維持期リハビリテーションの規制さらに厳しく

 中央社会保険医療協議会 総会(第316回)平成27年12月2日が開催され、リハビリテーションに関する診療報酬改定の議論が行われた。個別事項(その5;リハビリテーション)についてが議論のもとになった資料である。
 今回は、維持期リハビリテーションに係る課題と論点の部分を紹介する。


 「維持期」の、脳血管疾患等リハ又は運動器リハを実施している、入院中以外の、要介護被保険者、という4つの条件を全て満たす者は、平成28年4月1日以降は、月13単位を上限として算定可能な疾患別リハビリテーションを受けることができないとされている。要介護被保険者に当てはまらないものとは、介護保険被保険者でない場合と介護保険被保険者であっても要介護認定を受けていない場合となっている。


 「維持期」の除外規定は上図に記載されているが、該当するかどうかの判断は難解である。レセプトコメント記載も必須となっており、手間がかかる。様々な状況を考慮すると、脳卒中や大腿骨頚部骨折などでは、要介護認定を受けていると、標準算定日数を超えた時点で医療保険でのリハビリテーションが打ち切られる可能性が高くなると判断せざるをえない。


 しかし、厚労省はこのまま維持期リハビリテーション規制を強化して良いかどうか、悩んでいるようである。平成18年度診療報酬改定時に展開されたリハビリテーション医療切り捨て反対署名運動に対するトラウマが、未だにあるように思える。論点の1番目には、「要介護者被保険者については、平成28年4月から維持期リハビリテーション介護保険へ移行することとされているが、移行の例外とすべき患者の状態等として、現行で例外とすることとされているもののほか、どのようなものあるか。」という記載がなされている。維持期リハビリテーション規制強化にあたって、可能な限り異議が出ないようにしたいと考えているように読み取れる。
 なお、論点の2番目、介護保険リハビリテーションの体験という提案は、「標準的算定日数 の3分の1が経過する日までを目安に」という制限が現実的ではなく、利用する者は少ないと予想する。


 脳卒中モデル(脳卒中や骨折など急性発症後に緩やかに生活機能が回復するモデル)では、急性期・回復期・維持期という区分がなされている。しかし、この区分は日本独特のものであり、欧米の論文などでは、急性期・亜急性期・慢性期に分けられるのが普通である。医学的リハビリテーションの治療効果が高い亜急性期から慢性期初期の部分を回復期として独立させたことが、長期入院が多い日本の現状にマッチし、回復期を含む区分が普及した。しかし、回復期以降に生活機能が改善することも少なからずあり、回復期が終わったら維持期という表現は誤解を招く。維持期の代わりに生活期という用語を使用することもあるが、この用語にも改善の意味合いは少ない。
 日本では、急性期と回復期の段階に、医療保険でのリハビリテーションを行うことは合意されている。一方、疾患別リハビリテーション料標準的算定日数を超えた時期、いわゆる維持期に相当する時期に関しては、医療・介護資源の適正配分の意味もあり、医療保険でのリハビリテーションに制限が加えるという厚労省の方針はこの間一貫している。


 今後、脳卒中や骨折などの後遺症がある者に対し、疾患別リハビリテーション料標準的算定日数を超えた時期にリハビリテーションを継続するためには、2つの方法のどれかを選ぶことになる。
(1)生活機能維持・改善を目指した介護保険でのリハビリテーション
 要介護認定者のほとんどが対象となる。生活を営む現場で実施する訪問リハビリテーションや、社会的交流・レスパイトケアの意味も含めて行う通所リハビリテーション、この2つの需要は今後いっそう高まる。
(2)生活機能改善を目指した医療保険でのリハビリテーション
 ADLがほぼ自立し、要介護認定を受けない者の場合、失語症、上肢機能、歩行能力の改善、復職などの社会参加を目指したリハビリテーションが継続して行われる。目標と期間を明確にして行われることが前提であり、標準的算定日数は超えることも少なくないが、数年単位に及ぶことは想定されていない。
 患者の評価をしっかりと行い、どちらでも対応できるようにしておくことが、リハビリテーション専門医療機関の責務と考える。


 なお、一つ気になるデータが呈示されている。


 「維持期リハの外来患者のうち、脳血管疾患等リハ(廃用症候群以外)では過半数が、脳血管疾患等リハ(廃用症候群)、運動器リハにおいても、それぞれ20-30%前後が、標準的算定日数以後3年以上経過しており、一部の患者で医療保険による維持期リハが長期化していることが認められた。」となっている。にわかに信じがたいデータだが、外来リハビリテーションの実態を表しているものと考える。目標が不明確なまま、漫然と長期間、医療保険でのリハビリテーションが実施されている、という非難の根拠になりかねない。憂慮すべき現状と考える。