「予想どおりに不合理」その2

 行動経済学の名著、「予想どおりに不合理」のまとめの続き。なお、( )内は私の感想・メモである。

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」

予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」


# 性的興奮の影響
 性的に興奮していない状態では、自分が興奮したらどんなふうになってしまうか理解していないことが浮き彫りになった。誰もが「ジキル博士とハイド氏」である。よく知らない感情の領域で、不合理な自己が活発になることから身を守る方法を考えなければならない。

  • 怒りや熱情に身を任せず、ひと呼吸おく。
  • 性の自制だけでは不十分である。コンドームの普及、性的興奮にともなう感情への対処法を考えていく必要がある。

(恋は盲目。短気は損気。)


# 先延ばしの問題と自制心
 誘惑と戦い、自制心を少しずつ身につけていくのは人間の共通の目標であり、それを果たせずに繰り返し挫折するのは多くの苦悩の種になっている。

  • 先延ばしの問題を自覚すれば克服もできる。
  • 対策としては、自由を厳しく制限する方法と、事前に決意表明させる方法がある。

(最近、間際族になっている自分を反省。)


# 高価な所有意識
 人生のほとんどの部分を所有権のために費やしている。所有意識が行動に影響を与える。

  • 自分がすでに持っているものに惚れ込む。
  • 手にはいるかもしれないものではなく、失うかもしれないものに注目する。
  • ほかの人が取引を見る視点も自分と同じだろうと思い込む。
  • 販売促進のための「おためし」を経験してしまうと、余計にかかる料金もすぐに合理化してしまう。
  • 所有意識という病を治す既知の方法はない。しかし、それに気づくことは事態の重大化を防ぐ助けになるかもしれない。

(持たざる者は幸せなれ。)


# 扉をあけておく(選択の自由の問題)
 現代の世の中では、すべての選択の自由を残しておくために必死になる。価値のない扉(選択肢)にまどわされるうちに、価値のある扉を忘れる。
(捨てる技術。モラトリアムの時代。世の中の会議はほとんどが小田原評定選択と集中が重要。)


# 予測の効果
# 価格の力(プラセボ効果
 予測によって、その後に起こるできごとに対する見方が影響される。

  • 雰囲気が高級なら味も高級に感じる。
  • 料理にしゃれた材料を加えればおいしく感じる。
  • 非目隠し味覚テストでは、コカ・コーラのブランドがほうが快楽中枢の活動を促進させる。
  • 予測はステレオタイプも形成し、受けとり方や行動に好ましくない影響を及ぼす可能性がある。
  • 問題への思いが強くなるほど、「真実」について意見が一致する可能性は低くなる。
  • 事実はあかすが、どちらの側がどの行動をとったかをあかさないといった「目隠し」条件が真実を見きわめる助けになるかもしれない。
  • 高価な薬の方が安い薬より効果があるように感じる。
  • プラセボを働かせる予測は、信念と条件づけ。

(ミシェランが流行る理由。ランダム化比較試験などの臨床疫学がいかに有用か。)


# わたしたちの品性について
 世の中には二種類の不正がある。ひとつは強盗を連想させるような不正、もうひとつはふだん自分が正直者だと思っている人たちが犯す不正である。

  • 強盗事件より、従業員による職場での盗みや詐欺の被害額の方が劇的に大きい。
  • エンロン事件のように、ホワイトカラー犯罪は大損害を財政に与えかねないにも関わらず、ほかの犯罪ほど厳しく批判されないことの不思議。
  • 大きな違反行為には超自我の助けと監視と管理があるが、小さな違反行為の場合、超自我は眠ったまま目を覚まさない。
  • いったん職業倫理(社会規範)が低下すると、取り戻すのは容易ではない。
  • 不正直になりやすいことを自覚することが大事。
  • たいていの不正行為は現金から一歩離れたところでおこなわれている。電子商取引は、不正直になってしまいやすいかもしれない。

(大きな不正行為を起こさせないように相互牽制などのシステム整備が必要。)


# 行動経済学と無料のランチ
 行動経済学者は、人々が身近な環境から余計な影響を受けやすく、さまざまな形の不合理性にも影響されやすい。こう認識することで、よりよい決断をする道具や方法や政策を考える。「無料のランチ」とは、すべての当時社に純便益をもたらす仕組みのことと考える。
(無料のランチとは、社会保障制度の充実のことを示唆しているのではないか。)


 著者の研究のほとんどは、世界の頭脳というべきMITにいるあいだに学生たちを対象に行ったものである。秀才も人の子という感じがして、親近感を覚えてならなかった。一見不真面目だと誤解されないような研究に真摯につきあってくれたところに、米国のおおらかな気質を感じる。
 著者、ダン・アリエリー氏は、「同じ偽薬(プラセボ)でも値段の高いほうが効き目がある」という研究で、2008年度イグ・ノーベル医学賞を受賞している。重要だと思う点をメモしながら再読したが、新たな発見があり、一読しただけではもったいない。ためになり、面白い内容満載である。