料の収入が2/3になってしまうことになる。早期加算、初期加算対象時期を過ぎた時点で退院を促進することにつながりかねない。

 回復期等の患者に対する口腔機能管理の推進は重要だが、歯科医療機関における算定である。

 医療資源の少ない地域において、回復期リハビリテーション病棟に 相当する機能を有する病室について、回復期リハビリテーション入院料の届出を病室単位で可能な区分を新設することとなったが、対象地域は限られている。

 少なくとも、回復期リハビリテーション病棟では社会福祉士と栄養士確保は必須となったことは間違いない。GLIM基準以外の栄養評価がどこまで認められるかがわからないが、栄養評価の中身も検討する必要がある。歯科医療機関との連携強化も求められる。

 一方、体制強化加算が廃止され、専従医を置く必要はなくなった。専従医要件を満たすための研修会は縮小されることになるだろう。

 医療の質の向上に見合った診療報酬増額が行われれば良いのだが、具体的な診療報酬がまだ出されていない状況ではやや不安がある。回復期リハビリテーション病棟で働く職員の待遇改善に結びつく改定となることを願う。 

福岡空港の小型機専用車椅子リフト

 日本リハビリテーション医学会学術集会から帰る際、福岡空港で車椅子搭乗用リフトの使用場面に遭遇した。

小型機専用車椅子リフト

 バリアフリー:公共交通関係のガイドライン - 国土交通省内に公共交通機関の旅客施設・車両等・役務の提供に関する移動等円滑化整備ガイドラインバリアフリー整備ガイドライン)がある。このガイドラインの旅客施設編、第3部 個別の旅客施設に関するガイドライン4.航空旅客ターミナルに航空機旅客搭乗橋が物理的制約のため利用できない時の代替設備例が掲載されている。

空旅客搭乗用の代替設備の例

 福岡空港で見たのは、小型機専用車椅子リフトである。なお、このリフトにはJALのロゴが載っているが、使用されていたのはANA系列の飛行機である。会社の枠を超えて利用されている。

 東京パラリンピックに向けて準備する過程で、バリアフリー化が推進された。車椅子ユーザーの飛行機搭乗問題もそのひとつである。福岡空港の場合、発着便数がかなり多いため小型機の搭乗には旅客搭乗橋が使用できないことが少なからずある。その場合、バスでターミナルの外れまで移動しタラップを昇降し小型飛行機に登場する必要があるが、この小型機専用車椅子リフトが大活躍している。

 

 飛行機の出発時、車椅子用リフトも一緒にお見送りをしてくれていた。空港スタッフの一員として誇り高く働いているかのように見えた。

2022年の超過死亡、大幅に増加

 超過死亡に関し、以下の内容で共同通信が記事を配信した。

 ギョッとする内容の見出しである。「厚生労働省に新型コロナ対策を助言する専門家組織の会合」とあったので、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料等(第101回以降)|厚生労働省のことと判断し、元の資料を探してみたところ、第120回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年4月5日)の資料3-2 鈴木基先生提出資料、80〜98ページに超過死亡に関するデータがあった。その中で、84ページの表が記事の元ネタであることがわかった。

 2022年の超過死亡数は、47330-113399と記載されている。記事本文を読むと、「超過死亡」が、2022年に最大約11万3千人に上ったとの推計、とある。この記載自体は間違いではない。しかし、見出しには「最大」の文字がない。なぜ「最大」というたった2文字を節約したのか。見出しをセンセーショナルにして閲覧数を稼ぐことを意図しているのであれば姑息である。

 

 おおまかな傾向を把握するために超過死亡予測値の中央値を並べると、次のようになる。

 さらに、超過死亡予測値と過少死亡予測値の中央値の差分を見ると、以下のとおりになる。

 

 新型コロナウイルス感染拡大以前から超過死亡があることがわかる。下記関連エントリーにも触れたが、インフルエンザで超過死亡が発生することが知られている。この20数年間で最も超過死亡が多かったのは、1998/1999年シーズンの35,000人超である。学童に対するインフルエンザ予防接種が任意接種になったことが要因と考えられている。その後、高齢者に対するインフルエンザワクチンが開始されたことや、医療機関・高齢者施設における感染対策が奏功し、最近は減少していた。

 2017〜2019年の超過死亡数と過少死亡の差分は、近年のインフルエンザによる超過死亡予測値と大差はない。

 一方、新型コロナウイルス感染拡大後を見ると、2020年は過少死亡数の方がかなり多くなっている。2021年は1998/1999年と匹敵する水準となり、2022年は大幅に凌駕している。

 死因ごとのデータを見ると、さらに興味深いことがわかる。老衰が増えている。

 感染者数が爆発的に増え、高齢者施設でクラスターが発生し、そのことを契機として体調を崩し亡くなるといった場合、新型コロナウイルスが死因と判定されず、老衰という病名で死亡診断書が記載されているのではないかと推測する。

 データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-オープンソースを見ると、各年の死亡者数は以下のとおりである。

  • 2020年 3,459人
  • 2021年 14,926人(累計 18,385人)
  • 2022年 38881人(累計 57,266人)
  • 2023年4月6日まで 16763人 (累計 74,029人)

 超過死亡のデータと比較すると、2021年、2022年とも、新型コロナウイルス感染を死因とする者の約2倍の超過死亡を認める。2023年の死亡者数増加のペースは2022年を上回っていることを計算に入れると、今年の超過死亡はさらに増えることになると予測せざるをえない。

 

令和4年診療報酬改定説明資料に見る疾患別リハビリテーション料の見直し

 厚労省のHP内に、令和4年度診療報酬改定についてのサイトが設けられた。2.令和4年度診療報酬改定説明資料等についてにPDF資料がまとめられている。

 同資料、12  令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅲ(小児・周産期、がん・疾病・難病対策、リハビリテーション)【2,666KB】に疾患別リハビリテーション料の見直しに関する資料がある。

 

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 まず取り上げられたのが、標準的算定日数超えた場合におけるFIM測定の要件化である。1ヶ月に1回以上FIMを測定したうえで、報告が義務づけられた。

 「特掲診療料の施設基準及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の「別添2」の様式は、2.令和4年度診療報酬改定説明資料等について、第3関連法令等(4)2 特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(通知)、令和4年3月4日 保医発0304第3号、PDF[16,761KB]にある。

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 ちなみに、FIMの点数のつけ方の例で126点満点で1点→2点になっているが、FIM総計最低点が18点であることを知らない者が作ったことがわかる。

 回復期リハビリテーション病棟に入院中の患者に関しては、FIM測定は容易だが、外来患者は難しい。さらに、FIMの改善が認められない場合には、減点・返戻の対象になり得る。算定日数上限患者に対し、医療保険を用いた疾患別リハビリテーションを差し控えることを意図した改定である。

 

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 リハビリテーション計画書等のサインについては、患者の家族が遠方に住んでいる等の理由について署名を求めることが困難の場合、説明と同意の内容を診療録に記載すれば、初回をのぞき署名を求めなくても構わないことになった。

 

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 運動器リハビリテーション料に、糖尿病性足病変等も含まれることになった。脳血管疾患等リハビリテーション料の場合には糖尿病性神経障害でリハビリテーションを行うことが多いが、運動器リハビリテーション料しか届出していない医療機関でも対応できることになった。

 

令和4年診療報酬改定説明資料に見る地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の見直し

 厚労省のHP内に、令和4年度診療報酬改定についてのサイトが設けられた。2.令和4年度診療報酬改定説明資料等についてにPDF資料がまとめられている。

 

 地域包括ケア病棟入院料の見直しは、下記エントリーで取り上げた。

 

 地域包括ケア病棟入院料に関し、04  令和4年度診療報酬改定の概要 入院Ⅱ(回復期・慢性期入院医療)【2,874KB】内で次のようにまとめられている。

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 青字・下線の部分が変更された箇所である。回復期リハビリテーション病棟入院料と比べると変更箇所が多い。

 重症度、医療・看護必要度I、同IIがそれぞれ、14%→12%、11%→8%になっているが、評価項目の見直しに伴うものである。

 実績要件のうち、自宅等から入棟した患者割合及び自宅等からの救急患者の受入数の見直しも大きいが、なんと言っても、在宅復帰率が70%以上から72.5%に微妙に上がったことが厳しい。

 

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 実績要件が厳しくなった埋め合わせの意味もあると思うが、初期加算は引き上げとなっている。