当院事務長がアルコールを飲めない理由

 当院事務長は、アルコールを全く飲めない。起工式でもお神酒をなめただけで、顔が真っ赤になってしまった。この原因に関しては、筑波大の原田勝二先生が明らかにしている。


 http://homepage1.nifty.com/koutarou/insyuidenshi.html酒の強さは遺伝子で決まる 原田 勝二 氏に、研究結果が紹介されている。まとめると、次のような内容になる。

  • エタノール代謝には、エタノールからアセトアルデヒドヘアルコール脱水素酵素(ADH)が、アセトアルデヒドから酢酸への部分でアルデヒド脱水素酵素(ALDH)が働く。
  • 酒に強いかどうかは、以前はADHが関係していると考えられていたが、実はALDHの方が重要である。なお、ADH2*2遺伝子(失活型)は、日本人などモンゴロイド系民族に高頻度に存在する。
  • アルコール代謝で重要なALDH2には、分解能力が高いとされるN型(ALDH2*1)と、突然変異で分解能力が低下したD型(ALDH2*2)がある。D型は黄色人種系民族にのみ存在し、白人や黒人には検出されず、人種差が著しい。
  • ALDH2の遺伝子型にはNN型、ND型、DD型の三パターンある。NN型はアセトアルデヒドの分解が速く、たくさん飲める酒豪タイプ、ND型はそこそこ飲めるタイプ、そしてDD型は、体質的にほとんどアルコールを受けつけない下戸タイプとなる。
  • ALDH2遺伝子の型の割合を都道府県別に調べられたところ、北海道、東北、九州、沖縄地方に酒豪遺伝子であるN型遺伝子の割合が多く、近畿・中部地方にD型が多いことがわかった。N型は秋田県に一番多かった。
  • ALDHの世界における分布と日本における分布をみると、次のような仮説が成り立つ。モンゴロイド系でN型からD型からの突然変異が起こった。従来から日本に住んでいた縄文人のほとんどはN型遺伝子のみを持っており酒に強かった。その後、縄文時代末期から海を渡って近畿、中部に多く移り住んだとされる弥生人によって、酒に弱いD型遺伝子がもたらされた。


 かつて、蝦夷熊襲が住んでいた地域に酒豪が多いということが、遺伝子レベルで裏付けられた。


 新しい情報がないかと思い調べてみると、Influence of genetic variations of ethanol-metabolizing enzymes on phenotypes of alcohol-related disorders. - PubMed - NCBIが見つかった。

 The results revealed that (1) the less active allele of the ADH2 gene (ADH2*1) is associated with an increased risk for alcohol dependence, alcohol-induced persistent amnestic disorder, alcohol withdrawal syndrome, and cancer of the upper GI tract; (2) the inactive allele of the ALDH2 gene (ALDH2*2) is associated with a decreased risk for alcohol dependence, and an increased risk for alcoholic polyneuropathy and cancer in the same region; and (3) these genetic variations modify clinical features of alcohol dependence. Possible mechanisms of altered risk for these disorders are discussed.


 やはり、ADHの方は酒の強さと無関係である。むしろ、劣性型の場合でもそこそこ飲めるためにアルコール関連疾患になりやすい。一方、ALDH2の非活性型 (ALDH2*2)は下戸になるため、アルコール依存症にはならない。下手に飲むと、いろいろな病気になりやすいので飲まないのが身のためとなる。


 いろいろな知識を仕入れたので、アルコールに関して酒席の場でうんちくを傾けることができる。なお、当院事務長は予想に反して日本一の酒豪県秋田県出身だった。顔立ちから考えても蝦夷の末裔とは思えないので、先祖は近畿方面から来たのではないかと推測する。