「医療生活産業」の具体例としてのリハビリテーション
ライフイノベーションWGの論議の源流は、http://www.meti.go.jp/press/20100630001/20100630001.htmlにある。医療産業研究会報告書(概要)(PDF形式:96KB)をみると、具体的施策として、次の3つがあげられている。
1 「医療生活産業」の振興
- 医療と「医療生活産業」との連携(業務標準約款の策定など関係者の役割分担の明確化、既存サービス産業のビジネスモデルの転換)
- 「医療生活産業」のサービス品質の可視化(品質基準の策定)
- ビジネス環境整備
2 医療の国際化
- 外国人患者の国内医療機関への受け入れの推進(医療通訳の育成などの受け入れ支援機能の強化、医療滞在ビザの創設、外国人医師等の活用等)
- 国内医療産業(医療機関、医療機器産業、医薬品産業)が有機的に連動した日本の医療サービスのシステム輸出
3 医療情報のデジタル化
- 標準化
- 関係機関・事業者が共有可能な医療情報ネットワークの構築
- 医療情報の標準化(国際標準に基づく国内標準の策定等)
- 個人情報の取扱ルールの整備(アクセス管理やセキュリティ管理や運用のためのガイドラインの策定、匿名化ルールの策定)
「医療生活産業」の振興、医療の国際化、医療情報のデジタル化がライフイノベーションの3本柱ということが明確に示されている。
医療産業研究会報告書−国民皆保険制度の維持・改善に向けて−(PDF形式:1,517KB)の18ページをみると、「医療生活産業」の振興に関し、リハビリテーションが具体例として記述されている。
・「医療生活産業」は、変化する多様な需要への自律的な対応が望まれるという観点から、現在の医療を産業的な手法で補う議論が有効な分野と考えられる。従来の医療や介護は、疾病の治療や介助を第一の目的に設計されている。そのため、その役割の中に、疾病予防や、生活の質を維持するための疾病管理、医療や介護の必要性を低減するリハビリ、介護予防などの実現をサポートするサービスが、財政面での困難もあり、必ずしも十分に含まれていない。例えば、手術後の病院でのリハビリが自宅では十分に継承されず、残念ながら状況が悪化するケースや、回復の可能性があるにも関わらず、十分なリハビリメニューが制度として用意されていないため、結果として充実した介護が、介護度を上げてしまう、いわゆる“過剰な介護”というケースも存在すると言われている。
・そのため、医療や介護の必要性を低減し、健康な生活への復帰を目的として、必要な運動指導や、栄養に配慮したアドバイスを行うとともに、その実践を支援したり、必要なサービスをコーディネートするサービスは、期待が高いにもかかわらず、公的にも民間でもほとんど提供されていないのが現状である。いくつかの事例もあるが、第三の分野(「医療生活産業」)として包括的に社会に広く認知されていることもなく、散発的な存在との印象はぬぐえない。さらに、これらのサービスが、公的に提供されるものなのか、民間サービスとして提供されるものか社会的コンセンサスも不明である。
報告書の31ページには、「医療生活産業」のビジネスモデルの概念図が示されている。経済産業省が目指しているのは、真ん中の「医療・介護・民間事業者ビジネスモデル」である。
リハビリテーション=機能訓練という矮小化された図式が前提となっている。リハビリテーションは、時間を限定した目標指向的アプローチを特徴とする。生物心理社会モデルに基づいた総合的評価を行い、安定した社会生活を行うためのマネジメントを行う。公共交通機関利用、家事、職業復帰まで達成できた場合には、生活の質を高め、活動性を維持するために、フィットネス産業やスポーツ施設を積極的に利用することも可能であり、推奨すべきである。しかし、屋内生活レベルにとどまり、閉じこもりになるような場合には、専門職の定期的な評価のもと医療保険や介護保険でリハビリテーションを提供した方が、介護予防上効果的である。
経済的問題も度外視できない。高齢者の経済状況は多様である。資産を持つ豊かな者から、日々の生活に困窮し医療保険や介護保険の保険料も支払えない者もいる。後者の場合、「医療生活産業」利用など高嶺の花である。
慢性期におけるリハビリテーションサービスの不十分さを逆手にとって、「医療生活産業」の参入モデルとされることには不快感を覚える。「医療生活産業」育成を口実として、公的保険で提供すべきリハビリテーションが縮小されるとしたら本末転倒である。