患者紹介ビジネスに関する中医協議論

 患者紹介ビジネスに関し、中医協で議論がされた。

 厚生労働省は23日、中央社会保険医療協議会厚労相の諮問機関)の総会を開き、民間業者が患者を医師に紹介して仲介代金を取る「患者紹介ビジネス」を禁止する案を示した。省令を改正し、2014年度から医療機関の紹介料支払いを禁ずる方針だ。

患者紹介ビジネス禁止へ 厚労省、高齢者施設20カ所で確認 :日本経済新聞


 第252回 中央社会保険医療協議会 総会 議事次第内にある在宅医療(その4)について総−3(PDF:5,718KB)129〜173ページが記事のもとになった資料である。
 中医協資料をみると、平成22年(2010年)5月10日付の東京新聞記事が発端のようである。平成23年(2011年)2月15日付で「在宅医療における患者紹介等について」という事務連絡がなされている。平成25年(2013年)2月13日付の中医協でもとりあげられている。


 患者紹介ビジネス問題に再度火がついたのは、朝日新聞のキャンペーンである。朝日新聞デジタル:患者紹介ビジネスに関するトピックスに示すように、2013年8月25日より繰り返し記事として取り上げられている。私の記憶では、一面トップとなった記事が多い。あまりにもタイミングが良すぎるのだが、平成25年(2013年)8月28日付で、「在宅医療における患者紹介等の報告様式について」という事務連絡がなされた結果、全国で20施設の報告が集まり分析がなされている。


 調査結果もふまえたうえで、在宅患者訪問診療料や在宅時医学総合管理料等に関しては、次のような状況になっていると厚労省は判断し、診療報酬改定案を提示している。

  • 1医療機関あたりの担当患者数は年々増加してきており、在宅医療の供給量は増えてきている。
  • 一方で、在宅時医学総合管理料等は月2回以上の定期的な訪問診療(往診を含む。)等で診療時間等に関わらず算定できることから、特に同一建物内における訪問診療において、経済的誘引等により、過剰診療や患者の選択を制限する要因となる可能性がある。
  • 従って、今後は量的な観点のみならず、質的な観点からの充実も更に進めていく必要がある。

在宅時医学総合管理料等については、

  • 在宅時医学総合管理料及び特定施設入居時等医学総合管理料について、訪問診療料と同様に、同一建物かどうかに応じた評価体系とする
  • かかりつけ医機能の確立などの目的もあることから、現在議論している主治医機能のある医療機関の評価との連動を検討するなどが必要であると考えられる。


 さらに、医師1人1日あたりの訪問件数の中央値は2.5件であるが、最大値60件となっている。主として訪問診療料(同一建物)を算定している医療機関の一部で、過度に訪問診療が行われていることが示唆される、という結果になっていることを受け、厚労省は次のようにまとめ、対応案を示している。

  • 訪問1件あたりの診療時間は約半数が20分未満であり、主として訪問診療料(同一建物)を算定している医療機関の一部で、過度に訪問診療が行われていることが示唆されている。
  • また、現状では、「診療時間」「訪問先名」「患者の状態」を記載することや、「患者への情報提供と同意の確認」についても、要件となっていない。
  • 同一建物における訪問診療について一定の減額が行われているが、短時間の診察等であっても在宅患者訪問診療料等が算定可能なため、過剰診療や患者の選択を制限する要因となる可能性がある。
  • 在宅患者訪問診療料については、過剰診療等を防ぐために、患者等への説明と同意を含め、 一定の診療内容による整理が必要と考えられる。


 保険医療機関が患者の紹介を受ける対償として紹介料を支払うことへの対応については、療養担当規則の改正で対応するという方針を出している。

  • 一部の保険医療機関において、在宅医療を要する者が多く入居する施設・住宅から、患者の紹介を受け、紹介料を支払った上で、訪問診療を行っている事例がある。
  • 保険医療機関が患者の紹介を受け、紹介料を支払った上で、訪問診療を行うことについては、患者の保険医療機関の選択の制限や過剰な診療につながる場合は、健康保険法の趣旨からみて不適切である。
  • しかし、保険医療機関が患者の紹介を受け、紹介料を支払うこと自体は、現行制度上は違法とは言えない。
  • 保険医療機関については患者が自由に選択できるものである必要があり、また、健康保険事業の健全な運営を確保する必要があること等から、保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)の改正等により、保険医療機関が、患者の紹介を行う者に対して、患者の紹介を受ける対償として、紹介料等の経済上の利益を提供することを禁止してはどうか。


 まとめは、次のようになっている。「〜について、どのように考えるか。」という表現は、反対がなければこのような形で規制しますよという厚労省独特の言い回しである。

  1. 不適切な事例等を勘案し、量から質への転換を図るために、同一建物に居住する患者に対する在宅時医学総合管理料又は特定施設入居時等医学総合管理料については、訪問診療料と同様に、同一建物かどうかに応じた評価体系とすることについて、どのように考えるか。
  2. 在宅患者訪問診療料の要件について、質の高い訪問診療を確保し、健康保険法等の趣旨からみて、不適切と考えられる事例が生じないようにするために、患者等への説明と同意の確認を行うこととし、また、診療時間、訪問先名、患者の状態等を診療録に記載し、その内容を患者、家族等へ説明することを要件に含めるとともに、同一建物での訪問診療については、診療の実態に応じた適正な評価とすることについて、どのように考えるか。加えて、その対象患者や適切な訪問診療の内容について、どのように考えるか。
  3. 保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)の改正等により、保険医療機関が、患者の紹介を行う者に対して、患者の紹介を受ける対償として、紹介料等の経済上の利益を提供することを禁止することについて、どのように考えるか。


 最近、当院の近くでも、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が急速に増えている。選択肢が増えることは歓迎すべきだが、嘱託医への紹介が入所の条件となっている。ADLが保たれているような通院患者も訪問診療管理移行となってしまい、医療費の無駄遣いと言われても仕方がないと感じている。
 一連の経過をみると、厚労省朝日新聞出来レースではないかという印象が強いが、悪質な事例が目立ち、黙過できない状況になったのだろう。真面目に在宅医療に関わっている医療機関にとっては、面倒な規制が増えるということになりやりきれない思いになるが、やむをえない事態と考える。紹介ビジネス業者、居住施設、そして、医療機関による金儲け主義のトライアングルが医療保険を歪めているという状況が、少しでも改善することを望む。