大腿骨頚部骨折患者の層別化
当院回復期リハビリテーション病棟における大腿骨頚部骨折患者の現状について、中間総括を行った。
2006〜2009年度にリハビリテーション依頼を行った回復期リハビリテーション入院大腿骨頚部骨折患234名を対象とした。年齢は、平均82.4±8.5歳(47〜97歳、中央値83歳)、性別は女性199名(85%)、男性35名(15%)だった。受傷から当院入院まで平均33.1±12.8日(中央値30日、当院入院から退院まで平均65.5±25.4日(中央値67日)、受傷から当院退院までの総在院期間平均98.6±28.9日(中央値99.5日)だった。
初回FIM総計と終了時FIM総計との関係を散布図にすると、下図のようになった。
初回FIM総計平均68.9±21.9(中央値71)、終了時FIM総計平均88.9±25.3(中央値96.5)、FIM増加平均19.7±13.3(中央値20)、FIM効率平均0.34±0.44(中央値0.34)という結果だった。
本図をじっと眺めていると、初回FIM60点くらいを境に概ね2群に分かれているように見えてきた。
最初からFIMの値が高い群はADL改善が良好である。ただし、より点数が高い者は、天井効果があり、FIMを指標にした限りでは改善があったかどうか不明瞭である。
一方、FIM低値群では、FIM増加が高値群と比べ明らかに少ない。中には、リハビリテーション効果が全く得られない者もいる。
脳卒中患者でも同じようなかまぼこ型のデータ散布となる。脳障害では患者の重症度の違いによるものと説明されている。しかし、大腿骨頚部骨折が脳卒中と同じような多様性を持っているとは到底言えない。転倒をきたす要因、受傷前の状態の違いが関係していると推測せざるをえない。
地域連携パスの改善の視点からも、大腿骨頚部骨折患者の層別化の必要性を痛感していた。試案として、入院リハビリテーション治療終了時のADL、退院先、総在院日数(急性期+回復期)についての仮説をまじえながら、患者層を以下の4群に分けてみた。
受傷前状態 | 到達ADL | 退院先 | 総在院日数 |
---|---|---|---|
問題なし | 受傷前に復帰 | 自宅 | 1〜2ヶ月 |
運動機能障害軽〜中等度 | 受傷前と比しやや低下 | 自宅 | 3〜4ヶ月 |
認知機能障害軽〜中等度 | 受傷前と比しやや低下 | 自宅 | 3〜4ヶ月 |
運動・認知機能障害重度 | 受傷前より大きく低下 | 自宅or施設 | ? |
最初の群は、受傷前に全く問題がなかった群が通常とは異なる強い外力を受けて受傷した場合である。例えば、自転車乗車中の転倒、脚立のような高所からの転落などである。元々が元気であるため、手術後の経過が良好なら1ヶ月程度で自宅に退院する。直接急性期病院から自宅退院可能となる群である。独居など環境因子が加わった場合に、回復期リハビリテーション病棟に移動する。在院日数短縮のため、術後早期に移動となる群もここに含まれる。
次の2つの群は、受傷前からADLやIADLに軽度〜中等度の問題があった群である。変形性関節症や腰痛症、脳卒中後遺症などのため運動機能が低下していた群では、予備能力が低いため術後のリハビリテーションに時間を要する。なお、骨癒合遷延化など骨折部位の局所的な問題の場合もこの群に含まれる。運動機能面では問題なくても、認知症があると運動学習能力が低く、訓練効果が上がりにくい。いずれの群も集中的なリハビリテーションが3〜4ヶ月必要であり、回復期リハビリテーション病棟の主要対象となっている。ADLは受傷前と比し、やや低下する。安全性の配慮を含め、環境調整を行った後、自宅退院を目指す。
4番目の群は、運動機能面、認知機能面のいずれか、あるいは両者が重度である場合である。リハビリテーション効果があるかどうかに関して見極めが求められる。
もうひとつ忘れていけない群がある。内部疾患悪化のため、医学的に不安定な群である。転院時点で、極度の貧血、慢性腎不全悪化、重症尿路感染症などがあり、急性期病院に再転院を余儀なくされる場合である。
急性期病院の整形外科医が転院依頼時にまず行うことは、5つの群のどこに含まれるかを判断することである。
最初の3群は、地域連携パスの対象である。治療工程の標準化を目指す。回復期リハビリテーション病棟への転院に関してはほとんどフリーパスと考えて良い。
運動・認知機能障害重度群では、個別対応が求められる。パスの対象外であり、直接電話で急性期の主治医と相談をしたり、診療情報提供書を持ってご家族に外来に相談に来ていただくことになる。受け入れ側の回復期リハビリテーション病棟側の力量にも左右される。当院では、可能な限り困難症例でも転院をお引き受けしているようにしている。重度の障害があっても、運動学習が可能な場合がある。一方、認知症の周辺症状のコントロールがつかず、病棟運営に悩まされる患者もいる。
医学的コントロール不安定群は、診療報酬が包括性となっている回復期リハビリテーション病棟では引き受けることができない。かといって、DPCで診断群別に医療費が決まっている急性期病院にも長くは置いておけない。転院先探しに難渋する群である。
大腿骨頚部骨折の地域連携パスについて文献検索をしてみているが、層別化の点から満足できるものがほとんどない。大腿骨頚部骨折シームレスケア研究会(熊本)の在院日数設定において、通常は総在院期間を人工骨頭置換術で術後10週、骨接合で術後12週をしているが、膝関節疾患、腰椎疾患ある場合には2週追加すると指摘している論文を見つけた程度である。大腿骨頚部骨折患者の併存障害が十分評価されていないことが原因のように思える。
リハビリテーション医学会の抄録締め切りまで2ヶ月あまりとなった。データをどのようにまとめるかを頭を悩ませていきたい。日常診療に役立つ面白い知見があるのではないかと考えている。