標準的算定日数に関する関係団体への聞き取り調査

 リハビリテーションの標準的算定日数に関する関係団体への聞き取り調査について |報道発表資料|厚生労働省が公表された。別添に、関係団体に対する聞き取り調査内容が記載されている。


 調査内容は次のとおりになっている。
1.現行制度に対する主な意見
(1)標準的算定日数の設定について
(2)疾患別リハビリについて
(3)機能維持のために行う13単位/月のリハビリについて
2.今後のリハビリへの要望
3.まとめ


 現行制度に関しては、次のような3段階の総合評価がなされている。
◯:基本的に賛成。
△:賛成と反対が混在。
×:基本的に反対。


 各団体の総合評価を表にしてまとめた。

標準的算定日数 疾患別リハ 維持リハ13単位
日本リハビリテーション医学会  △   ×   △ 
日本理学療法士協会  △   △   △ 
日本作業療法士協会  △   △   △ 
日本言語聴覚士協会  △   ◯   △ 
日本臨床整形外科学会  △   ◯   △ 
日本心臓リハビリテーション学会  △   ◯   ◯ 
全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会  ◯   ◯   ◯ 


 標準的算定日数、維持的リハ13単位に関しては、ほとんどの団体が△(賛成と反対が混在)と回答している。反対意見を拾い上げると、次のとおりとなる。

・標準的算定日数内で対応可能な場合も多いが、算定日数制限を疾患別に一律に定めることは主治医の個別診断に基づく判断を制限し、問題症例を生み出すことが危惧される。算定日数の上限を超えてもリハビリ医療が必要な状態は多々あり、個別性が尊重されるシステムが必要と考える。
・特にリウマチ、神経難病、重症の脊髄疾患等の、いわゆる典型例(高齢の脳卒中や大腿骨頸部骨折など)ではないケースについては、標準的算定日数の設定は再検討するべき。
・月13単位というのは脳卒中等の急性発症モデルで考えられており、この範囲内で対応可能な場合も少なくないが、小児や進行性疾患(神経難病、リウマチなど)等の場合には、足りないケースもあると認識。
 (以上、日本リハビリテーション医学会)


・標準的算定日数内で、おおむね7割は対応できるが、3割程度は日数が足りない印象がある。心不全を発症している人のリハビリでは、日数不足になるケースが多くなる印象であり、高齢者については6ヶ月以上経ってからもよくなる傾向がみられる。
・レアケースであるが、移植待ち、人工心臓の患者には日数不足。
・標準算定的日数の後でも改善を見込める場合はリハビリを継続できるが、提出資料の煩雑さゆえに、継続しない場合もある。
・ケースによっては足りないケースもあるが、現実的には、外来の場合患者の自己負担の金額から考えると、この程度が妥当となっている。しかし、入院の場合には13単位/月では不十分で、算定可能日数内と同様の措置が必要。
 (以上、日本心臓リハビリテーション学会)


・標準的算定日数内で終了しなかった人(難治症や、感染症併発でリハビリが継続できない場合等)についてのフォローの方法が未確立。(計画書で1カ月延長する等、制度的に方法はあっても、実際には医療機関で行っていない場合も多い。)
・標準的算定日数後も機能回復するケースもあると認識。
 (以上、日本作業療法士協会


・言語聴覚療法が必要な患者については長期に改善するケースも多い。
・継続の根拠に使われている指標(FIM 、BI)は、言語聴覚障害については評価できにくいことから、継続の必要性の説明が難しい。
・言語聴覚療法のみの患者は13単位でよいが、理学療法作業療法と併用する必要あるケースでは13単位では足りないケースもある。
・そもそも、外来で言語聴覚療法を行う施設が少ない。
 (以上、日本言語聴覚士協会)


 疾患別リハビリテーションに関しては、意見が真っ二つに分かれている。反対意見、賛成意見の代表は次のとおりである。

・平成18 年の疾患別導入時の学会アンケートでは反対が多かった。
・本来、リハビリは疾患よりもむしろ疾患から派生する障害を対象にしているので、疾患別リハビリの診療報酬体系には無理が多いように思われる。
・また、現行の疾患別リハビリ間の点数較差については疑問を感じている会員は少なくない。
・総合リハビリ(施設)を設置すべきという意見が多いので、疾患別リハビリの見直しと併せて総合リハビリの設置を考えるべき。特に複数疾患の患者や難病患者についてどうするのか考えるべき。総合リハビリについては、大規模型・小規模型の導入という案も検討すべきと考える。
 (以上、日本リハビリテーション医学会)


作業療法士の業務は、社会生活を送るための諸動作(歩行、掃除、洗濯、調理等)の訓練が主であり、疾病別にしない方が効率的な場合もある。
 (以上、日本作業療法士協会

・リハビリの質の向上を図る観点から導入されたものとして認識しており、実際、リハビリの質の向上に寄与しているものと認識。現時点で、元に戻ることは考えられない。
 (以上、日本臨床整形外科学会)


・リハビリ関係者のみだけではなく、各科(脳外科、整形外科)でリハビリについてしっかり考えるようになった。
 (以上、全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会)


・他のリハビリとは内容が異なるので、疾患別でなければできない。
 (以上、日本心臓リハビリテーション学会)


・言語聴覚療法はもともと対象疾患が、現在の脳血管疾患等リハの対象のみとなっているので、疾患別リハビリにおいても、特に変わりない。
 (以上、日本言語聴覚士協会)


 回答全体を読むと、各団体のスタンスの微妙な違いが見えてくる。
 日本リハビリテーション医学会は、具体的に問題点を指摘し、総合リハビリテーション創設など抜本的な改善提案をしている。現状に関する危機感が伝わってくる。日本作業療法士協会、日本言語聴覚士協会も、同様の内容をやや遠慮がちに述べている。一方、日本理学療法士協会は、厚労省に迎合するような回答となっている。最初に聞き取り調査を受けたため、組織防衛にはしったのではないかと勘ぐられるほどの内容となっている。
 全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会は、総合評価は全て○としている。「回復期リハビリは充実したので、今後は、予防的リハビリ、回復期リハビリの前の急性期リハビリと、維持期のリハビリの充実が重要。」という意見からほのめかされているように、現状に大きな不満はないことを表明している。
 日本臨床整形外科学会、日本心臓リハビリテーション学会は、疾患別リハビリテーション維持を強く主張する中で、診療報酬や施設基準の是正を求めている。


 診療報酬に関する利害関係者として、医療側、支払い側、患者側の3者がある。日本では、医療費抑制政策の下、圧倒的に支払い側が強い状況にある。厚労省に呼ばれ、聞き取り調査を受けた時に、主張を正面から訴えることには勇気がいる。また、自らの利害関係のみに拘泥する姿勢では、分断して統治するという為政者の政略にからめとられる。
 医療側は、患者側の不利益を克服するために何をすべきかという立場を通じて、自らの正当性を主張することができる。疾患別リハビリテーション料算定日数上限問題に対抗して行われた署名運動は、日本の医療運動上、特筆すべきものである。リハビリテーション診療問題に関する国会議員の組織も作られた。
 2012年度には、診療報酬・介護報酬同時改定がある。団塊の世代が75歳以上の高齢者となる2025年頃までは、急速な高齢化が進む。リハビリテーション提供体制を整備することは国家的課題である。十分なリハビリテーションを受ける機会を失った寝たきり高齢者が世の中にあふれないためにも、関係団体が毅然とした姿勢を示すことが事態を打開する鍵であると私は考えている。