ヤバい経済学

 Amazonのお勧めで、「ヤバい経済学」という本を読んだ。

ヤバい経済学 [増補改訂版]

ヤバい経済学 [増補改訂版]


 著者のSteven D. Levitt は変わり者の経済学者である。Freakonomics (freak + economics)という造語を見てもわかる。Freakという言葉は、日本語でも熱狂的ファンという意味で使われるが、異常に興奮させるという意味がある。「ヤバい経済学」という翻訳は適切である。実例も「麻薬の売人がそんなに儲けているのなら、彼らがいつまでも母親と住んでいるのはなぜ?」、「過去10年間に犯罪発生率を大幅に引き下げたものはなに?」といった一般的な経済学者が扱わないものを好んでとりあげている。
 経済学は世の中が実態を示す計測の学問であり、情報の山をかきわけ、要因が何かを明らかにする。その手法を「面白い」ことの分析に用いている。中心課題はインセンティブと通念の誤りである。
 インセンティブは現代の日常の礎であり、経済的、社会的、道徳的の3種があることを示す。社会的インセンティブとは、悪いことをするやつだと見られたくないというものであり、道徳的インセンティブとは悪いとわかっていることをやりたくない、という意味である。この3つのインセンティブが相互に関わりあって、人間の行動を左右する。したがって、保育園のお迎えの遅れを防ぐために、少額の罰金を親に課すと、道徳的インセンティブ(遅れた親が感じる罪の意識)が経済的インセンティブ(罰金)に置き換わり、堂々と遅刻を繰り返すことになる。
 通念はだいたい間違っている。専門家の主張の根拠は意外に乏しい。分析手法が重要である。統計学計量経済学など、使っている手法はきわめて高度である。一般向け書物なので、出てくる数値は必要最小限である。ただし、付録に文献が掲載されており、検証可能となっている。多変量解析の話もさらっと出てくる。バイアスや交絡因子の調整をした上での結論なので、導きだされる結論は興味深い。
 医療の世界でも出てくる、利益相反(Conflict of Interest)やEBM(Evidence based medicine)に通じる話だなと感じた。特に、前者に関してだが、企業などとの癒着に関してのみ使用されがちだが、インセンティブという概念から考えると、もっと幅広いものとなる。公民権運動やフェミニズムなども、自らの主張を広げるというインセンティブに基づくものであり、社会活動に影響を与えるものと指摘している。特定の考えにとらわれ、自説を補強する研究のみしか信じないという確証バイアスに満ちた主張を見聞きすると、利益相反の立場からみて問題があるなと常々感じる。
 本書が取り上げる話題は様々である。ク・クラックス・クランやクラックという麻薬密売組織の話が病んだ米社会の実情も垣間みることができる。全米のベストセラーで続編も既にだされている。Amazonは私の興味をよくわかっているようだ。購読して読んでみることにする。


超ヤバい経済学

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