孤独死予防と仮設住宅夏祭り

 東日本大震災後の重要課題のひとつである孤独死問題を調べているうちに、東日本大震災:仮設の孤独死、2年目増加…すでに11人/毎日新聞 2012年6月25日という記事が見つかった。

 東日本大震災の被災者が入居する岩手、宮城、福島3県の仮設住宅で、誰にもみとられずに亡くなる「孤独死」した人が、震災から1年が過ぎた今年3月11日以降、少なくとも11人(5月末)に上っていることが、3県警への取材で分かった。3月10日までは22人で、震災直後の1年間と比べると、2倍以上のペースになっている。阪神大震災(95年)の際も、孤独死は震災から2年目が最も多く、専門家も「2年目だからこそきめ細かな支え合いを」と訴える。【宇多川はるか】


 この記事で示された数字は氷山の一角ではないかという思いがしてならない。みなし仮設住宅や呼び寄せ老人問題もある。住み慣れた地域を離れ不自由な生活を送っている高齢者は仮設住宅にとどまらない。被災者の健康問題は、これから深刻化するのではないかと危惧している。


 孤独死は被災地だけの問題ではない。2012年6月15日に公表された、平成24年版高齢社会白書 全文(PDF形式) - 内閣府でも高齢社会の重要問題として取り上げられている。平成23年度 高齢化の状況及び高齢社会対策の実施状況 第1章 高齢化の状況 第2節 高齢者の姿と取り巻く環境の現状と動向 6 高齢者の生活環境、(5)高齢者の日常生活(PDF形式:394KB)に次のような記載がある。

エ 孤立死と考えられる事例が多数発生している
 誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような「孤立死(孤独死)」の事例が報道されているが、死因不明の急性死や事故で亡くなった人の検案、解剖を行っている東京都監察医務院が公表しているデータによると、東京 23 区内における一人暮らしで 65 歳以上の人の自宅での死亡者数は、平成 22(2010)年に 2,913 人となっている(図1 - 2 - 6 - 17)

 また、(独)都市再生機構が運営管理する賃貸住宅約 76 万戸において、単身の居住者で死亡から相当期間経過後(1 週間を超えて)に発見された件数(自殺や他殺などを除く)は、平成 22(2010)年度に 184 件、65 歳以上に限ると132 件となり、20(2008)年度に比べ全体で約 2 割、65 歳以上では約5 割の増加となっている(図1-2-6-18)。


 東京以外の自治体のデータは残念ながらないが、孤独死問題を隣の住民に関心がない都会だけの現象と捉えてはいけないだろう。高齢者単独世帯は、高齢化が進む地方自治体でも深刻な問題である。


 (7)東日本大震災における高齢者の被害状況(PDF形式:361KB)の中の「コラム 被災地の連携 ~神戸市から東日本大震災被災地に向けて~」の中には、阪神・淡路大震災の教訓として、以下のような記述がある。

 平成 7(1995)年 1 月 17 日に発生した阪神・淡路大震災の被災地では、復興が進む中で、高齢者が転居先で誰にも見守られずに亡くなる事例が目立ち、社会的な注目を集めた。これは、震災で転居を余儀なくされた人の多くが、避難所から仮設住宅、さらに災害復興住宅へと転居を続ける中で、それぞれ個人(世帯)単位の抽選で高齢者を優先的に入居させたため、転居を繰り返すごとに高齢化率が上がり、また地域とのつながりを失っていったことが原因と見られている。


(中略)


 こうした神戸市の経験は報告書*1にまとめられており、東日本大震災後、宮城県では、神戸市の取組を参考に県内の市町村や仮設住宅を訪問する支援員等を対象とした研修を実施している。


 阪神淡路大震災の経験は、サポートに回る自治体職員やボランティア組織だけでなく、仮設住宅自治会役員にも伝わっている。当院も近くの「あすと長町仮設住宅」への定期的支援を行っているが、自治会役員さんは、高齢者だけでなく、母子家庭、障害者などの社会的弱者が多いという問題意識を明確に持っている。この仮設住宅宮城県でもっとも大きく、230戸あまりの入居者がいる。仙台市だけでなく、気仙沼南相馬など広い地域から入居者が集まっており、孤立化予防に真剣に取り組んでいるところということだった。


 つい先日行われた仮設住宅夏祭り*2は、地元で絶大な人気を誇るさとう宗幸、知る人ぞ知る声優の山寺宏一ゆるキャラむすび丸などがステージに登場し、大いに盛り上がった。ふだん他の入居者と交流がない住民も楽しんだのではないか。






 夏祭りの会場では、区長や保健所長にもお会いすることができた。地域社会総出でこの仮設住宅を支えていこうという熱気にあふれていた。
 孤独死を如何に防ぐかということは、東日本大震災後の最重要課題のひとつである。大災害を生き延びた人びとが孤独のなかで死んでいくという悲劇を防がなければならないということを、被災地の医療従事者の課題として常に心に刻んでいる。この思いを多くの人と共有しているということを、仮設住宅夏祭りで確認できた。
 未曾有の大災害から立ち直るためには2〜3年では不十分で、10数年間はかかるのではないかと私は考えている。新たな生活環境のなかで安定した生活を営むことができるまで、長期戦の構えで生活再建の問題に取り組んでいくことが必要になっている。