「予想どおりに不合理」その1

 行動経済学の名著、「予想どおりに不合理」を読んだ。気になったところをメモする。今回は第4章まで。

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」


# 行動経済学

  • 行動経済学は、心理学と経済学の両方の面を持っている。
  • 経済学は、「合理性」とよばれる基本概念が経済理論や予測や提案の基盤となっている。
  • 一方、わたしたちは不合理だけでなく、「予想どおり不合理」だ。つまり、不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される。このことを知ることは、よりより決断をしたり、生活を改善したりするための出発点になる。


# 相対性の真相
 人間は、ものごとを絶対的な基準で決めることはまずない。ほかのものとの相対的な優劣に着目して、そこから価値を判断する。人は持てば持つほど欲しくなる。唯一の解決策は、相対性の連鎖を断つことだ。

  • 選択肢が3つあると、たいていの人が真ん中を選ぶ。
  • 値段の高い料理をひとつ載せておくことで、2番目に高い料理を注文する。
  • 「おとり」を加えることにより、単純な比較ができるようになったものを選ぶようになる。
  • 新モデルを加えると、比較対象となる以前の機種が売れるようになる。
  • 自分より少しだけ魅力的でない友人を連れて行くと、自分がもてるようになる。
  • 嫉妬やひがみは、自分と他人の境遇を比べるところから生じる。経営幹部の収入が公表されるようになって以降、幹部の報酬はうなぎのぼりに上昇した。

(差別、嫉妬などのネガティブな感情は比較対象があるから生まれる。)


# 需要と供給の誤謬
 伝統的な経済学では、製品の市場価格は、需要と供給で決まると考える。しかし、「恣意の一貫性」という概念があり、最初の価格が恣意的でも、いったんわたしたちの意識に定着すると、現在の価格ばかりか、未来の価格まで決定づけられる。

  • 人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手に入らないようにすればいい。
  • 価格を「刷り込む」: 新製品をある価格(学術用語ではアンカーという)で売り出すことに成功すると、以後ずっとその価格がついて回る。
  • 初期のDVDプレーヤーが高価だったことを覚えているため、現在の価格など破格の安さだと感じる。
  • 自分が前にとった行動をもとに善し悪しを判断する(「自己ハーディング」)。
  • スターバックスは、入店の経験がほかとはちがったものにするようにした。このことにより、スターバックスが用意した新しいアンカーが受け入れられた。
  • 過去のどこかで恣意的な決断をしたことが、人生に影響を与えている。

Macを選んだという恣意的決断をずっと引きずっている訳が分かった。)


# ゼロコストのコスト
 自分がほんとうに求めているものでなくても、無料!となると不合理にも飛びつきたくなる。それは、人間が失うことを本質的に恐れているからではないかと思う。しかし、この粘着力の強い無料!のせいで、罠にはまり、いらないものを買ってしまう。無料!は絶大な力を持ちうるし、それを利用するのはとても意味がある。

  • 無料で10ドル分のアマゾンギフト券を受けとるのと、7ドル出して20ドル分のアマゾンギフト券を受けとる調査では、後者の方がもうけが多いにも関わらず、前者の方を選ぶ。
  • 商売をしているのなら、何かを無料!にしたり、買い物の一部を無料!にした方が良い。
  • 無料!を利用して社会政策を推進することもできる。自己負担金をさげて検査費用を安くするのではなく、重要な検査は無料!にした方が良い。

(タダより高いものはない。○○ゼロという標記には気をつけろ!)


# 社会規範のコスト
 わたしたちは、社会規範が優勢な世界と、市場規範が規則をつくる世界に同時に生きている。社会的交換に市場規範を導入すると、社会規範を逸脱し、人間関係を損ねる。

  • デート相手とレストランに行ったら、料理の値段はけっして口にしてはいけない。
  • 社会的な人間関係はそう簡単に修復できない。社会規範は一度でも市場規範に負けると、まず戻ってこない。
  • 社会規範は従業員に忠誠心を抱かせ、やる気を起こさせる効果的な方法のひとつだ。
  • オープンソースのソフトウェアは社会規範の可能性を示している。
  • 短期利益や厳しい経費削減に執着するあまり、社会的交換が犠牲になっている企業では、従業員の生産性に影響が出るのではないか。
  • 国民健康保険制度のないアメリカでは、医療給付、とくに総合的な医療保障は、企業側が社会的交換の立場を表明する最良の方法だ。
  • Googleのように、社員にさまざまな特典を与えている企業を見ると、企業と従業員の社会的な面を強調することで、いかに友好ムードが盛り上がるかがわかる。
  • ここ数十年のあいだに市場規範がわたしたちの生活を少しずつ支配していることを考えれば、ある程度なら昔の社会規範にもどってもそれほど悪くない。

(米国でも、日本でも、新自由主義に基づく市場万能主義に対し見直しの機運が高まっている。)


 行動経済学という学問は、なかなか面白い。相対性、価格の「刷り込み」、ゼロコストの問題などは、意識することで日常生活の行動を変えることができそうな気がする。
 社会規範と市場規範の相克は面白いテーマだ。行動経済学の立場から市場万能主義へ批判を行っている。チーム運営や病院の経営問題を考えるうえでも参考になる。


(追記、2009年11月3日)
 私の感想・メモを追加し、( )内に記載した。