書類地獄

 月初めは憂鬱である。レセプトコメント書きのせいだ。それでなくても、この数年の書類の増加は異常である。勤務医の負担軽減のために医療クラークを置くと診療報酬がつくことになったが、大病院に限られる。中小病院の医師は、医師数不足もあり、そのまま書類の海におぼれている。


 書類記載が全て嫌いな訳ではない。診療に直結する書類は問題ない。サマリー、入院診療計画書、リハビリテーション総合実施計画書、退院療養計画書などは書いていても全く負担ではない。
 リハビリテーションの場合、患者を多面的に捉えることが求められる。ICFでいうところの、健康状態、心身機能・構造、活動、参加、背景因子などを、診察の中で丁寧に把握することによって、障害の全体像が浮かび上がる。カンファレンスで各職種と論議する中で、医師の目からだけでは分からない患者の生活が明らかになる。先程あげた書類は、そのような取組みの中で作成されていく。書式自体に問題点は多々あるが(リハビリテーション総合実施計画書の偏向は特に甚だしいが)、書類をまとめ、患者や家族とじっくり時間をかけ、治療方針を共有していく過程は、医療内容の充実につながる。


 患者や家族の利益につながる書類も我慢できる。退院後の生活設計のため、介護保険利用を積極的に勧めると、主治医意見書記載という負荷が医師に生じる。また、身体障害者手帳取得を勧めたりすると、面倒な診断書が待っている。障害年金診断書も同様である。
 生命保険会社に出す入院証明書に対しては、やや複雑な感情を持っている。患者の自己負担が抑えられていれば、誰も民間の医療保険に入るメリットはないだろう。患者負担増加と規制緩和の影響で、アメリカの生命保険会社が日本市場に入り込んだ。この結果、医師が入院証明書を記載する手間が増えてしまった。


 最も嫌悪しているのは、医療費削減を狙って厚労省が負荷してくる書類である。リハビリテーション医療の世界では、この手の書類が増えている。まず、疾患別リハビリテーション料標準日数超患者に対するレセプトコメント記載が義務付けられた*1。2008年度からは、廃用症候群に対してもレセプトコメント書きが必要になった*2。発症から長期になった者や廃用症候群患者に対しリハビリテーションを積極的に処方している医師に対し、懲罰が与えられた。
 同種の書類に看護必要度もある。特に7対1入院基本料算定の条件に、毎日看護必要度をつけなければいけないなどという制限は、看護師いじめとしか思えない。欧米と比較してはるかに低い看護基準を考えると、7対1までは無条件に認めるべきである*3


 去る8月27日に行われた中医協総会で、後期高齢者特定入院基本料該当患者の場合、「退院支援状況報告書」を毎月社会保険事務局に提出すれば、機械的に診療報酬削減の対象としないことが決まった*4。病院負担を増大させる書類がまた1つ増えた。


 医療費削減を目的とした書類増加は、医師負担増につながり勤務医の立ち去りを促進する。もし、本当に、病院勤務医の負担を軽減しようとするのならば、嫌がらせとしか思えない各種書類を撤廃するところから始めるべきである。