友達の数は何人?ダンバー数とつながりの進化心理学

 ネットを見ていたら、人間心理学。人間はこういう風にできているということがわかる、25の心理学的事実 : カラパイアというエントリーが人気となっていた。

 25の心理学的事実それぞれ興味をひくものばかりだが、そのなかで、NO.2にあげられている「友人の数には限界がある」については、あまり知られていない。次のような記述がされている。

 あなたにはフェイスブックで4000人も友人がいるかもしれないが、実際にはそんなにたくさんの友人、特に親しい友人はもつことはできないのが厳しい現実だ。心理学者や人類学者によると、ひとりの人間が親しくつながっていられる最大数は50人から150人程度だという。


 親しくつながっていられる友達の数の上限のことを、ダンバー数と言い、進化心理学の世界ではたびたび言及される重要な概念となっている。進化人類学教授のロビン・ダンバーに由来する。以下のような一般向けの書物もある。

友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学

友達の数は何人?―ダンバー数とつながりの進化心理学


 本書のPart 1と2は、ヒトとヒトとのつながり、つながりを生むもの、という題になっており、生物種としてのホモ・サピエンスの特徴について、進化心理学の知見を用い、分かりやすく説明している。興味深い内容を抜き出してみた。なお、矢印以降は、私のメモである。


# 脳の大きさと一雌一雄関係
 脳は、一雌一雄関係を保つことに一番「頭をつかって」いる。鳥類でも哺乳類でも体格のわりに脳が大きい種は一雌一雄関だ。浮気好きな種の脳は小さい。ダメそうな相手を見抜くために、コストを投じて脳を大きく発達させた。
 母親由来の遺伝子がないラットは脳の新皮質が発達しない。一方、父親由来の遺伝子がないと大脳辺縁系が発達しない。これを「遺伝子刷り込み」という。霊長類でも同様である。メス同士の関係を円滑にするために、複雑な社会のなかで地道な交渉を積み重ねる必要がある。新皮質は社会的スキルを司る。一方、オスは生殖に優位になるように闘争意欲を生みだす大脳辺縁系が発達する。
→ 脳が大きくなったのは、男女関係のもめごとを解決するためという説である。


# 社会的知性説
 霊長類の複雑な社会が脳の発達を促したという説がある。これを社会的知性説、あるいは、マキアヴェリ的知性説という。集団のサイズと脳の新皮質との間には強い相関関係がある。人間の場合は、この数は150人となる。これをダンバー数と呼ぶ。
 狩猟・採集社会の集団は、30人ほどの小集団と、500人〜2500人の部族との間に、150人ほどの氏族がある。氏族の大きさは詳しい人口調査が行われた約20の部族社会でほぼ同様だった。
 文明化が進んだ社会でも150人まではひとりひとりの顔がわかるレベルで仕事が回る。それ以上になると、序列構造を導入しないと仕事の効率が落ちる。
 ハイテク素材のゴア・テックスの工場は従業員150人を基本としている。ビル・ゴアは、生産量を拡大する時に、既存の製造設備を拡大するのではなく、工場を新設する道を選んだ。
 軍隊の編成をするにもこのルールが生きている。中隊規模は130~150人となっている。
 「戦術的欺き」という現象が霊長類で認められる。相手の表面的な行動に対応するのではなく、相手の心理状態まで理解して行動する。複雑な関係を維持し、人間関係を活用する上限がダンバー数である。
→ 互恵的利他性と社会的知性説という重要な概念がここで説明されている。人間は集団を作り、お互いに助け合って生きている。しかし、只乗りをしようとするものが出て来ると問題を生じる。そのために、裏切り者検知器の向上が必要となり、脳の発達を促した、という説である。なお、無限繰返し型囚人のジレンマにおけるゲーム戦略に関する分かりやすい説明が、半沢直樹の戦略と派閥撲滅の秘策を考察する - ZDNet Japanに記載されているので、一読をお勧めする。


# ネットワークは3の倍数で増える。
 社会的ネットワークは3の倍数で構成される。親密な関係は3〜5人である。その回りに10人、さらにその外側に30人がいる。150人の同心円はその外側になる。
→ 組織の大きさに関する説明として、示唆に富んでいる。


# 共同体意識と血縁関係
 共同体意識の核になるのが血縁関係である。血縁の結びつきのなかにいると、強い安心感と満足感が得られるので、運命の波にさらされても乗りこえていける。方言は共同体の会員証である。
 動物でも血縁関係は大きな意味をもつ。共通の祖先に由来する遺伝子をたくさん共有する個体同士は、遺伝的な利害関係が強い。だから、ほかの条件がすべて同じなら、血縁が近い者同士は利他的な行動をとる可能性が高い。これを「ハミルトンの法則」という。
→ 移動手段が限られていた時代、人間関係はほぼ血縁集団に限られていた。このような村社会では助け合い活動が盛んになる。しかし、集団の利益と反する行動をした場合には、攻撃の対象となり、村八分という悲惨な運命が待っている。注意すべきは、利他的な行動が共同体のなかで限られていることである。利害関係が相反する隣接する共同体との仲は、通常は不良であり、争いごとの元になる。


# 親密さのもと(ふれあい、笑い、音楽)
 触れ合いは人間にとっても大事である。サルや類人猿が多くの時間を割く毛づくろいと同じである。皮膚を指先で刺激すると脳内にエンドルフィンが放出され、慢性の痛みをやわらげる効果がある。
 オキシトシンは他者を信じて報酬を分け合おうという意欲を高める。「逃走/闘争」本能には、エピネフリンが関わっている。こうした化学物質は、周囲に何からの変化が起きた時、神経ネットワークが反応できる環境を整える。
 エンドルフィンの分泌を促すのに一番効果的なのは笑うことである。笑うと痛覚閾値が大幅に上がる。
 音楽は異性をひきつける効果がある。クジャクの尾羽と同じ役割である。オスの尾羽は大きく発達しすぎて身軽に飛べないし、敵にも襲われやすい。しかし、メスを惹きつけ、子孫を残すことができる(性淘汰)。同時に、音楽は感情をかきたて、エンドルフィン放出の引き金にもなり、幸福感、満足感をもたらす。社会的な結びつきのプロセスで重要な役割を果たしている。
→ 親密さを増す手段としての、スキンシップ、音楽、笑いの効用を述べている。


# 言葉は遠隔の毛づくろい
 わざわざ話しかけるのは、相手に関心があることを示している。言葉があれば、情報交換という次のステップに進める。人づきあいがらみの知識の範囲が格段に広くなる。
 男女の好む話題は大きく異なる。女たちの会話は社会的ネットワークのためにある。複雑な人間関係を構築し、維持していくことが目的である。一方、男の会話は自己宣伝が目的である。
 母親が赤ちゃんに聞かせる歌うような語りかけこそが言葉の起源ではないかと思われる。脳の容量が増え、出産パターンが大きく変化した結果、手がかかる新生児期が長くなった。母親ことばは音楽の前身、さらに言うならば音楽と言葉の間の踏み石だったかもしれない。女同士のつながりが言葉を発達させた。ゴシップ記事が好まれ、うわさ話が会話のほとんどを占める理由も説明がつく。言葉があれば、人をタイプ別に分類でき、人間関係のネットワークを拡大することに役立つ。
 世界中の人間がはるか昔から物語を話し、物語を愛してきた。物語を話すなかで、帰属意識が強まる。知識を共有し、仲間意識が生まれる。たき火を囲みながら語られる物語は聞く者を夢中にさせ、語り手が聴衆の感情を意のままに操ることができるようになる。
→ 人間は言葉という手段を手にすることによって、より一層親密さを増すことができるようになった。なお、女性がゴシップ好きなのは仕方がないこととあきらめなければならない。


 人間は狩猟採集社会に適した脳の構造を持っているというのが、進化心理学の基本的な概念である。移動や情報収集能力が格段に上がり、過去とは比べものにならないほど複雑な社会に生きている人間にとって、自らの心の癖に気づき、意識的に修正していくことが求められている。その意味で、進化心理学的知見は示唆に富むものが多いと私は感じている。