新成長戦略 〜「元気な日本」復活のシナリオ〜

 新成長戦略〜「元気な日本」復活のシナリオ〜 -首相官邸ホームページ-の中に、 新成長戦略 〜「元気な日本」復活のシナリオ〜(平成22年6月18日)閣議決定[PDF]がある。ライフイノベーションに関わる部分を引用する。


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(2)ライフ・イノベーションによる健康大国戦略

【2020 年までの目標】
『医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出、新規市場約 50 兆円、新規雇用 284 万人』

(医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業へ)
  我が国は、国民皆保険制度の下、低コストで質の高い医療サービスを国民に提供してきた結果、世界一の健康長寿国となった。世界のフロンティアを進む日本の高齢化は、ライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)を力強く推進することにより新たなサービス成長産業と新・ものづくり産業を育てるチャンスでもある。
 したがって、高い成長と雇用創出が見込める医療・介護・健康関連産業を日本の成長牽引産業として明確に位置付けるとともに、民間事業者等の新たなサービス主体の参入も促進し、安全の確保や質の向上を図りながら、利用者本位の多様なサービスが提供できる体制を構築する。誰もが必要なサービスにアクセスできる体制を維持しながら、そのために必要な制度・ルールの変更等を進める。


(日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発推進)
 安全性が高く優れた日本発の革新的な医薬品、医療・介護技術の研究開発を推進する。産官学が一体となった取組や、創薬ベンチャーの育成を推進し、新薬、再生医療等の先端医療技術、情報通信技術を駆使した遠隔医療システム、ものづくり技術を活用した高齢者用パーソナルモビリティ、医療・介護ロボット等の研究開発・実用化を促進する。その前提として、ドラッグラグ、デバイスラグの解消は喫緊の課題であり、治験環境の整備、承認審査の迅速化を進める。


(アジア等海外市場への展開促進)
 医療・介護・健康関連産業は、今後、高齢社会を迎えるアジア諸国等においても高い成長が見込まれる。医薬品等の海外販売やアジアの富裕層等を対象とした健診、治療等の医療及び関連サービスを観光とも連携して促進していく。また、成長するアジア市場との連携(共同の臨床研究・治験拠点の構築等)も目指していく。


(バリアフリー住宅の供給促進)
 今後、一人暮らしや介護を必要とする高齢者の増加が見込まれており、高齢者が居住する住宅内での安全な移動の確保や転倒防止、介助者の負担軽減等のため、手すりの設置や屋内の段差解消等、住宅のバリアフリー化の促進が急務である。このため、バリアフリー性能が優れた住宅取得や、バリアフリー改修促進のための支援を充実するともに、民間事業者等による高齢者向けのバリアフリー化された賃貸住宅の供給促進等に重点的に取り組む。


(不安の解消、生涯を楽しむための医療・介護サービスの基盤強化)
 高齢者が元気に活動している姿は、健全な社会の象徴であり、経済成長の礎である。しかし、既存の制度や供給体制は、近年の急速な高齢化や医療技術の進歩、それに伴う多様で質の高いサービスへの需要の高まり等の環境変化に十分に対応できていない。高齢者が将来の不安を払拭し、不安のための貯蓄から、生涯を楽しむための支出を行えるように医療・介護サービスの基盤を強化する。
 具体的には、医師養成数の増加、勤務環境や処遇の改善による勤務医や医療・介護従事者の確保とともに、医療・介護従事者間の役割分担を見直す。また、医療機関の機能分化と高度・専門的医療の集約化、介護施設、居住系サービスの増加を加速させ、質の高い医療・介護サービス を安定的に提供できる体制を整備する。


(地域における高齢者の安心な暮らしの実現)
 医療、介護は地域密着型のサービス産業であり、地方の経済、内需を支えている。住み慣れた地域で生涯を過ごしたいと願っている高齢者は多く、地域主導による地域医療の再生を図ることが、これからの地域社会において重要である。具体的には、医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携と、情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備などを進め、そこに暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会を構築する。
 高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで、生涯学習や、教養・知識を吸収するための旅行など、新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また、高齢者の起業や雇用にもつながるほか、高齢者が有する技術・知識等が次世代へも継承される。こうした好循環を可能とする環境を整備していく。


 これらの施策を進めるとともに、持続可能な社会保障制度の実現に向けた改革を進めることで、超高齢社会に対応した社会システムを構築し、2020 年までに医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出により、新規市場約 50 兆円、新規雇用 284 万人を目標とし、すべての高齢者が、家族と社会のつながりの中で生涯生活を楽しむことができる社会をつくる。また、日本の新たな社会システムを「高齢社会の先進モデル」として、アジアそして世界へと発信していく。


 閣議決定の具体化に向けて、行政刷新会議のライフイノベーションWGが論議を続けている。マスコミで喧伝されている医療ツーリズムは、「アジア等海外市場への展開促進」に該当する。
 低社会保障政策で痛みつけられた医療・介護分野の再生を目指すよりは、医療・介護・健康関連の民間事業を育成することに力を入れている。また、お金を持っている高齢者やアジアの富裕層のニーズに応えることで産業を育成するという方針を前面に出している。医療に関して言うと、今でも公的分野+混合診療の2階建てになっているが、2階部分を拡大していくということが閣議決定の核心といえる。
 高齢者用住宅の促進など部分的に評価できる内容はある。しかし、健康産業の育成を最重要課題としていることに関しては、強い違和感を感じる。