新たなそして厳格な廃用症候群の定義作り

 2009年8月20日付で、日本理学療法士協会日本作業療法士協会、日本言語聴覚士協会が、連名で平成22年度 診療報酬改定へ向けた要望書厚労省に出した。この中に廃用症候群に対する要望がある。

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(4)脳血管疾患等リハビリテーションにおける廃用症候群の算定の存続
 後期高齢者の増加に伴い肺炎による廃用症候群を要因としてADL低下をきたし、本格的なリハビリテーション介入を必要とする方々が増えています。廃用症候群に対する早期の総合的なリハビリテーション介入は不可逆的な寝たきり状態を防止するために重要なことと考えています。また、廃用症候群は起算日を中心とした現診療報酬体系とは馴染まない点もあり、廃用症候群の算定廃止によりこの症状に対するリハビリテーション料の算定が非常に困難となります。
 そこで廃用症候群の存続を前提とした、新たなそして厳格な廃用症候群の定義作りをお願い致します。


 厚労省は、リハビリテーションの対象から廃用症候群を除外する意向を示している。リハビリテーション関連団体の努力により、2008年度診療報酬改定時には、届出書類をレセプトに添付することで存続が図られた。しかし、その後も、廃用症候群を悪用する事例が後を絶たない。大腿骨頚部骨折手術後の廃用症候群という信じられないレセプト病名が横行している。
 廃用症候群廃止に対する危機感が要望書からにじみ出てくる。しかし、「新たなそして厳格な廃用症候群の定義作り」を厚労省にお願いしていることはいただけない。専門家集団が知恵を出し合って提案することが先決である。


 廃用症候群の病名をつけている対象は、大きく分けて以下の2つである。

  • 悪性腫瘍、臓器不全などで侵襲が大きい治療を必要とする病態
    • 開胸術、開腹術を行う状態
    • 化学療法、放射線療法を行う状態
    • 人工呼吸器装着を必要とする状態
  • 予備能力の低い患者に対し治療を行う場合
    • 高齢者、障害者、幼少児


 厚労省が想定していたのは、前者である。自治体によっては、肺炎後の廃用症候群を「人工呼吸器を装着した者」に限定するところがある。しかし、実際に多いのは後者である。要介護高齢者は、ちょっとした肺炎ですぐに寝たきりになる。在院日数短縮が至上命題となっているDPC病院に入院すると、ADLが低下した状態で自宅に退院となる。寝たきりは病院で作られる。
 脳血管障害や骨関節疾患のように運動機能に障害を及ぼす疾患の場合、発症・受傷当日よりリハビリテーションを行うことの重要性は知られている。しかし、侵襲が大きい治療や予備能力の低い患者に対し、治療開始時から関わることは、診療報酬上の規定もあり困難である。つい最近、発症当日の肺炎に対し廃用症候群の病名をつけリハビリテーションを行っていると豪語している医師に出会った。要介護高齢者の場合、できる限り早くリハビリテーション医療を提供すべきだという意図とは思ったが、「治療時の安静に伴う廃用症候群」という診療報酬上の定義から逸脱していることは明らかである。
 早期リハビリテーション普及の立場からは、廃用症候群という病態名をレセプト病名から外した方が良い。その代わりに、「悪性腫瘍、臓器不全などで侵襲が大きい治療を必要とする病態」、「予備能力の低い患者に対し治療を行う場合」というカテゴリーを作り、具体的な病態像を示して、急性期病院でのリハビリテーションの普及を目指すべきだと考えている。